夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転35

 各クラス委員と風紀委員が決められると、全員会議室から出される。
 会議室を出ると教頭の案内で、全員管理棟一階に移動させられた。
 管理棟は、正門から30m程の位置に有り、正門と管理棟の間に、今まで前庭に有った自転車置き場が全て集められ、管理棟の入り口は道路から見えない様になっている。
 夏休みの補習授業中正門が閉鎖され、通用門から入り校庭に駐輪していた生徒達は、まさかこんな作りに変わっているとは思わず、皆呆気に取られていた。
 その上、正門の上まで覆う様に高さ10mのブラインドネットが学校全体を覆っているため、学校全体が暗い影に覆われている。

 うそ寒い雰囲気の正門と、他者を排除する様な自転車置き場の配置に、全員が眉を潜ませると、教頭は管理棟の説明を始めた。
 幅10m長さ30m程の長細いフロアーに集められて、全員が教頭の声に耳を傾ける。
「ここは管理棟と言って、管理するための棟です。何を管理するかというと…」
 教頭は言葉を句切って、その場の全員を見渡し、少し溜を作ると
「単純に、生徒です…」
 アッサリと全員に告げた。
 緊張して話を聞いていた生徒達は、ガクリと力が抜け[何だ]と口々に笑いながら、話し始めると
「今の内に笑っていて下さいね…その内、笑えなくなるから…」
 教頭はニコニコしながら説明を続ける。

 教頭の意味深な言葉に首を捻りながら、全員が教頭の後に続くと、教頭は壁に1つだけ付いている扉を指差し
「そこが、更衣室に成る。一般生徒は、ここで指定の格好に準備します」
 にこやかに説明した。
 全員首を傾げながら、その部屋に入ると、10m×20m程の部屋の中に、僅か通路幅70p程の間隔で、ビッシリとロッカーが置かれている。
 そのロッカーも幅20p高さ10p奥行き30p程の下駄箱の様なサイズで、全てに鍵が掛かる様に成っている。

 小さな蜂の巣の様なロッカーが、ビッシリと部屋一面に有り、学校の生徒全員分のロッカーが、その一室に収められていた。
「ここの管理は、風紀委員が行います。鍵は4段階有って、全ての鍵を開け閉め出来るマスターキー。各学年別に、鍵を開け閉めするチーフキー。各クラスの鍵を開け閉めする、リーダーキー。それと個人で持つ、パーソナルキーが有ります。上位の鍵で鍵を掛けられた場合、下位の鍵では開ける事が出来ません。意味は分かりますよね?[上位者の意志は絶対で有る]と言う事です。これは、これからの学校生活の基本に成ります。各自クラスの皆さん全員に、厳重に通達して下さいね」
 教頭の説明を聞きながら、話がおかしな方向に進んでいる事を感じつつも、皆頷くしかなかった。

 教頭は息の詰まる様な更衣室を後にすると、生徒会役員と各学年委員をエレベーターに招き入れ
「君達はこっちの階段で、上がってきなさい」
 残りの生徒に指示を出して、エレベーターに乗り込んだ。
「この管理棟は地下が有りますが、そこは貴方達の、本来の役目を行使する場所に成っています。」
 教頭は扉が閉まると、生徒会役員と各学年委員にボソリと囁き、2階のボタンを押す。
 教頭の囁きを聞き狂と伸也以外の者が、訝しげに首を傾げると、教頭は何食わぬ顔で、エレベータの表示パネルを見ていた。

 6人がエレベーターを降りると、そこは5m四方のフロアに成っており、正面に鉄製のドアが一つ有った。
 ドアの上に[風紀委員会室]と小さなパネルが掲げられている。
 教頭がそのドアを開けると、中は15m×20mの部屋に8人が座れる応接セットが一つ、テレビや流し台が備え付けられている。
 その奥に扉が2つ。
 壁側の扉は、木製の重厚な物で[委員長室]とパネルが掲げられ、もう一つの扉は、味気ないスチール製で何の表示もされていない。

 教頭は、くるりと回転しながら
「ここは、風紀委員会専用の部屋です。風紀委員の詰め所として使います。あそこの扉を開けると教室棟の2階に出ます」
 教頭の説明を聞いていたクラス委員長の一人が
「ここは、何の部屋ですか?」
 スチール製の扉を指差し問い掛けた。
「君は、確かクラス委員長だったね…。だったらそこに入る事が無いようにしなさい。風紀委員のみんなは、後で確認しなさい」
 ニヤリと笑いながら、静かに告げる。

 問い掛けた男子生徒は、少し顔を引きつらせて曖昧に頷いた。
 その部屋は、後に女生徒達の泣き声が絶えない部屋で、別名[密室裁判所]と呼ばれるように成る。
 この部屋を出て、エレベーターに乗せられた女生徒は、皆、風紀委員の影に怯える様に成った。
 教頭は、各クラス委員を階段で、1階フロアーまで下りておくよう告げる。
 クラス委員は、この扱いに自分達が重要な立場に居ない事を知り、ガックリとうなだれながら階段室に入る。

 教頭は悦子に向き直ると
「副委員長を決めなさい、ここから先は、生徒会役員と各学年委員長、それと副委員長の9人だけが、使える部屋に成ります。まぁ、世話をする生徒は別ですがね…」
 そう言って、エレベーターを指差し
「貴方達はここで待って居なさい。奥の部屋を覗いて見るのも、良いと思いますよ」
 風紀委員に向かって告げると、エレベーターに乗り込んだ。
 残された風紀委員達は、ソファーに腰を掛けたりして居たが、直ぐに奥の部屋が気になり扉を開ける。
 扉は完全防音用の分厚い物で、結構な重さが有ったが、油圧の力で開閉が補助され、かなりスムーズに開いた。

 そして、風紀委員達はそこに置かれた物を見て、目を見はる。
 そこには、一面鏡が張って有る壁、X型の張り付け台が3つ、天井クレーンが4つ、拘束椅子が2つ備え付けられていた。明らかに、人を責めるための部屋で有る事が、全員に分かった。
「おい…。俺達…ここで何するんだ…」
 2年生の風紀委員がポツリと呟くと
「決まってるわ、取締りをするのよ…。校則違反のね…。そう、徹底的に…」
 順子が、ニヤリと笑いながら答えた。
「どうやら、この部屋は完全防音に成って居る見たいですね…」
 ヒョロリとした1年生が、神経質そうに眼鏡を直しながら言うと
「学校公認の体罰を許された…って事か…」
 別の2年生の男子生徒が、獰猛な笑顔を浮かべた。
「悦子様が言った事…本当だった見たいね」
 桜が嬉しそうに言うと
「先輩達も[そっち系]ですよね…? 僕と同じ匂いがする…。それだけじゃ無い。多分、今日集まった人、全員そうでしょ」
 また、別の1年生が問い掛けると、部屋に居た全員が静かに首を縦に振った。
 クスクス、ニヤニヤ笑い合うと全員部屋を後にする。

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