夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転45

 春菜をラブホテルでたんまり可愛がった次の日の朝、教頭は出勤するなり、狂の姿を探す。
 狂は最後の週の教育用に、旧生徒会室でプログラムを調整していた。
 狂の横には小さな女生徒がニコニコしながら、狂の手伝いをしている。
「おう、教頭。今日も早いな…、でっ、こんな朝っぱらから、俺に相談か?」
 狂は教頭を招き入れると、かなり機嫌良さそうに、教頭に問い掛けた。
 狂の横に居た絵美は、チョコチョコと奥に引っ込み、教頭にコーヒーを淹れて持ってくる。

 教頭は旧生徒会室に仕掛けた盗聴器をOffにすると、いきなり正座して狂の前にひれ伏した。
 狂はその行動に一瞬驚き、次の瞬間には教頭が言い出す事を予測する。
「工藤様! どうか、私にSMを…サディストの基本を教えて下さい!」
 教頭は狂に向かって、真剣に懇願した。
 狂はニヤニヤ笑いながら、溜息を吐くと
「教頭…何のつもりだよ…。俺に何を教わりたいって…?」
 教頭に静かに問い掛ける。

 教頭はガバリと身体を起こし、昨日の出来事を狂に語りながら
「私は、マゾに染まった彼女達と一緒に居たい。だが、それは今までの、スケベで狡猾なだけじゃ駄目だって解ったんだ。もっとこう、相手を服従させる、人としての厚みと言うか…技術と言うか…。そんな物を、身に付けたいんだ」
 必死になって狂に、教えを請うた。

 狂は教頭の話を聞きながら、ニヤニヤ笑って
「教頭…、あんたも嵌っちまったな…。だがよ、あんたが言ってる事は、単純に教えられない…。寧ろ、やってる内に自然と身に付くモンだ。手っ取り早く覚えるには、常に奴隷に気を配れ、奴隷を観察しろ、奴隷の反応を読み取れ。それが出来れば、解る筈だ…、何がタブーで、何を望んでるか…。プレイの最中はもとより、日常の仕草に至るまで、神経を張り巡らせれば、それは見えてくる。その中で取捨選択して、あんた好みに調整するんだ。完璧にしようとさえ思わなければ、それ程難しい事じゃない…」
 教頭に説明する。

 教頭は狂の話を聞いて、キョトンとした表情を浮かべると、狂は言葉を続けた。
「まぁ、今言ったのは俺のスタイルだ。稔の場合は、言葉と雰囲気を使って相手の意識をコントロールする。あんなの、誰にも出来やしない。庵は、圧倒的な獣性と存在感で、相手をひれ伏させる。それも、論外だ…、まぁ、こんな風によ、人には合ったやり方がある。あんた自身も、持ってるんだぜ、それが最近上手く噛み合って、擦り寄る女が増えたんだ。大丈夫、あんたのタイプはよ、細かく気を遣ってさえいれば、相手が擦り寄ってくる。間違っちゃいねぇよ。まぁ、技術的な事で行き詰まったら、俺よりキサラに聞いた方が早い…」
 狂はそう言うとニヤリと笑って、教頭の肩をポンポンと叩く。

 教頭は呆気に取られた表情で、狂の顔を見詰め
「工藤様…どうして私に、そんな風に言って下さるんですか?」
 問い掛けると、狂は鼻で笑いながら
「俺は前にも言った通り、あんたの事が嫌いじゃない。それに、分かり易い。スケベで調子乗りってな…。俺はそんな分かり易いあんたを気に入った。だから、声も掛け仲間にも引き入れた…。これじゃ、気に入らないか?」
 表情を真面目に変え、教頭に正直に答えた。

 狂の言葉を聞いた教頭は、呆気に取られた表情から、クシャクシャに顔を歪め
「く、工藤様…」
 狂に何かを言いかけるが、狂が教頭の言葉を遮り
「おいおい、今更になって止めろよ[様]何か付けるな。ケツの穴がむず痒くなる、今まで通りにしろよ。まぁ、こんな考えになったのは、最近のあんたの働き有っての事だ、最初の頃のあんた酷かったぜ。目先の欲望ばっかでよ…、あれじゃ、只のどスケベ教師だ」
 教頭を茶化すと、教頭はグッと言葉を飲み込み
「工藤君、そりゃないよ…。そんなに酷かったかね?」
 口調を変えて、狂に問い返した。

 狂はニヤリと笑いながら
「ああ、アレなら、誰も寄りつかねぇ…。今なら、自分でも解るだろ?」
 狂は教頭に問い返すと、教頭は頭を掻きながら
「ああ、何となく解る…。いや、確実に解る様になったよ」
 狂に答えた。
「これが、終わったら。それぞれ、収まる所に収まる様に成る。その時が来て、あんたの側にあんたの望む物が有るかどうかは、これからのあんた次第だ…」
 狂は教頭に静かに囁く様に告げる。

 その言葉の意味を、教頭は図りかねたが、狂の雰囲気が更なる問いかけを拒んでいる様に感じ、教頭は口を閉じた。
 狂が雰囲気を変えニヤリと微笑むと、教頭は狂に向かって
「解った、その時まで私は、私の思う事を、私の思う様にするよ…。例えそれがどう言う結果になっても、後悔はしない…。有り難う工藤君…」
 自分の決心を伝え、最後に感謝した。
 狂は何も言わず、軽く手を振ると教頭は旧生徒会室を出て行った。
「精々頑張れ…。思う物を手に入れるには、努力が必要だぜ…」
 狂は閉じられた、旧生徒会室の扉に向かって、呟いた。

◆◆◆◆◆

 生徒達の教育も最終週に入り、中程を過ぎた木曜日の夕方、とうとう職員棟の改修工事が終わった。
 伸一郎は田口を連れて、その出来映えを確認しに来た。
 理事長室には、伸一郎、田口、狂、キサラ、調教教師の代表黒澤、学校管理代表の教頭、それと24人の奴隷教師が集まり、伸一郎の言葉に耳を傾けていた。
「おう、ようやく出来たぞ。儂の思い描いていた物が…、お前達もこれから、ここでしっかり働くんだぞ。働き次第では、儂も悪い様にはせんからな」
 伸一郎は上機嫌で、奴隷教師達を見渡し、ニコニコしながら伝える。
 だが、奴隷教師は皆仮面の様な微笑みを浮かべ、気のない相づちを打っていた。
(絶対ろくでもない物だわ…)
 この時点で、奴隷教師達は伸一郎の性格から、思考パターンまで把握しており、その本質を理解していた。

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