夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制25

 狂は絵美が廊下の端で、謝罪を受けた事を監視カメラで確認すると、モードを自動に切り替え旧生徒会室を後にする。
 旧生徒会室を後にした狂は、廊下を歩きながら監視カメラが追えない、教室棟地下や教員棟3階、管理棟の監視体制について考えていた。
 しかし、庵が居ない今、それも打開策が見つからず、頭の痛い話であった。
 狂が溜息を吐きながら、階段を降りていると、階段の下からジッと狂を見詰める者が居る。
「工藤先輩…。少し、お話ししても良いですか?」
 狂に向かって話し掛けたのは、身体のサイズは狂より少し大きい程度の、冷たい視線を持った男子生徒であった。

 狂はその言葉にスッと目線を上げ、声を掛けた男子生徒を見る。
「ん? 明神か…。どうした、何の話だ」
 声を掛けた来たのは、1年生の学年委員明神だった。
「いえ、今の学校の状態の話です。何か校則と規制の間に、ちぐはぐな感じを受けるんですが、気のせいですか?」
 明神は狂に向かって、真っ直ぐな目を向け問い掛ける。
 明神の言う規制とは、狂が設けた方針だった。

 狂は各クラス委員に、3つの段階を設けさせる。
 1つは準備期間。
 奴隷生徒達に、自分達の置かれている環境や、状況がどう言った物か認識させる期間。
 この期間により、奴隷生徒達に立場を受け入れさせ、スムーズに奴隷化を浸透させる。
 懲罰を受け、晒し者に成った少女達は、言わば[スケープ・ゴート]だったのだ。
 彼女達の惨状を目にし、自分達が[まだマシで有る]と[ああ成りたく無い]そう納得させる為の期間である。
 その為、新しい環境に晒された女生徒達が、環境に慣れる迄は、一切の調教行為を禁止していた。

 2つめは選別期間。
 奴隷生徒達の中には、深く覚醒した者から、まだ覚醒し切れていない者迄、レベルが様々だった。
 それを見極め、無理な調教を避け、その中でクラス内の序列を付ける期間がそれである。
 この期間に入れば、調教は解禁となり、その調教が進む事によって、自ずと奴隷生徒のランクが分かれて行く。
 資質が高ければ、依り高位の序列が与えられ、ランクが下の者は上位者に従わ無ければ成らない。
 それは、鍵の変化と首輪の変化に現れ、更に管理者の序列でその地位が確定する。

 そして3つめは訓練期間。
 この期間に入る頃には、それぞれ奴隷生徒の序列が決まり、調教を強め奴隷として完成させて行く。
 調教を終えた者は、キサラのチェックを受け完成と成り、理事長の保有する奴隷[黒首輪]に変わる。
 この数により、管理者はポイントを収得して自分の地位を上げて行き、新たな役職に就いて権力を手に入れる。
 役職は生徒会長と副会長以外、全てポイント制で交代させられた。

 明神はこの3段階の期間や役員のシステムと、校則等の新規則の間にある、矛盾や齟齬の様な物を問い掛けてきたのだ。
「校則に書かれている物は、酷くアバウトで曖昧なんですが、時折出てくる規制は細かく丁寧…。規則というのはそう言う物だと、言われれば解らない事も無いんですが、それでも僕には何か違和感を感じるんです」
 明神の真っ直ぐな目線を受け、狂はニヤリと笑い
「流石だな…。だがまあ、今のお前には関係ない話だ…。気にするな…」
 狂はポンと明神の肩を叩いて、すれ違おうとする。

 だが、明神はそんな狂の態度にも引かなかった。
「教えては貰えないんですね…。それは、工藤先輩が僕をまだ、認めていないと言う事ですか?」
 明神は狂に向かって、静かに問い掛ける。
 明神の質問に狂が眉をピクリと跳ねさせ、雰囲気を変えながらジッと瞳の奥を覗き込むと
「これは僕の推測です。間違っていたなら訂正して頂けると有り難いんですが、只[こう言う考えを持っている者が居る]と言う認識を持って貰えるだけでも良いんで、聞いて下さい」
 明神はそう言いながら、2人の権力者が居る事と、その2人の意見が明らかに食い違う部分がある事を指摘し、学校内の誰がどちら寄りの考えを持って行動しているのかを指摘した。

 その分析はかなりの割合で的を得ていて、狂は内心驚いていた。
(おいおい…こいつ、何なんだ…。まだ始まって4日だぞ…。なのにこの正確さは、俺並みの分析力だぜ…。しかも、こいつにはそれを裏付ける、物理的手段がない…。憶測だけでこれだけ言い当てる何て…こいつおもしれぇ〜)
 狂は明神を見詰め、興味をそそられ始めた。
「おい、ここじゃ、話しも出来ねぇ…。フケる準備して来い…」
 狂は明神に告げると、踵を返して自分の教室に戻り始める。
 明神はコクリと頷いて、1年A組に向かって駆け出した。

 狂は教室の手前で立ち止まり、風紀委員に電話を掛けて、絵美を呼び出させる。
 絵美は心配そうに風紀員に連れられ、教室から出て来て、狂の顔を見るなり、途端に尻尾を振る飼い犬の様に上機嫌になった。
「絵美…はしゃぐな、今回は仕事だ。お前に人を見て貰いたい」
 狂が絵美に告げると、絵美はそれでも嬉しそうに頷いて
「はぁ〜い。任せて下さい」
 狂に元気に答えて、擦り寄った。

◆◆◆◆◆

 狂と絵美、それに明神の3人は、高級カラオケボックスに場所を変え、顔を突き合わせて居た。
 明神は始めは驚いたが、直ぐに落ち着きを取り戻して、ここに案内した狂を観察している。
 そして絵美は、そんな明神の色を見詰めていた。
(へぇ〜…この子…、変わってる…。狂様と柳井さんを合わせた様な…、不思議な感じ…。狂様の拡がる様な揺らめきと、柳井さんの射抜く様な雰囲気が混在してる…)
 絵美は明神の色を観て、心の中で感嘆する。

 狂を真っ直ぐに見詰めていた、明神がユックリと口を開き
「工藤さんは、一体どういう人なんです? 只のピアニストの卵では有り得ない程、力を持たれているようですね…」
 狂に探る様に問い掛けた。
「へぇ〜…。何を根拠にそんな事を言い出すんだ…。説明を聞きたいね〜」
 狂は頬に笑みを浮かべながら、刺す様な視線を明神に向け、問い掛けると
「この店ですよ…。一目で分かる調度品の高級さ、そして建物の造り、従業員の受け答え…どれをとっても超一流です。これだけの、調度品が置いてある店です、恐らく会員制でしょう。その中でも、僕達が店に入った時受け答えをした従業員。年は若そうでしたが、身のこなしや挙措、他の店員に対する指示から、この店でも上位の者と考えられます」
 明神は入店してから2分程遣り取りをした、店員を分析して見せた。

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