夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制23

 悦子が廊下で谷に近づく計画を立てている時、2年B組の教室では、有る事が話題になっていた。
 このクラスは、狂が統括しているクラスの為、他のクラスと違う雰囲気を持っている。
 それは、他のクラスに漂っている、悲壮感が無いのである。
 これは、狂の方針で虐めや、つるし上げの様な弱者を作って、奴隷に堕とす方法を禁じたからだ。
 狂はあくまで、サディストとして奴隷を作る事を大前提とし、それが出来ない者は、サディスト失格とクラス委員達に徹底させている。
 そんな支配者達に守られている為、このクラスの女子達は、今でも明るく笑っていられる。

 その女子の間で1人の女子が、話題に成っていた。
 只1人首輪の形が違い、金色の鍵を嵌めている女子。
 それは、西川絵美だった。
(もう、狂様…。昨日のアレは何だったのよ…、最近、いつも帰りが遅いし…、帰ってきたら直ぐ寝るし…。あ〜あ…昨日の件で、クラスじゃ浮いちゃうし、話し相手も居ないのよ…絵美、寂しくて死んじゃう〜…)
 絵美はポツリと1人教室の隅で、机に頬杖を付いて頬を膨らませながら、宙を見詰めて狂の事を考えていた。
 そんな絵美をクラスメイトの女生徒達は、遠巻きに見詰めヒソヒソと話し合っている。

 この状況の発端は、昨日の5時限目の休み時間に、絵美の元へ3人の少女が恐る恐る近づき、真ん中の1人が話し掛けた事だった。
「あ、あの〜…。西川さん? …少し、お話しして良い?」
 絵美は新学期が始まってB組に入った為、仲の良い生徒もクラスにいない。
 その上、クラスの外は酷い状況になっている為、ちりぢりに成った友人達も、誰も絵美を尋ねて来なかった。
 そんな状態で孤立していた絵美に、3日目にして初めて声が掛けられる。
「えっ! は、はい。何でしょう?」
 絵美は突然掛けられた声に驚き、クラスメートの方を向いて、慌てて問い返す。

 絵美の反応の早さに驚きながらも、クラスメートが絵美に質問をした。
「あ、あの…。その首輪…、みんなのと全然違うし、鍵の色も形も全然違うのは、どうしてなんですか?」
 クラスメートの質問に、絵美は首輪に触れ、少し驚き
「あ、ああ。この事ですか? えっと、その…。これには少し事情が有って…、詳しくは言えないんです…」
 しどろもどろに、答えを返す。
 絵美は主人持ちである事をクラスメートには、言わない様に狂に命じられている。
 そんな中、いきなり核心を問われて、しどろもどろになったのだ。

 その態度を見た、クラスメートの顔が怪訝そうに変わり
「ねえ、それって、この学校の変化と、何か関係有るの?」
 右側にいた女生徒が、絵美の顔を覗き込み問い詰め始める。
(あうっ! 狂様〜こんな時は、どうしたら良いんですか〜…。ガードが付いてるって…誰なんですか〜?)
 絵美は俯きながら、モジモジと小さく成り、困った顔をする。

 そんな絵美の変化に、もう1人の女生徒が前に身を乗り出して
「貴女何か知ってるんでしょ? お願い教えてよ!」
 目を剥いて問い掛けてくる。
 遠巻きに、その話しに耳を傾けていた、他のクラスメート達は、息を殺して固唾を呑んでいた。
 その時絵美と3人組の間に1人の影が、スッと割り込み。
「どうしたんだ? 騒いでると、風紀委員が飛んでくるよ…」
 その場を収めようとする。
 それは、クラス委員長だった。

 クラス委員長が3人の注意を引くと、左右に居た女生徒の背後から
「このクラスで、揉め事は止めて下さい。このクラスの雰囲気が壊れるよ…」
「ああ、このクラスで揉める様な真似は、俺も黙って居られない…」
 2人の副委員長が、ソッと肩に手を触れて注意する。
 揉め事の仲裁にしては、妙に慌ただしいタイミングで現れた3人に
「あっ! 委員長達。その慌て振りは、貴方達も何か知ってるんですね! 教えて下さいよ」
 最初に絵美に声を掛けた、女生徒が委員長に向き直って詰め寄る。

 すると、女生徒の1人が、副委員長に身体をすり寄せながら、上目遣いに問い掛ける。
「ねぇ…。一昨日や今日の全校集会で、酷い目に遭わされた人みたいに、私達も成るんですか? 不安で仕方がないの…。私達これからどう成るんですか? …」
 一昨日の久美達の磔に引き続き、今朝は全校集会で6人の女生徒達が、家畜に堕とされ全校生徒の見ている前で、処置が施された。
 その処置は余りにも、惨い物だった。
 第1体育館の壇上で衣服を剥ぎ取られた女生徒が、次々に頭にバリカンを当てられて、カミソリで頭を剃り上げられ、怪しげな器具を取り付けられた。
 殆どが処女を器具で散らされ、苦痛に泣き叫ぶ女生徒の姿を、風紀委員達が監視する中、強制的に見せつけられたのだ。

 するともう1人の女生徒は、別の副委員長に必死の顔で、縋り付いて
「怖いんです! 本当に怖くて仕方がないんです! どうか、どうか教えて下さい。お願いします」
 豊満な胸を副委員長の逞しい腕に押し当て、問い掛ける。
「ねぇ、この状況から言って4人とも、間違い無く何か知ってるんでしょ? ねぇ、教えてよ!」
 何も答えそうにない委員長に業を煮やした、最初に絵美に声を掛けた女生徒は、クルリと身を回して絵美に問い掛けた。

 絵美の顔に引き痙った笑みが浮かび、何とかこの場を誤魔化そうと、知恵を絞ったが一向に出てこない。
 そんな絵美を絶妙のタイミングで、救う声がする。
「な〜に、騒いでるんだ〜? …」
 狂が教室の入り口で、ニヤリと笑っていた。
 狂の声が教室内に響いた瞬間、クラス内が一斉に静かになる。
 しかしその直ぐ後、集団に成った女生徒が、小声でヒソヒソと話し始め、その声はいつの間にかキャアキャアと黄色い嬌声に変わる。

 狂は今、正に女生徒間のアイドルと言っても言い位置に、押し上げられていた。
 人形の様な端正な顔立ちに、今迄の小動物の様な愛らしさでは無く、高貴な猫科の肉食獣のような雰囲気と生徒会副会長の権力、女生徒達は一斉に狂の評価を変え、その存在は女生徒達の憧れの的に成っている。
 そんな狂が新学期に成って、初登校したのだ。
 女生徒達が、騒ぎ出さない筈が無い。
 皆が頬を染め、遠巻きに見詰める視線を、事情を知らない狂は、怪訝な顔で見まわし首を傾げる。

 そんな狂を絵美は顔を輝かせて見詰め、目線が合うと満面に笑みを浮かべた。
 その姿は、誰がどう見ようと、飼い主を見つけた飼い犬だった。
 その絵美の表情の変化を、顔を覗き込んでいた女生徒が見つけ
「えっ、ええっ!?」
 狂と絵美の顔を見比べて、2人を指差しながら小声で驚く。
 絵美はその声にハッと気づき、急いで顔を俯けて、小さくなって誤魔化そうとした。
 しかし、時既に遅く、女生徒は確信して、驚きの目を狂に向ける。

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