夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転33

 理事長室で19人の奴隷教師をチェックし終えた田口は、満足そうに頷くと
「これなら、私の知人にお披露目しても、何の問題もない…。理事長、ここの工事はいつ終わるんだ?」
 そう言って、指で天井を指し示しながら、伸一郎に問い掛ける。
 伸一郎は顎に手を当て考え込みながら
「確か、後5日程だな…。来週末には間に合う筈だ…、何せ週が開ければ、2学期が始まってしまうからな…」
 田口に答えた。
 田口は頷くと、満面に笑みを浮かべ
「なら、今度の土曜日にお披露目するとしよう…。人数は今のところ8人にだ…構わないだろう?」
 伸一郎に問い掛け、伸一郎は無言で頷いた。

 伸一郎は奴隷教師に服を着る様に命じると、伸也に向き直り
「伸也これを読むんだ…」
 そう言って、一冊の手帳を伸也に放り投げた。
 伸也はそれを受け取り、訝しげに見ると手帳を開く。
 煩わしそうに手帳を黙読していた伸也の眼が、大きく開かれ驚きの表情で、ページをめくる。
 暫く読んでいた伸也は、目線を手帳から外し、伸一郎に向けると
「こ、これ何だよ…。こんな校則作って良いのかよ…。これじゃ、一部の教師以外、生徒会の力の方が強いじゃないか…。それに、この[全ての罰則は、生徒会の責任者が指名する者が決める]って、これじゃ、生徒の処罰まで、生徒会長が決める事に成る…」
 呆気に取られながら、伸一郎に問い掛けた。

 伸一郎は大きく頷くと
「ほれ、その先にも書いて有るじゃろ…。まだまだ、権利は強く成ってるぞ…」
 伸也に先を読む様に促す。
 伸也は伸一郎に言われるまま、再び手帳に視線を戻し黙読し始める。
(うぉ! 罰則も自由自在じゃねぇかよ…。生徒の服装も、部活の予算も、委員会の編成も、学生生活の何もかも生徒会長が決められる…。クラス編成も思いのままじゃん…。こりゃ、生徒会長に成ったら、やりたい放題だぜ…)
 伸也はその校則の内容を読みながら、有る項目に目を止めた。

 伸也はその項目を読んで、思わず吹き出してしまった。
「親爺…、これは、反則だろ…[生徒会長は、理事長の承認を得て就任する]って。これじゃ、俺しか成れねぇじゃん…」
 伸也は手帳を閉じて、ニヤニヤ笑いながら、伸一郎に向かって手帳を放り投げる。
 伸一郎は手帳を受け取りながら
「馬鹿者…。生徒会長はお前じゃない。そこの工藤君が就任するに決まっとるわ! 何もしとらんお前が、成れる訳無かろう…」
 憮然とした表情で、伸也に告げた。

 伸也は問い返す様に顔を歪め
「んだよ、それ! んなの納得行く訳ねぇじゃん! 何で工藤なんだよ! 親爺〜!」
 伸一郎に喰って掛かる。
 伸一郎以下、その場にいた人間全てが呆気に取られた顔をしても、伸也は駄々を捏ねるのを止めなかった。
「俺ぁ〜やだぜ! 納得何かしねぇし、認めねぇ! 俺は、俺が生徒会長にならねぇんだったら、もう学校になんか来ねぇぜ!」
 昂然と胸を張って理不尽な我が儘を言う伸也に、誰もが呆れ果てる中
「俺は構わねぇぜ…。別に生徒会長になんか成らなくても、伸也が俺の言う事を聞いて呉れさえいりゃ、会長なんて肩書きは必要ねぇ…。なぁ、理事長…そうだろ…?」
 狂はアッサリ、会長職を譲り渡しても構わないと、意味深な言い回しで、伸一郎に告げた。

 伸一郎は一瞬呆気に取られた表情から、狂の意図を理解し、苦虫を噛みつぶした様な顔で
「そうか、工藤君自身がそう言うのなら、伸也に生徒会長をさせるが、問題ないか?」
 狂に再度問い直すと
「ああ、さっきも言った通り、俺の進言を伸也が聞き入れるのが条件だがな…。まぁ、そんなグジグジは言わねぇ…やり過ぎを修正する程度だ…」
 狂は肩を竦めながら、伸一郎に告げる。

 その狂の言葉を聞いた伸也が身を乗り出し
「工藤がそう言うなら、何にも問題ないな! なっ、なっ…親爺、俺が生徒会長だな?」
 伸一郎に念を押す。
 伸一郎は狂を見詰めながら、憮然とした表情で頷いた。
(この小僧…最悪な状況で権利を譲り渡しやがる…。これだけの証人が居る中…、伸也の馬鹿丸出しの申し出の後だと、伸也がお飾りなのが丸解りだ。狙ったにしても鮮やか過ぎる…、一体何を考えてるんだ…。このままだと、実権はこのガキの物じゃないか…。全く、忌々しい!)
 狂の意図に気付きながらも、伸也の行動のため、何の文句も言え無く成った伸一郎は、内心歯噛みする。

 しかも、狂の真意を、黒澤、京本、大貫、山孝の主要4教師と田口の5人が気付いていた。
 伸一郎はそれも理解したため、この後狂を排斥する事が困難になる。
 狂を嵌めるつもりだったのが、いつの間にか、自分が嵌められていたのだ。
(伸也程度では、この小僧の相手は無理だな…。何とかせんといかん…)
 伸一郎は、狂の狡猾さに警戒心を強め、次の打開策を模索し始めた。

 狂は何処吹く風で、伸一郎の視線を軽く流し
「俺は、まだ教育の調整が残ってるから、これで帰らして貰うぜ。伸也、新生徒会室見て行けよ。これからお前の城になる場所だ…」
 狂は伸也に言いながらも、視線は伸一郎に向けられ、口の端でニヤリと笑う。
 その表情は、伸一郎の意図は新生徒会室を見た時に、気付いていたと言わんばかりだった。
「お、何だよそれ? そんなの何処に有るんだよ親爺」
 伸也は何も気付かず、伸一郎の方に身を乗り出して、問い掛ける。
「管理棟の3階がそうじゃ! お前も、もう用は無いじゃろ。直ぐに見に行け!」
 伸一郎は不機嫌に伸也に告げると、伸也は驚いた顔をしながら、理事長室から逃げる様に出て行った。

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