夢魔
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■ 第29章 暗転29

 白井は3年A組の教室で、探し求めていた[砂鉄鞭]を見つける。
(犯人はあの子ね! 許さないわ)
 扉に手を掛け踏み込もうとしたが、扉には鍵が掛けられ開かなかった。
 白井は直ぐに踵を返して職員室に戻り、教室のマスターキーを手に取る。
 しかし、白井はその行動を校長に見咎められ
「白井先生! マスターキーの無断持ち出しは、禁止されてますよ。ちゃんと、管理簿に記載し、用件を明らかにして…」
 マスターキーの取扱注意事項を説明されたが
「生徒同士が揉めて居るんです! 直ぐに止めないと、大変な事になりますよ!」
 金切り声で、校長に怒鳴りつけ脱兎のごとく、職員室を飛び出して行った。

 白井の言葉にポカンとしていた校長は、事の重大さを感じ、急いで白井の後を追う。
 校長が教室棟の2階に消える白井の後ろ姿を認め、その後を追い2階に上がると、白井が教室の中に消えた。
 校長が白井の消えた教室にたどり着くと
「それを返しなさい! 貴女の物じゃ無いでしょ!」
「いや! これは、私が見つけたの! 私の物なの!」
 教室の中から、揉み合う音と怒鳴り合う声が聞こえる。

 校長が息を切らせて教室に入ると、全裸の女生徒が3人教室の隅で、座り込み。
 真ん中で、白井と悦子が鞭を手に揉み合っている。
「何をして居るんですか! 白井先生、それと君は…。ええい、誰でも良い! 直ぐに止めなさい!」
 校長は悦子の名前を思い出そうとしたが、一向に思い出せず、取り敢えず争いを止める様指示した。
 だが、2人は一向に争いを止めない。
「何をしている! 一体この騒ぎは何だ!」
 校長の背後から、低い男の声が響き、白井と悦子はビクリと震えて、動きを止める。

 校長自身も驚き、背後を振り返るとそこには迫田が立っていた。
 迫田はユックリと、教室に入り中を確認する。
「これは、どう言う事なんだ、説明して貰おうか」
 迫田が白井と悦子に説明を求めると
「この子が、私の大切な物を盗んで、使っていたんです!」
 白井が迫田に、鞭を指し示して説明する。

 すると悦子は、鞭を自分に引き戻し
「これは、私が見つけた、私の宝物なの! だから、離してよ!」
 悦子が迫田に縋り付く様な眼で訴える。
 迫田はフゥと1つ溜息を吐くと、除け者にされた校長が
「何だ…、鞭の1つぐらい呉れてやれば良いじゃないか…」
 ふて腐れながらポツリと呟く。

 その言葉を聞いた迫田は驚きの表情を浮かべ、白井は校長を睨み付け、悦子の顔は輝いた。
 迫田と白井の表情を見て、自分が何か不味い事を言ってしまった事に気付き
「ど、どうしたんだ? 私は何か変な事を言ったのか?」
 狼狽えながら、迫田に小声で問い掛けると
「ええ…あの鞭は、特別製です…。グリップの所に赤く3本のラインが入ってるでしょ…。あれは、ランクAと言って、一点物で相当管理が煩いんですよ…」
 迫田は困り果てた表情で、校長に告げる。

 悦子はそんな迫田達のやり取りなど全く興味を無くし
「校長先生が[良い]って言ったんですからね、これは私の物よ」
 白井に向かって言い、鞭を引き寄せた。
 白井はそんな悦子にアッサリと鞭を引き渡すと
「そうね、校長先生が許可したなら、私にも異存はないわ。それは、貴女の物よ」
 ニッコリと微笑んで、悦子に告げる。
(これで、私の責任は無く成ったわ…。責任さえ求められ無かったら、あんな鞭の一つや二つどうでも良いわ)
 白井は自分が罰を受けなくなった途端、掌を返したのだ。

 迫田が溜息を吐き肩を竦め、校長がオロオロとし、白井が余裕を取り戻す様を見ながら、隅に固まった女生徒達は、何故この3人の教師が自分達に関心を示さないのか、不思議で仕方がなかった。
(ちょ、ちょっと…、この状況で言い争う事が、[鞭]の事? そこは可笑しくない?)
(何だよ…何で、私の顔を見て、私達の姿を見て、校長達は何も言わないの…)
(暴力事件よ! 暴行事件だし、全裸なんだから破廉恥事件なのよ! 何で無視してるのこの人達!)
 3人は抱き合いながら、校長達の行動の可笑しさに、首を傾げる。

 そんな3人に始めて白井が意識を向け、顔を確認すると
「あら? 貴女達…、確か谷本さん、林葉さん、五代さんよね…。そんな格好してるから解らなかったわ。中山さん、この子達は貴女と同類なのよ…ほどほどにね…。今の貴女なら、私の言葉解るでしょ…」
 3人の名前を確認し、悦子に向かって釘を刺した。
 悦子はコクンと頷くと
「はい、白井先生と迫田先生も同じなんですね…。何となく解ります…」
 白井に向かって、始めて丁寧に告げる。

 白井と迫田はニヤリと悦子に微笑むと
「後で君たちも呼び出しがあると思うが、それ迄は成るべく大人しくするんだぞ…。これから学校は大きく変わる。君たちが変えるんだ…」
 迫田が踵を返しながら、悦子に告げ教室を後にする。
 白井も迫田の後を追う様に教室を出て行くと、校長も何も言わず後を追った。

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