夢魔
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■ 第29章 暗転28

 悦子は怒鳴り散らす桜に
「だ・か・ら、今から精算をするって、言ってるでしょ。好い加減理解しなさいよ、馬鹿…」
 薄笑いを浮かべ、何度も鞭を振り下ろす。
「ぐへっ、ぎひぃ、がっ、ぐふぅ〜。わ、解った…解りましたー。言う事聞くから…、それで打たないで…」
 一番暴力的だった桜の心が折れた。

 悦子はニンマリと微笑むと、3人を正座させ話し始める。
「[借りていた物]の精算からね…、貴女には27発…貴女は56発…、貴女は一番多かったわね、確か109発借りてたわね…」
 悦子の問い掛けに、始め意味が分からなかった3人が、その数字と[発]と言う単位で、[借りていた物]の意味を理解した。

 悦子は3人がその意味を理解し、鞭を見詰め蒼白に成って行くのを、楽しそうに見詰め
「で、ここからが本題よ…。どちらが良い? この鞭で返して貰うのと、貴女達で返し合うの…選ばせて上げるわ…」
 3人に向かって提示する。
 3人はお互いに顔を見つめ合い、鞭を拒否すると悦子は大きく頷いて
「じゃぁ、貴女と貴女…、そこに立って向き合いなさい。貴女はここで四つん這いに成るの…」
 3人にそれぞれ命令を下す。
 3人は言われた通りの配置に付くと、悦子は四つん這いに成った、薫の背中に座り
「そのまま、お互いに顔を叩き合うのよ…。手を抜いたら、この鞭が飛ぶわよ…。さぁ、始めなさい貴女が56発叩いた所で、選手交代…」
 [借りていた物]の精算方法を教えた。

 桜と純子は、悦子の言葉を聞いて項垂れたが、鞭打ちの恐怖に勝てず手を持ち上げ、桜が純子の頬に掌を打ち付けた。
 パシンと軽い音を立て、純子の頬がうっすらと赤く染まる。
 その瞬間悦子の鞭が、2人の身体に飛び、2人は呻きながら床に這い蹲る。
「手を抜くなって言ったでしょ。手を抜いたら、2人共に与えるからね…、この鞭で100発以上叩かれたら、本当に全身バラバラになるわよ…そこの所忘れないでね。私は別にそれでも構わないけど」
 悦子が桜に告げると
「思い切りやってよ…、あれマジで洒落になんないからさ…」
 純子が泣きそうな顔で、桜に懇願する。
 2人はお互い頷き合うと、双方の頬を思い切り叩き始めた。

 10発程叩き合うと双方の頬は、真っ赤に腫れ上がり、お互いの掌もジンジンと痛み始める。
 20発程で手の痛みが強くなり、お互いの頬を張る力が弱くなった。
 ベチッと情けない音を立てて、純子の平手が、桜の頬を打つと[ビスッ][ドフッ]っと、重い音を立てて、2人の腰に悦子の鞭が容赦無く降り注ぐ。
 2人は激しい苦痛に歯を食い縛り、お互いの頬を、慎重に思い切り叩き合った。

 悦子は四つん這いに成った薫の髪の毛を掴み、2人の方に向けさせると
「ほ〜ら、もうじき貴女もあんな顔に成るのよ…。良〜く見てご覧…」
 囁く様に耳元に呟いた。
 四つん這いに成った薫は、その顔の余りの惨状に、ヒッと声を詰まらせる。
 2人の顔は、倍以上に腫れ上がり、両鼻からの鼻血は勿論の事、口の端からもダラダラと血を流し、血みどろになっていた。

 2人の目には力が無く成り、最早どうして自分達がこんな事をしているか、解らなく成っている。
(いたい…、なにすんのよ! …28…。いたい…、なにすんのよ! …29…)
 頬に当たる衝撃とそれに対する反射で、左右の掌を交互に薙ぐ。
 自分の掌に衝撃が走り、数字を数える。
 延々続くかと思われた、行為が突如中断した。
 桜の一撃が、とうとう純子の心を砕いた。

 純子はしゃがみ込み、頭を抱えて
「もう、もう許してよ〜…」
 号泣し始める。
 悦子はそんな純子に
「何? もう降参なの? だらしないのね…29発打たれたから、あと27発有るわ。貴女にはさっき1発上げたから、あと26発ね…何処が良い?」
 冷たく告げながら、鞭を数度素振りした。
 [ブオッ]と言う鈍い風切り音に純子の背中がガクガクと震え
「や、止めて…そんなので、26回も叩かれたら…私死んじゃう…」
 純子は蹲ったまんま、恐怖に染まった眼で悦子を見上げ、呟き、哀願する。

 悦子は冷たい目線をニッコリと微笑みに変え
「死んだらパパに処分して貰うから、気にしなくて良いわよ…。さてと、言わないなら何処を打っても構わないわね…」
 悦子はそう言いながら、おもむろに鞭を振り上げ、純子の後頭部に鞭を叩き付けた。
 手で頭を庇っていた純子だが、鞭の衝撃はその程度で庇える物では無く、激しく脳を揺らす。
 純子は一撃で三半規管を揺らされ、クラクラと頭を振り、眼は左右別々の方角を彷徨い、崩れ落ちる。

 悦子はそんな純子を大笑いしながら、次の鞭を正座して突き出す形になっているお尻に向かって、真横から薙いだ。
 鞭は純子のお尻を水平に打ち付け、身体を押し出す様に当たり、純子の身体は床に向かって投げ出され、頭から机の足に突っ込む。
 ガシャガシャと派手な音を鳴らし、純子の身体は机と椅子の間に埋もれ、意識を引き戻す。
 悦子が更に純子を追って、机と椅子を蹴散らしながら近づくと
「お、お願いします! もう、もう打たないで! 何でもします! お願い許して!」
 純子は余りの痛みに、リアルな死の恐怖を感じ、悦子に懇願した。

 悦子は純子の前で仁王立ちになると
「ふぅ〜ん…。どうしようかな? 良し、じゃぁ、お金で売って上げるわ。1発幾らにする?」
 ニコニコ微笑んで、純子に問い掛ける。
 純子は突然の悦子の申し出に、キョトンとした顔を向けると
「あっ、えっ、えっと…1発…100円…ぐらい…かな…」
 おずおずと値段を提示した。

 悦子はニッコリと微笑み
「本当にそれで良いの? 貴女達私から2年3ヶ月の間に80万円近いお金を借りてるの、忘れてない? あんまり安いとそのお金の分も、鞭で徴収しちゃうわよ…。そうね、これの1発のお値段が、[鞭打ちするのが勿体無い]って、思える金額じゃなきゃ…私は、鞭打ちを選ぶわ…。3人で割っても1人25万円は有る、1発1万円でも25発も打てるんですもの、私はそっちを選ぶわ…」
 純子達に[貸している物]の取り立てを提示する。

 悦子の言葉に愕然とする純子。
 いや、純子だけでは無く、薫も桜も愕然とする。
「さぁ、どうする? 良く考えてから、値段を付けなさい…」
 悦子の微笑みを浮かべた顔が、キュッと残忍に歪む。
 純子は項垂れながら
「1発…5万円で…お願いします…」
 悦子に値段を告げる。

 悦子は高らかに笑いながら
「そう、5万円ね…。その金額なら、私も鞭打ちは躊躇うわね…。良いわ、5万円で売って上げる、貴女は私に24発分120万円と25万円…、併せて145万円払いなさい。今までは無利息だったけど、これからは10日で1割の利息を貰うわ…。早く返さないと鞭で取り立てるわよ」
 純子に告げ、ユックリと後ろを振り返り
「貴女達はどうするの?」
 薫と桜に問い掛ける。
 薫と桜は、蒼白な顔をして、突如変貌した[サイフちゃん]を震えながら見詰めていた。

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