夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転46

 伸一郎はそんな、奴隷教師の考えなど、微塵も気にする事無く、ソファーから腰を上げると理事長室から出て、用務員室に向かう。
 用務員室の奥にエレベーターが有り、それに乗り込むと、一挙に3階まで上がる。
 3階について扉が開くと、一面に赤い絨毯が敷かれていた。
 目の前に拡がる空間は、誰がどう見ようとバーラウンジである。
 学舎の最上階が、いきなり大人の社交場に成っていたのだ。
 しかも、外壁部分は全てガラス張りで、外から見て下さいと言わんばかりの構造だが、新設されたネットと庵の特殊コーティングの為、外からは全く見えない仕組みになっていた。

 その大きさは教室2つ分を丸々ぶち抜いた様な大きさで、あちこちにカウチベッドや、ソファーベッドが配置されている。
「ここが、サービスフロアーだ。来客の皆様をここで、お持て成ししろ」
 伸一郎は後から上がってきた、奴隷教師達に説明し命令した。
 奴隷教師達は、声を揃えて[畏まりました、ご主人様]と伸一郎に答えながら、内心歯噛みする。

 伸一郎は更に奥に進むと、そこには先程のラウンジ程の広さを持つプレイルームが有った。
 そこには、ありとあらゆる責め具が並べられ、ここに来る来客がどう言う人種か物語っている。
 プレイルームの品揃えは、地下1階の拷問室並みにバリエーション豊かだった。
 その部屋の責め具を見た、奴隷教師達の笑顔が、微かに引き痙る程その内容はおぞましかった。
 伸一郎はその部屋の責め具を嬉々として、紹介し田口以外の人間の反感を大いに買った。

 職員棟の改装はまだまだ続き、その奥に進むと教室1つ分と思われる、大浴場に続く。
 1/3が洗い場で、圧倒的に浴槽部分が大きい。
 湯船は腰ほども無い事から、半身浴が精々で、これも奴隷がサービスする為の物だと、簡単に推測出来る。
 浴槽の真ん中には、這い蹲った女性の裸像があり、そのアナル部分から蕩々とお湯が流れていた。
 その悪趣味な作りに、田口さえも辟易とした表情を作る。

 浴室を突っ切ると、真ん中に通路があり、左右6室ずつの個室が設けられていた。
 その個室にはそれぞれ、部屋の真ん中にベッドが置かれており、仮眠やマッサージその他のサービスを受けられる様に成っていた。
 そして、その通路の突き当たりは、残りのスペースを使ったのであろう、広大な寝室になっている。
 その大きさは、浴室とほぼ同じで、1クラス分有り、部屋の真ん中にはクィーンサイズより大きい、キングサイズ2個分のベッドが置かれ、豪華な調度品で飾られていた。

 伸一郎はニコニコと微笑みながら
「ここは、本来儂の寝室にしようと思ったが、VIPルームと、言った所だ…。ここに泊まれるのは、一握りの人間じゃ」
 全員に誇らしげに語った。
 完全に常軌を逸している。
 学校を、完全に私物化し、教師と学生を売り物にする意志が、ありありと出ていた。

 そんな中、狂1人が内心腹を抱えて笑っている。
(こいつ、本気で馬鹿だ…。どんな、無茶な建物にするか、興味はあったけど…。ここまで、無茶するなんて、有り得ねぇ…。市役所の設計確認や建築確認なんか、どうやって誤魔化したんだ…?[流石、市の有力者]って、括れねぇぞ…。まぁ、有り難く頂くけどね…)
 狂は軽く身体を前に屈め、右手を腹に添えて、腹痛を我慢する様な格好で、必死に笑いを堪えていた。

 伸一郎は、クルリと全員に向き直り
「どうだ、凄いだろ!」
 自慢げに胸を反らし、田口に向き直ると
「田口、今日は付き合えよ。前夜祭だ!」
 田口に告げる。
 田口は渋々頷くと、伸一郎は奴隷教師に向かい
「お前達、準備しろ! 今日は、田口氏をお持て成しするんだ。ああ、お前達はもう良いぞ、早く帰れ」
 準備を指示すると、狂達から興味を無くして、追い払う様に退室を命じた。

 狂、黒澤、教頭、キサラの4人は呆気に取られ、肩を竦めながら主寝室を後にする。
「あ〜あ…、馬鹿の相手は堪ったモンじゃねぇな…」
 狂が通路に戻り扉が閉まった途端、大きな声で愚痴を言った。
 その言葉を聞いた瞬間、黒澤、教頭、キサラの顔が変わる。
(どう言う事だ、工藤君? この2人に、反理事長派がバレてしまうぞ! いや、待てよ…。彼はそこ迄、迂闊じゃ無い…)
(工藤君…それは、不味い発言だよ! 理事長の子飼いがいる場所で言う事じゃ無い! う…ん? 彼は、そんな事は解ってる…、と言う事は…)
(あら、狂ちゃん? ははぁ〜ん…そう言う事ね…。解ったわよ、言える事は、言ったげる…)
 それぞれ、ドキリと3人を見て、狂の本意を理解した。

 狂はスタスタと歩きながら
「お子ちゃまな、俺は帰るわ。大人の3人は、お話が有るんじゃないの? 来週からややこしくなるぜ」
 背中越しに3人に告げる。
 3人はその狂の背中を見詰め
(全く[お子ちゃま]だと…君がそう言う事を言うかね…。策士だな…、多分それぞれのタイミングが有って、今回こうしたんだな…)
(工藤君…本当に、曲者だな君は…。まぁ、君の言う事で間違った事は無い、私は出来る事をするよ…)
(性悪小僧! 全く、ほんと質が悪いんだから…。もう、惚れちゃいそう…。はい、はい、あんたの手の中で、踊るわよ…)
 思い思いに意志を固めた。

 3人は誰からとも無く、誘い合い夜の町に消えて行く。
 伸一郎の狂気が露呈して、黒澤が憤慨し、教頭が危険を感じ、キサラがウンザリとして、タイミングを見計らった狂が、この3人を話し合いの席に着かせた。
 3人はお互いのスタンス、考え方、立場などを情報交換し共闘を約束する。
 それぞれが、それぞれの立場に置いて、知り得た情報を共有すると言った、極初歩的な共闘だが、それは絶大な効果を発揮し、それぞれの立場を強化して行く。

 それは、狂の考える学校の在り方を維持する為には、必要不可欠なネットワークになる。
 狂の考える学校の状態は、おおよそこんな物だった。
 1つ[生徒全員のマゾヒズム覚醒と自己認識]。
 1つ[学校全体による、性行為の隠蔽]。
 1つ[犯罪者の排除]。
 この3っつが、狂の望む状態の絶対条件だった。

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