夢魔
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■ 第29章 暗転34

 伸一郎はその苛立ちを持ったまま、教師達にも解散を命じると、教師達は理事長室を出る。
「クソ、あのガキ…。こっちの裏の裏まで読んで来やがる…。全く、忌々しいわい…」
 田口と2人になった伸一郎は、思わず苛立ちをぶちまけると
「クククッ…、鬼畜の竹内も形無しだな…。たかだか高校生に翻弄されるなんて…」
 田口は可笑しくて堪らないといった表情で、伸一郎を笑い冷やかした。
 伸一郎は田口の揶揄に、益々ムッとした表情を浮かべ
「あのガキは、普通の高校生じゃ無いんだ! アメリカでも要注意人物に指定されているらしい」
 歯噛みしながら、田口に告げると
「だが、子供には違いない…。何なら儂が、少しお灸を据えてやろうか?」
 田口はニヤリと笑って、伸一郎に言った。

 伸一郎はジロリとにらみ返し
「要らん事はするな。まだ、あいつは利用価値もあるし、壊されちゃ困る…。儂がそのうち大人しくさせてやる…」
 田口の申し出を、一蹴する。
 田口はその容貌から、狂を完全に舐めてかかっていた。
 その奥に秘められた毒牙がどれほど鋭く、その牙から穿たれる毒がどれ程悪質か、全く理解していなかったのだ。
 それを痛感した時、自分がどう成るかなど、全く想像の範疇を超えていたのだ。

◆◆◆◆◆

 4週目が終え、5週目に入った日曜日、学校の会議室におおよそ1クラスから4人、計56人の生徒が呼び出された。
 その中には、1年と2年の男子生徒全員と、3年の不良グループが入っている。
 勿論狂も、伸也もその中に含まれ、ざわつく会議室で席に着いていた。

 指定されていた時間が来ると、会議室の扉が開き、校長と教頭が現れ、演壇に立つ。
 皆私語を止めながら、校長に視線を向けると、スッと教頭が演壇に立ち
「今日集まって貰ったのは、他でも無い…この学校の新学期からのシステムを、理解して貰うためです」
 説明を始める。
 教頭の言葉に、皆一様に首を傾げると、教頭に代わり校長が演壇に立ち
「2学期から、この学校の基本方針は、自由と友愛から、規律と服従に変わります。これは、決定事項なので覆る事は有りません。それと、これからは生徒間の自主性を強めていき、教師は基本的に教育のみを行います。一部の上級指導教員は、生徒間の問題にも口出しし、強制もしますが、他の一般指導教員と普通教員は、生徒に対する強制力を持ちません。そして、生徒間の問題は生徒会役員と各学年委員で、全て処理して頂きます」
 校長が宣言した。

 皆この言葉を聞いて、ザワザワとざわめき、近くの者と相談を始める。
 教頭はそのざわめきに対して、パンパンと大きな音を立て、手を叩き皆を黙らせながら
「はい、静かに! 竹内伸也君、工藤純君出て来て下さい」
 伸也と狂を呼び出し、壇上に呼び寄せる。
 伸也がニヤニヤ笑いながら壇上に上がり、狂が無表情で続くと
「彼が生徒会長を務める竹内伸也君、こちらが副会長の工藤純君です。この2人が、この後各役職を貴方達に任命します」
 教頭が残りの全員に、伝えて壇上から降りる。

 伸也が壇上から就任の挨拶をするが、全員理事長のコネである事を理解していてたため、その話しに耳を傾けないで、伸也の隣にいる小さな美少年に皆目を奪われ、不思議そうに見詰めていた。
 伸也はそんな全員の態度など、全く気にする事無く有頂天のまま、就任の挨拶をし
「庄一、伸介、弘樹出てこいよ」
 自分の腰巾着の名前を呼んだ。
 名前を呼ばれた3人は、嬉しそうに立ち上がり、伸也の後ろに並ぶとそれぞれ、会計、書記、総務の役職に就く。

 生徒会役員が決まった後、伸也の変わりに狂が壇上に立ち
「3年の中山、2年の黒田、1年の明神…前に出て来い…」
 各学年から、1人ずつ呼び出すと
「お前達はそれぞれ、各学年の代表だ。それと、中山には風紀委員長を、兼任して貰う…。良いか?」
 狂は純の口調を真似る事無く、3人に達した。
 狂はもうこの時点で、自分の存在を隠す事を止めたのだ。
 それは、これから起こるべき事態に対して、純では止められない事が増える事を、考慮しての事だった。

 呼び出された3人は狂の指名に頷きながら、演壇の後ろに並ぶ。
 続いて、各クラスの学級委員長、2人の副委員長が指名される。
 それぞれ、各役職に付いたは良いが、何をして良いのか、全く解らなかった。
 そんな戸惑いを見せる生徒達に、狂はユックリと話し始める。
「今、お前達が付いた役職は、言わばお前等の立場そのものだ。学級委員長は、クラスを統率し、副委員長は委員長をサポートしろ。そして、何も言われなかった奴は、風紀委員だ。風紀委員は新しい校則と委員長の指導方針が徹底されているか、各クラスで監視しろ。違反する者は構わねぇ、クラス委員長だろうと誰だろうとしょっ引け」
 狂が説明を終えると、各クラス委員に指名された者が、ザワザワとざわめき始めた。

 1人の男子生徒が、驚きながら手を挙げ
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺別のクラスの委員長に成ってんだけど?」
 狂に問い掛ける。
 狂は無表情で、質問した男子生徒に
「おう、お前は2年D組担当だったな。新学期に入ると、クラスが変わるだけだ。これからは月に一回クラス替えが有ると思え…。理由は後で教えてやる」
 突き放す様に、男子生徒に告げる。
 質問した男子生徒は、狂の迫力に度肝を抜かれ、オズオズと口を噤む。
 狂が口を開こうとすると、伸也がしゃしゃり出て
「良いか、生徒会の決定は絶対だ! お前達はただ、俺達の決定に従えば良いんだ。文句が有るなら言って来い! 俺様が相手してやるぜ」
 伸也が回りを威圧する。

 その時、風紀委員長に任命された悦子は、しっかりと見ていた。
 自分の部下として選ばれた風紀委員は、誰1人伸也の威圧に、何の怯えも見せていなかった。
「各学級委員長と副委員長は、各クラスをまとめろ。風紀委員会は単独組織で俺の直轄だ。お前達に意見出来るのは、教頭と校長…、特別指導教師の黒澤と副会長の工藤…。後は親爺…理事長だけだ、これから新校則を守らない奴は、ビシビシ取り締まれ」
 伸也は全員に役割を告げる。
 会議室の生徒達は、皆頷きながら説明を理解し、伸也の指示に従う意志を見せた。

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