夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転27

 生徒達の教育が始まり、4週目が終わった3年A組の教室で事件は起きた。
 1人の女生徒が自分の席に座り、3人の女生徒に囲まれ、小さく縮こまっている。
 3人の女生徒は3年の中でも、余り風評の良く無い生徒で、学校側も問題視していた生徒であった。
「ねぇ、どうしたのかな? 今更、そんなに態度変えなくても良いじゃない…。どうして逆らう気持ちになったの?」
 女生徒の一人が猫撫で声で、真ん中に座る小学生の様な女生徒に問い掛ける。
 女生徒は俯きながら、一点をジッと見詰め、何の言葉も返さない。
「おい、聞こえてんだろ? シカトかよ! 良い度胸じゃ、ねぇか!」
 女生徒の一人が、甲高い声を精一杯低くして、ドスを利かせたつもりの声で恫喝する。

 真ん中の椅子に座る少女の様な女生徒は、机の中に両手を差し込み、ジッと俯いたまま動かない。
 女生徒の名前は、中山悦子(なかやま えつこ)成績中の中、運動神経下の上、身長145p体重41kg、スリーサイズはB68W55H70、得意技は[同化]である。
 影が薄く存在感のない事から、クラスメートの1/4は彼女の名前を覚えていない。
 この3人組が悦子に付けたあだ名は、[サイフちゃん]である。

 その少女が今、幼体から成体に変わろうとして居た。
 あたかも、芋虫がさなぎを経て蝶へと羽化する様に、その精神は全く別の物へと変わろうとして居る。
 女生徒の1人が悦子の頬に平手を打ち付け
「早くいつもの様に出しなさいよ。今日は5万円で勘弁してやるからさ」
 悦子に命令した。
「…ないわ…」
 俯いた悦子の口から、ポツリと小さな言葉が漏れる。

 悦子を打った女生徒は、五代純子(ごだい じゅんこ)学校の女子不良グループリーダーの腰巾着をしている。
 正面に立ち、見下ろしている女生徒は、林葉桜(はやしば さくら)学校の女子不良グループで、手が早い事で有名だ。
 そして、猫撫で声を出していた女生徒、谷本薫(たにもと かおる)は、狡がしく立ち振る舞って悪事の尻尾を掴ませない、学校の女子不良グループリーダーである。

 悦子の呟きを聞いた桜が、キョトンとした表情を浮かべ、大笑いしながら
「何が無いんだよ! てめぇのサイフにゃ、万札がたんまり入ってんだろ!」
 表情を変え、胸倉に手を伸ばす。
 桜の手が胸倉を掴んで、引き寄せるとその弾みで、悦子が顔を上げた。
 顔を上げた悦子の表情を見て、胸倉を掴んだ桜は、ギョッとした表情を浮かべる。
 いつもなら、怯えて涙を湛えている悦子の表情が、ニッコリと微笑んでいるのだ。
 そして、その口から歌う様に
「怖くないわ…」
 言葉が漏れると、桜の腕に凄まじい痛みが走った。

 余りの痛みに腕を押さえ、転げ回る桜。
 突然の出来事に、悦子を見詰め固まる薫。
 仲間を心配して、駆け寄る純子。
 そんな3人に一切意識を向けず、ユックリ椅子から立ち上がる悦子の手には、どす黒く変色した[砂鉄鞭]が握られていた。

 悦子は鞭をユックリと持ち上げると、頬摺りして
「ほら、怖くないわ…これが有れば、私は何も怖くない…」
 ウットリとした表情で囁いた。
 3人の女生徒は、突如牙を剥いた[サイフちゃん]に驚愕の視線を向ける。
 悦子が頬摺りを止め、スッと鞭を差し出すと
「うふふ…。これ、凄いのよ…。あのね、怖くて仕方がなかった、木村さんの家のベスがね…。キュンキュン鳴いて、動かなくなったのよ…。最後は、鞭打つたびにビクビク震えてね…グズグズに成っちゃった…」
 3人の女生徒に微笑みながら、ユックリとした口調で話した。

 3人の女生徒は、その微笑みを見て、全身に寒気が走る。
(やばい! こいつ狂った!)
(ひ〜…、この子おかしくなちゃった!)
(いや、何この子…。殺される!)
 しかし、その直ぐ後悦子の言葉を聞いて、3人の女生徒は更に震え上がった。
「今まで、いっつも遊んでくれたわね…。今日からは、私が遊んで上げる…、死にたくなったら言ってね…。私が殺して上げるから…、死体は、パパに言えば何とでも成るし…」
 悦子はニンマリ笑うと、ユックリと鞭を振り上げる。

 途端に両横に居た薫と純子は、蜘蛛の子を散らす様に逃げだし、正面にいた桜は動けないまま、恐怖に顔を引き痙らせ、悦子を見詰めた。
 悦子は微笑みながら、その女生徒の頭に向かって、[砂鉄鞭]を振り下ろす。
 鞭は重い音を立てて、桜の頭に巻き付き、意識を頭の中から弾き飛ばした。

 ゴトリと音を立て、床に頽れた桜を無視し、悦子は顔を扉に向かった、純子に向ける。
 純子は必死の形相で、扉を開けようとしたが、内鍵が掛かっているため扉が開かなかった。
 それに気付いて、内鍵に手を伸ばした純子に
「駄目〜っ。出して上げない〜」
 悦子が近づいて、腰の上に鞭を振り下ろす。

 腰の上を鞭打たれた純子は、その一撃で腰から下が痺れ、膝が抜ける。
 恐怖と苦痛に顔を歪めながら、純子は悦子に許しを請う。
 悦子はニッコリと笑い掛けると
「ほら、そんなに泣かないで。だって、どんなに泣いても、される事は一緒なんだから…」
 純子を絶望の淵に追いやる。

 悦子はスッと立ち上がると、鞭で教室の真ん中を指し示し
「戻りなさい…。どうする? 私に鞭で追い立てられるのが良い? それとも、自分で戻る? 選ばせて上げるわ…。2秒だけ…」
 悦子が指示すると、純子は一瞬考えたが、悦子が数字を数えだした瞬間、痺れた下半身を引きずり、必死の形相で元の場所に戻った。

 悦子はユックリと顔を、最後の1人に向ける。
 最後の1人は、教室の窓側の一番後ろに、腰を抜かしてバタバタと藻掻いていた。
「どうする? 迎えが必要? 私がそこまで行ったら、これを漏れなく上げるけど、どうする?」
 悦子がそう言いながら、鞭で薫を指し示すと、薫はビクリと震え
「い、良い…です…。行きます…。来ないで、良いです…」
 悦子に震える声で告げ、バタバタと慌てて戻ってくる。

 昏倒した桜の側に、他の2人が集まると、悦子はユックリ3人の前に歩いてくる。
 悦子はスッと昏倒した桜を、鞭で指し示すと
「逃げられない様に、全部脱がせて…」
 2人に命令する。
 薫と純子は、躊躇しながらも、昏倒した桜の制服と下着を剥ぎ取り、全裸にした。

 悦子はそのまま、薫と純子に鞭を移し
「貴女達も脱ぐのよ…」
 ニコニコと笑いながら命令する。
 薫と純子は、恐怖に顔を引き痙らせながら、命令に従いモソモソと制服と下着を脱ぐ。
 3人の制服と下着を手に取った悦子は、それを教室の中に有った、誰かのスポーツバッグの中に詰め込み、天井からぶら下げられている、テレビの上に放り投げる。
 バッグはテレビの上には乗らなかった物の、固定している台に引っかかり、手が届かない位置で止まった。

 悦子は満足そうに笑いながら、3人の元に戻り
「いつまで寝てるの!」
 鋭い声を上げ、昏倒している桜の背中に鞭を振り下ろす。
 昏倒していた桜は、痛みで意識を引き戻し、呻きながら目覚める。
「さぁ、立ちなさい…。これから、貴女達に[借りていた物]と[貸していた物]の精算をします。方法は貴女達に選ばせて上げる、私の提示する方法でどちらか選んでね」
 悦子がそう告げると、昏倒していた桜が、自分が全裸である事に気付き
「な、何だよこれ…、一体どうなってんだ!」
 床の上で身体を丸めながら、悦子に怒鳴り散らす。

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