夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制5

 昼の3時頃水無月家のポストボックスに、一本のビデオテープが投函される。
 呼び鈴を押され、それに気付くと久美は、ビデオテープを不思議そうに手に取り、同封された手紙を読んだ。
[これが、貴女方家族が選んだ道です。良く、見てから考えなさい]
 久美はその手紙を見て、テープをデッキに入れ、再生ボタンを押した。
 そこには、婦女暴行の濡れ衣を着せられ、土下座して女子社員に謝る父親。
 汗だくで血を流し、必死にラインを見詰め、ライン長に暴行される兄。
 5人の男達に、強姦されボロボロのまま、土木作業に戻る母。
 水無月家の家族が、ボロボロにされている場面が次々に映し出される。

 久美はその光景を、滂沱の涙を流して見ていた。
(私のせいだ…私のせいで、みんなこんな事に成ったんだ…。私がちゃんと説得出来てれば…)
 久美は自分を責めて、打ち拉がれる。
 久美はビデオテープが止まっても、テレビの前で座り込み、虚ろにテレビを見詰め泣き続けた。
 それは、疲労困憊で家族が帰宅するまで、久美はそのままだった。
 父親、兄、母親の順番で、帰宅した家族は、皆無言で食卓を囲む。
 そこに、一本の電話が入った。

 久美の父親が電話に出ると、昨夜の男の声で
『どうでしたか? 新しい生活は、堪能出来たでしょうか? ですが、これはまだ序の口です。これから、益々辛い目にお逢いするでしょう…。あの方は、そこら辺は徹底してますからね…。そのうち、食料すら買えなくなりますよ。協力を断った報いです…、あの方は大層お怒りでしたからね…』
 声に笑いを含みながら、久美の父親に告げる。

 久美の父親は、プルプルと震えると
「何だ! どう言う事なんだ!」
 電話に向かって怒鳴り付けた。
『いえ、これは最後通告です。貴方方が、私どもの研究に協力するかどうかのね…。強制はしません、ただ良い返事は聞きたいものでね…。どうします、このままじゃ貴方方の行く末は、一家心中か事故に遭われるかしか、有りませんよ。家を売ってお金を作ろうとしても、その家を買う人間は居ないでしょう。この市に有る限り、その家は絶対に売れませんよ…貴方は、そう言う人を敵に回した…』
 男の言葉に、久美の父親はガックリと肩を落とす。

 男の声がクスクスと笑いながら
『誓いなさい…。今後、一切学校の方針に口を出さない、目を閉じ、耳を塞ぐ事を…。そうすれば、昨日までの日常が、貴方方の元に戻ってきます…。どうしますか?』
 久美の父親に判断を迫る。
 水無月家の全員がその電話の内容を、聞き耳を立てて聞いていた。

 だが、誰も答えを出せないで居る。
「誓います! 絶対に今後口出ししません! だから、パパ達のお仕事を返して!」
 久美が突如、受話器を父親から奪い取り、電話相手に叫んだ。
 驚きを浮かべ、久美を見詰める父親に
「私がいけなかったの。ちゃんと説得出来てれば、パパやママやお兄ちゃんが、あんな酷い目に遭う事は無かったのよ…! 私、全部見ちゃったの…、ビデオが送られて来て、全部見ちゃったの…」
 久美はビデオデッキを指差し、家族が受けた屈辱を知った事を告げた。

 久美の言葉を聞き、母親が泣き崩れ、兄は項垂れ、父親は苦渋の選択をする。
「も、もう、何も言いません…。協力します…」
 父親が電話相手に、そう答えると
『そうですか、ご英断ですな…。つきましては、お嬢さんはこれから、学校に登校して頂いて、1週間程学校に寝泊まりして頂きます。まぁ、お嬢さんは理解しておいでだと思いますが、荷物などは一切必要有りません。今迎えを差し上げますので、制服に着替えさせて下さい』
 相手の男が、父親にそう告げた。

 父親が怪訝な表情を浮かべると、久美が直ぐに立ち上がり、自分の部屋に走り込んだ。
 久美が制服に着替えて、自室から降りてくると、見越した様に玄関で呼び鈴が鳴る。
 久美の父親が先に玄関に向かい、扉に手を掛けた。
 玄関の扉を開けると、そこには制服を着た悦子が不安そうな顔で立って居た。

 悦子はペコリと頭を下げると
「あ、あの…。電話が有って、直ぐに久美さんを迎えに行って、登校するように言われたんですが、何か有ったんですか?」
 悦子の心配そうな、表情に久美の父親は、口ごもり
「いや、特に何も無いんだ…」
 視線を外しながら項垂れ、悦子に答えるが、その顔には憔悴が張り付いている。

 そして、直ぐに顔を悦子に戻し
「君は、どうしていつも出向いて来るんだね?」
 問い返すと
「私は学年委員で、学校の通達を伝えたりする役目なんです」
 父親に頭を下げて、答えた。

 久美の父親は、黄色い首輪を嵌めた幼い容姿と、怯えたような態度に
「そうか、済まないね…。久美はこれから、1週間学校で泊まり込むらしいんだ…。出来れば、学校での様子を教えて呉れないかな?」
 完全に騙され、悦子に依頼する。
「パパ! 駄目なの!」
 久美が止めようとした声に、父親が久美に振り返ると、悦子の視線が一瞬で鋭い物に変わり、ゆっくりと首を左右に振って、久美の次の言葉を禁じた。
 久美は悦子の制止で、言葉を飲み込みうなだれる。

 怪訝そうに久美を見つめ、首を捻った久美の父親に、背後から
「分かりました…。本当は、校則で禁止されてるんですが、出来る範囲でお知らせします」
 久美の父親の依頼に、怯えた顔に決意を漂わせ答える。
 久美の父親は2人の言葉と態度で、自分が大変な事を依頼した事に気付くが、久美の事を心配する余り、そのまま気付かぬ振りをする。

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