夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転31

 狂が伸也に株を教えて、5日経った昼。
 伸也は狂を探しに、学校に来ていた。
 伸也は狂の指示した通りに売り買いし、1千万近い金を手に入れ、興奮しながら狂を探している。
 狂はそれを監視モニターで見つけ、ニヤリと笑い音響装置を自動に切り替えた。
 効果は低くなるが、今はそんな事を言っている時では無いし、どのみち稔が抜けた時点で、計画通りの仕上がりは、無理な事が解っていたから、狂にはさしたる躊躇いも無かった。

 狂は旧生徒会室を出ると、伸也が移動するルートにそれとなく合流する。
 狂の後ろ姿を見つけた伸也が
「おい、工藤! 待てよ、ちょっと、待って呉れよ!」
 声を掛けながら、狂に近づいた。
 狂は立ち止まって、伸也が近づくのを待つと
「どうした? 学校に顔出すなんて、珍しいな…」
 伸也にポツリと告げる。

 伸也は息を切らせながら、狂の前で立ち止まり
「へへへっ…、親爺がよ…学校に顔を出せって…煩いんだ…。で、お前に…感謝がてら顔を出しったって感じだ…」
 息を整えながら、狂に告げた。
「感謝?」
 狂が訝しげに、伸也に問い掛けると
「ああ、お前が言った株。買ったんだよ…。4日で倍に成った」
 伸也はニヤリと笑って、狂に告げる。

 狂は軽く頷きながら
「ああ、あれか…。3千万ぐらい儲けただろ…」
 伸也に笑い掛けると、伸也は訝しそうな顔で
「いや? 700万突っ込んだから、儲けも700万だ…」
 狂にボソリと答えた。
 狂はそんな伸也を驚きの表情で見詰め
「お前、俺は買えるだけって言ったのに、限度まで買わなかったのか?」
 伸也に問い掛けると、伸也はキョトンとした表情で
「いや、口座に入ってた、700万全部買ったぞ?」
 狂に不思議そうに答える。

 狂は顔を押さえながら
「あちゃ…。信用買いの事、言って無かったか…。口座に有る金額の3倍まで、株は買えるんだ…」
 伸也に教えると、伸也は驚きの表情を浮かべ
「何! じゃぁ、俺は2100万円分買えたって事か?」
 狂に問い掛けた。
「ああ、そうだ…諸々さっ引いても、本来なら2千500万は勝てた勝負だったんだ…」
 狂は伸也に残念そうに、答える。

 伸也は狂の言葉に愕然とし
「んだよ! 何でそんな大事な事教えねえんだよ!」
 狂に噛み付いた。
「俺も、まさかろくろく調べないで、株に手を出すなんて考えちゃいねぇよ…。少しは調べろよ…」
 狂は呆れ果てて、伸也に告げると
「俺は、そんな小難しい事なんか、考えねえんだよ! 次無いのかよ、今回みたいに稼げる奴!」
 伸也は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、狂を問い詰める。

 狂は肩を竦めて、伸也に向き直り
「あのなぁ、こんな短時間で倍に成る株価なんて、本来無いんだよ。たまたま仕手筋の情報が入ったから、教えて遣ったんだ…。千載一遇のチャンスだったんだぜ…」
 その情報の希有さを語った。
 伸也はガックリと肩を落としながら、項垂れると狂が1枚の紙切れを出し
「ここに書いてある会社…今、伸びてる会社だ…。これに書いてある会社を、書き込んでる日に、書き込んでる金額まで買え…」
 そう言って、A4の紙を伸也に手渡す。
 伸也が手にした紙には、80社程の会社名と、株の最高買値と最低売値、それに予想変動日が書いてあった。

 伸也はそのメモを見ながら
「おい、これに書いてる株、俺が買おうと思ったら、全然金が足りねぇ…」
 狂に文句を言うと
「金が足りなかったら、お前の親爺の会社の株を担保に入れろ…。登録印…多分実印だ、それが有ればお前の口座に移せる。良いか、1つの会社の株を一挙に入れちゃ駄目だぜ。そんな事したら、親爺さんにバレる…そうだな5%づつぐらい、いろんな会社の株に小分けすれば、直ぐにはバレない…。勝ったら直ぐに引き上げて、元に戻せば誰にも知られない…。今までも親爺さんから、金をくすねてたんだ…大して変わらねぇよ」
 狂が伸也に入れ知恵をする。

 伸也は何度か頷くと、その紙をポケットに押し込み
「へへっ、ありがとよ…。今度また、遊びに行こうぜ…」
 そう言って、踵を返して廊下を走り出した。
「ああ、また機会が有ればな…」
 狂は伸也に背を向けながら、ニヤリと邪悪に微笑み、背中越しに手を振った。
(さて…、細工は隆々…、仕上げを御覧じろ…てね…)
 狂は含み笑いを強めながら、もう伸也から興味を消している。
 自分の仕掛けた花火が、いかに美しく散るか、狂の興味はそれだけになっていた。

◆◆◆◆◆

 狂と分かれた伸也は正面玄関に向かっている最中、1人の女教師と擦れ違い、ギョッとする。
 それは、すれ違った女教師の首に、赤い首輪が嵌められていたからだ。
 伸也は見間違いかと思い、後ろを振り返ってマジマジと見詰めるが、それは間違い無く犬の首輪である。
(な、何だ? 何であいつ、犬の首輪なんかしてるんだ? 何かの冗談か…)
 伸也は期末試験を受けてから、一度も学校に登校していないため、学校内の変化を一切知らなかった。
(親爺の奴が、学校に行けって言ってたのと、何か関係があるのか…?)
 伸也は首を傾げて、正面玄関の方に向くと、今度は3人の女教師が明るく話しながら、前から歩いてくる。
 その首にも、青い首輪が嵌められ、伸也は思わず見入っていると、女教師達はペコリと頭を下げて、伸也に挨拶をして横を通り過ぎた。

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