夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制3

 各クラス委員に首輪を嵌められた少女達は、掛けられた鍵を見詰め、首輪が自分の意志で外せない事を知り項垂れる。
 全員の首に首輪が嵌められると、直美は首輪の手入れの仕方を教え、ホームルームの終わりを告げて本日の行事が全て終了した事を伝え解散を命じる。
 少女達は暗く沈んだ顔で、席から立ち上がり直美に礼をして、帰り支度を始めた。 
 暗くつまらなかった夏休みが終わり、新しい学期が始まると、そこは更に過酷なものに成っていた。
 これから、女生徒達にとって、辛い苦しみの日々が始まるのだった。

 首輪を嵌めた少女達がゾロゾロと、帰宅の途に付いた。
 その顔は全員力無く項垂れ、トボトボと歩く姿は、絶望に満ちている。
 少女達はこれから自宅で、不条理な圧力に遭った事をひた隠しにして、その惨めな姿を家族に認めさせなければならない。
 その帰り道で、町の人間が何事かと目を向けるが、女生徒達全員が首輪を嵌めていた為、遠巻きに奇異の目で見るしかなかった。
 そんな視線に晒されて、少女達は更に項垂れ、足を速める。

 水無月久美(みなづき くみ)も、そんな中の1人だった。
 久美は黄色の首輪を嵌め、恥ずかしい思いを抱え人々の視線に耐えながら、やっとの思いで自宅にたどり着いた。
 久美は成績も良く、控え目だが誰からも慕われる性格で、クラスでもリーダーシップを取る迄ではないが、上品な顔立ちでいつもニコニコと微笑みを湛え、クラスの雰囲気を和らげる、ムードメーカーの様な少女だった。
 スタイルも良く、大き過ぎず形の良い乳房が、彼女の密かな自慢でもあり、スラリと伸びた白い艶やかな足は、毎日の手入れを欠かさない。
 クラスでは、派手さは無いがひっそりと咲いて居ても、その存在に目を奪われる、百合の花に例えられる事が多い美少女である。

 久美の家は、両親と兄の4人家族であった。
 父親は竹内興産の営業部第1営業課の課長で、7歳離れた兄は調査部の主任だった。
 母親は竹内不動産で事務をしており、この時間は久美しか家にいなかった。
 5年前購入した家の支払いの為、家族3人身を粉にして働いていが、笑いが絶えない暖かな家庭である。

 久美は帰宅すると、直ぐに自室に引きこもり、ベットに俯せに飛び込んで、シクシクと泣き始めた。
 どう説明して良いか、自分でも全く妙案が浮かばなかったのだ。
 首輪を嵌められたと言う事より、厳格な性格の家族を説得する、妙案が浮かばなかったのだ。
 そんな久美を追い立てる様に、母親が帰宅し階下から久美を呼ぶ。
 食事の準備の時間だった。
 帰宅して5時間が無為に過ぎた事になる。
 久美は身体を起こして、涙を拭いプリントを手にして、キッチンに降りて行った。

 母親は久美に背中を向けながら、キッチンで包丁を使い
「あ、久美…、ニンジンの皮を剥いて頂戴。今日はシチューよ」
 背中越しに久美に話し掛ける。
「あ、あのね…。ママ…、コレ読んで欲しいんだけど…」
 久美が小声で、母親に話し掛けプリントを差し出した。
 母親は久美の声に元気が無いのを感じ、手を止め後ろを振り返ると、目を大きく見開き
「く、久美ちゃん…。何、それ…、一体どうしたの?」
 久美に震える声で問い掛ける。

 久美は項垂れながら無言で、母親にプリントを手渡した。
 母親は受け取ったプリントを黙読して
「何これ? こんな装置聞いた事無いわ。ちょっと、もうじきお父さん達が帰ってくるから、みんなで話しましょ」
 バンと食卓に叩き付けて、怒りを露わにした。
 久美はコクンと頷くと、母親に寄り添いシクシクと泣き始める。
 その時の久美の胸には、家族が守って呉れるという安心と、学校で示された罰に対する恐怖と、この後の学校生活がどう成るのか解らない不安が、複雑に絡み合っていた。

 1時間後水無月家の食卓で、憤慨する父親と兄が電話口で捲し立てる。
「とにかく、ウチの久美にこんな物を付けるのは、認めません! 直ぐに外して下さい!」
 久美の父親は、プリントに書いてあった、電話番号に電話して、直ぐに久美の首輪を外すよう告げる。
『本当に宜しいんですね…。でわ、係の者を向かわせますが、後悔されても知りませんよ?』
 電話口の男は、丁寧に久美の父親に告げた。
「ああ、後悔なんかせん! 早くその係の者を寄こせ!」
 電話に怒鳴り掛けると、叩き付ける様に電話を切った。

 久美の父親が電話を切った、30分後久美の家のチャイムが鳴り、小さな人影が玄関に立っていた。
 久美の父親が眉間に皺を寄せ、玄関の扉を開けると、首輪をした小学生の様な少女が立っている。
 久美の父親は少女を驚きの表情で見ると、少女はペコリと頭を下げ
「あ、あの〜…。ベルトを回収に来ました…」
 ボソボソと小声で、怯えながら話した。
 その少女は、3年生学年委員であり、風紀委員長でもある、中山悦子だった。

 悦子の怯えぶりに、怒りを収めると父親は久美を呼ぶ。
 悦子は玄関先の小さな姿を見て、顔を強張らせオズオズと玄関に向かった。
「水無月さん…。鍵を外しに来ました…」
 悦子は、小さな声で久美に告げると金色の鍵を取りだし、久美に見せる。
 久美は項垂れながら、悦子に近づくと
「貴女も馬鹿ね…。逃げられる訳がないのに…」
 悦子は久美にしか聞こえない様な声で、耳元に囁いた。

 久美はギクリと顔を引き痙らせ、悦子の顔を正面から見ると、悦子の顔は邪悪な笑みを浮かべ、嬉しそうに歪んでいた。
 悦子の顔は久美の陰に隠れて、父親は確認出来ず、声も届かなかった。
 悦子は素早く久美の首輪に手を伸ばし鍵を外すと、持って来た鞄に首輪と鍵を放り込んだ。
 ペコリと悦子は久美の父親に頭を下げ、水無月家の玄関を後にする。
 水無月家の家庭が、この瞬間破滅に向かい始めた。
 和やかにシチューを食べる水無月家から、その翌日以降笑顔が消える。

 久美は腹痛を装い学校を休むと、昨日の今日で強く言えなかった母親が、会社に向かう。
 会社に着いた水無月家の家族は3人共、いきなり人事異動を言い渡される。
 父親は竹内傘下の子会社の庶務課へ、課長として追いやられ、兄は町外れの工場の検査主任に、母親は土木会社の事務職にそれぞれ飛ばされた。
 3人は驚きながら、理由を問い掛けるが、人事担当の者は鼻で笑って
「随分、馬鹿な事をしたようだね…」
 皆、異口同音にそう告げる。
 3人は前日の事を思い出しながら、歯噛みしてそれぞれの赴任先に向かう。

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