夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転37

 教頭は生徒達に2・3注意を与えて、解散を命じる。
 生徒達は毒気に当てられた様な表情で、フラフラと帰宅の途に着いた。
 伸也も腰巾着3人組と話しながら
「工藤、お前も来ねぇか? 新生徒会で親睦を深めようぜ」
 狂に同行を持ちかけるが、狂はニヤリと微笑み
「悪いな、最近構って無くてよ…、拗ねてんだ。今日はそっちに行くわ…」
 小指を突き出して、伸也に詫びる。

 伸也は驚きながら
「んだよ、お前女居たのか? まぁ、それだけ綺麗な顔してんだ、居て当然か…。でよ、その女お前の癖知ってんのかよ?」
 狂に聞き、下卑た笑いを浮かべ更に問い掛けた。
「ああ、知ってるよ。この学校の生徒だし、お前等も見た事がある」
 狂がそう言うと、伸也は再び驚きながら[へ〜]と呟いた。

 だが、その驚きも狂の次の言葉で、飲み込まれる。
「ああ、西川絵美だ。俺との友好関係を壊したく無いなら、絶対に手出しするんじゃ無い…。俺は、絵美の為なら簡単に腹を括れるからな…。間違い無く殺すぞ…」
 狂はスッと顔から表情を消すと、伸也に静かに告げた。
 伸也はその雰囲気に、危ない物を感じながら、コクコクと頷き
「ああ、連れの女になんか手は出さねぇって…。それに、腐る程良い女居るしな…」
 顎をしゃくって学校を示し、約束する。

 狂はニヤリと微笑み、ユックリ頷くと
「確かにそうだ…腐る程居る…」
 伸也に答え、雰囲気を和らげた。
 伸也は緊張を解きながら、そそくさと学校から離れて行き、町へと消える。
 狂は伸也達の後ろ姿を見ながら
「それでも、お前はちょっかいを掛ける…。お前はそう言う奴だ…」
 ボソリと呟いた。

 狂はクルリと踵を返し、校舎内に入ると職員室に向かう。
 職員室の手前の医務室で、ガサゴソと何かを漁る物音がしていた。
 狂はフッと笑みを浮かべると、医務室の扉を開く。
「何探してんだ教頭?」
 医務室の薬棚を漁る教頭の背中に、声を掛けた。
「ひっ!」
 教頭は小さな悲鳴を上げて、身体をビクリと震わせると、顔を強張らせたまま振り返る。

 教頭は狂の顔を見詰め、引き痙った笑いのまま
「あ、あの…、工藤君…。これは、その…」
 必死に狂に言い訳をしようと焦る。
 狂はスッと医務室内に入ると、薬棚の隠し扉を開き、教頭に向かってポンポンと薬を投げ渡した。
 教頭は狐に摘まれた様な表情で、狂を見詰めている。
「あいつ等の手当してやるんだろ…。いろんな薬が要るぞ…」
 狂は驚く教頭に向かって、ニヤリと笑いながら告げた。

 教頭は狂の言葉にビックリしながら
「い、良いのか? 手当てしても…良いのか?」
 狂に問い掛ける。
「ああ、厳しいだけじゃ駄目だし、優しいだけでも駄目だ…。その両方が出来なきゃ、サディストは務まらねぇ…感情をコントロールするには、アメと鞭が必要不可欠だ…。必要なら、うんと優しくしてやれ…」
 狂は微笑みを浮かべながら、教頭に指示を出した。
 教頭はコクコクと頷きながら、狂の言葉を嬉しそうに聞く。

 狂は紙を取り出し、薬の説明を書き込み、教頭に鍵と一緒に渡した。
 教頭は訝しそうにその紙と鍵を受け取ると
「コレは、何処の鍵だい?」
 狂に問い掛ける。
 狂は黙って天井を指差し
「あそこは、何でも揃ってる。ベッドも風呂もな…、それとコレも必要だろ…終わったら処分しろ…」
 教頭に新生徒会室を示し、先程薬の取り扱い方法を書き込んだ、10枚程の紙の束を指さす。

 教頭が紙の束を開くと、そこには家畜教師達の拘束具の、表には取り付け方と外し方が書かれて有り、裏面には綺麗な文字で、薬の取り扱いが書かれている。
 教頭が驚いて、狂の顔を見詰めると
「今日のあんたの態度…、悪くなかった…。これは、ご褒美だ…、何か有ったら俺の名前を出して構わねぇよ」
 狂はニヤリと笑って、教頭に片手をあげて、医務室を出て行こうとする。
 教頭は狂の背中に、深々と頭を下げて心から感謝した。

 すると、狂の動きがピタリと止まり
「おっ! そうだ…。教頭、良いプレゼントをやろう…」
 少し、大きな声で背中越しに教頭に告げると、教頭は呆気に取られた表情で頭を上げる。
 その教頭の頬に、いきなり狂が振り向きざま、手に持った道具を叩き付けた。
 [ゲシッ]と鈍い音がして、教頭は頬を押さえて倒れる。

 狂は手に持った革袋の様な道具をポケットに戻しながら
「良し、良い感じで痣に成った…。後は、タイミングだな…」
 狂の言葉をポカンとした表情で、聞いていた教頭に
「良いか、同情させるんじゃないぞ、感謝される様なタイミングが有効だ…」
 そう告げて、医務室を出て行った。
 全く意味が分からなかった教頭は、驚いて倒れたモノの、それ程痛みがない頬をさすり、首を傾げる。
 狂が出て行った医務室を、手早く丁寧に片づけると、教頭は直ぐにエレベーターに乗る。

 地下に降り立った教頭は、直ぐに奥の拷問室に行き、パンパンと手を叩いた。
 奥から家畜女教師達がノソノソと出てくると、教頭は鼻環にリードを掛ける。
 家畜女教師は、始めて教頭にリードを掛けられて驚き顔を見せるが、それも直ぐに少し寂しそうな表情に変わった。
 家畜女教師達にとって、リードは[引き回し]の道具でしかないからだ。
 鼻環がグイグイ引かれ、顔の真ん中が取れそうな程痛み、[人では無い]と思い知らされる調教なのだ。
(この方もやはりそうなのね…)
 2人の心に、そんな声が響く。

■つづき

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