夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制22

 悦子がエレベーターで、1階に降りると、管理棟のフロアは、人でごった返して居た。
 [白鍵]を付けた生徒が3人の風紀委員の前に立ちスカートを持ち上げ、足を肩幅に開き点検を受ける。
 腰や股の付け根に、少しでもゴムの跡が有れば、それは即、校則違反とされ風紀委員室送りに成る。
 その事実を昨日見せ付けられ、軽く考えて居た者が何人も罰せられた。
 悦子の目にもその罰を受けた者が一目で分かる。
 首輪に赤い×印が書かれて居るのもその一つだが、何より罰を受けた者のお尻に、無数の鞭の跡が付いて居た。

 [白鍵]の生徒が検査を受け終えると、そそくさと正面玄関に急ぐ。
 すると、正面玄関の方から朝の挨拶をする声が聞こえる。
 悦子はその声が、ずっと同じである事に気付き、様子を見に行った。
 そこには全裸の[首輪無し]が正面玄関前の地べたに平伏し、すれ違う[白鍵]達に挨拶して居た。
 その中には、教師である美由紀と春奈の2人迄居た。

 悦子はフッと笑うと
(竹内君の考えそうな事ね…。全く権威をひけらかすのが、好きなんだから…。要らない敵を作るって、分からないのかしら…)
 呆れながら、校舎内に入る。
 悦子は校舎内を歩きながら、ふと窓に目を向けると、校庭に8人の人影を見付ける。
 悦子が興味を示したのは、その人影では無く、人影が連れて居る物だった。
 それは[家畜]に堕とされた教師と生徒の8匹だった。

 皆、高足の四つん這いで、尻尾を振りながら[白鍵]の生徒に引かれて居る。
 [白鍵]の生徒達は、皆痛ましい目で[家畜]を見ながら、それでも優しく扱って居た。
 だが、この[家畜]が校内の有力者達にどう扱われて居るか、一目瞭然だった。
 [家畜]の歩みは、左右にふらつき、身体には無数の痣が付いて居た。
 その中でも一際目立つ一匹に、悦子の視線は釘付けに成る。
(ああぁ…、ローザ…。お前のブロンド無く成らなかったのね…。そう、そのブロンドが、私の創作意欲を掻き立てるの…。その白い肌が、私の作品を際立たせるのよ…)
 悦子は唯一人、髪の毛を残されたローザを見て、満面の笑みを浮かべる。

 悦子はローザの姿を確認すると、イソイソと風紀委員長室に戻り始めた。
(早く手を打たなきゃ…。誰かに傷付けられる前に、私の手に入れなきゃ…)
 悦子は、ローザを我が物にするための方法を、模索する。
(やっぱり…一番の方法は、理事長様に気に入られる事ね…。でも、私なんかじゃ、直に合うことすら無理…。竹内君を利用する? ダメ、ダメ…。絶対横取りする! なら、誰が良い…。私のアートを理解して、理事長様に話が出来る人)
 悦子が考え込みながら、廊下を早足で移動していると、廊下の曲がり角で人とぶつかった。
「きゃっ! どこ見て歩いてるの!」
 悦子がぶつかった者が、小さな悲鳴を上げ、文句を言った。

 悦子はその声にムッとし、顔を上げ眼鏡を直しながら、声の主を確認する。
 声の主は、白井だった。
「先生…」
 悦子は一瞬持ち上がった、怒りの言葉を飲み込み
(この教師なら、手頃な人間を知ってるかも…。落ち目と言えど、調教教師の端くれ。私達生徒じゃ、持ち合わせない情報を持ってるかも…)
 瞬間的にそこまで考え
「すみません、考え事をして居た物で…」
 下手に出て謝罪した。

 白井は、ぶつかった相手が、悦子で有る事を確認し、慌てて猫撫で声を立て
「ううん、気にしないで。あなたは、色々な業務が有るんだから、仕方が無いわ」
 悦子に媚びを売る。
 白井にすれば、この態度の変化は、仕方が無かった。
 悦子は自分の生活を左右する、者の一人なのだ。

 ここで、嵩に掛かって文句を言って、プラスに成る事など、一切無い相手なのだ。
 手のひらを返した白井に、悦子は嫌悪感を感じながらも
「先生…? あの家畜を作った人知ってます?」
 悦子は、家畜教師を指差し問い掛ける。

 悦子の問い掛けに、白井は首を傾げながら
「確かキサラさんと用務員の…、耳の無い方だって聞いたわ」
 悦子に告げると
(は〜ん…。あの落書き…、キサラ様のセンスじゃ無いと思ったら…、やっぱりもう一人居たんだ…。私と感覚が合わないけど、方向性は多分一緒ね…)
 悦子は家畜教師の姿を思い出し、品性の欠片すらない落書きと、それに反する拘束具の美しさが、何故アンバランスだったかの理由を知った。

 悦子は小さく頷き、更に問い掛ける。
「先生…。その人って、源先生に仕事させるだけで、何にもしない人ですよね? 何で、そんな人が居るんですか?」
 悦子の問い掛けに、白井はピンと来て
「ん〜。何でそんな事を聞くのかな? 先生にも、言える事と言えない事が有るのよ…」
 白井が言葉を濁し、悦子を見詰める。
(浅い! この人目先しか見えて無い…。ここで、それを言うなんて…底が知れちゃうわ…)
 悦子は呆れながら、白井にポイントチケットを切る。

 悦子からポイントチケットを受け取った白井は、その数を見て目を丸くし、途端に口が軽く成る。
 白井は自分の知って居る情報を全て吐き出した。
 悦子は、白井の情報を聞き、内心ほくそ笑んだ。
(居たんだ…。理事長様に直で繋がる人間…。後は、その人が私のアートを理解するかね…)
 悦子は頭の中で、作戦を練り、谷に近付く方法を考える。
 悦子は自分の行いを認めさせる為、谷を利用する事に決めた。

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