夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制27

 明神の推測を黙って聞いていた狂が、その推理力に内心、舌を巻きながら、ユックリと身を乗り出し
「で…。お前は俺にそれを告げて、どうしたいんだ?」
 静かな声で問い掛ける。
 明神は狂の質問に、少し照れた様な笑みを浮かべると
「あっ! やっと僕の事に、本気で興味を持ってくれましたね」
 狂に嬉しそうに告げた。

 狂がクスリと鼻で笑うと、明神はこの時初めて、絵美の方に視線を向け
「どうですか…。僕はお眼鏡に適いましたか?」
 にこやかに問い掛けると、狂の表情から笑みが消える。
「おい、それはどう言う意味だ? お前にはこいつが、何か特別な事でもしてる様に見えるのか?」
 狂の声からも感情が消え、冷たい物に変わり、問い掛けた。

 明神は狂に視線を戻すと
「ずっと、試されているのは感じました。先輩の不思議な目で…」
 絵美の視線について、狂に告げた。
 狂の目線が恐ろしい程の迫力を表し
「いつから気付いた…」
 滲み出す様に雰囲気を変えつつ、明神に問い掛ける。
「ええ、学校を出てから直ぐ、奇妙な視線を感じて、気が付きましたよ。でも、変わった雰囲気の視線ですよね…」
 明神は狂の圧力を真正面から受けながら、動ずる事無く狂に答えた。

 狂はユックリと視線を絵美に合わせると、絵美は顎を引いて頷き
「この方に、悪意は有りません。それに、嘘を吐く意志も有りません…。どこか柳井さんに似ている雰囲気です…」
 狂に明神の感想を告げた。
 狂は絵美の答えを聞き、明神に視線を戻してジッと見詰め、暫く黙り込むと
「お前はどうしたい…?」
 明神に、再び同じ質問を、静かな感情の籠もらぬ声で問い掛ける。

 明神は狂の質問に、にっこりと微笑みながら
「僕は先輩達と、仲良く成りたいんです。純粋にね…」
 狂に明るく答えた。
 しかしその声の明るさとは裏腹に、底冷えする様な静かな視線が、狂を見詰めている。
 狂は明神の言葉に、警戒しながら
「俺達と言うと、後は誰の事だ…」
 明神に問い掛けた。
「柳井先輩や垣内先輩…、源先生や黒澤先生達…。あと、教頭やキサラ女王様もそうですよね?」
 現在の反伸一郎派の人間の名を上げる。

 狂は明神の言葉に内心驚きながら、明神をジッと見詰めた。
 明神は頬に微笑みをたたえ、冷たい視線で狂の視線を受け止める。
 狂は突然口を開いて、絵美に問い掛けた。
「絵美こいつどう思う?」
 問い掛けられた絵美は、狂の方を見ながら
「この子の言っている事は、言葉の通りです。何の作為も、嘘も吐いていません」
 明神の評価をハッキリと告げる。
「有り難う御座います。こうやって、証明してくれる方が居て、本当に良かったです」
 明神は絵美にペコリと頭を下げ、感謝をすると狂に視線を戻す。

 狂は一つ溜息を吐くと、緊張を解き
「分かった、お前の望みを叶えてやる。だが、仕事はして貰うぞ…。お前は1年をまとめろ…、それがお前の仕事だ…」
 明神に告げた。
 明神はニコニコと微笑み、大きく胸を撫で下ろす仕草をして
「ああ〜良かった…。本当に緊張しましたよ。これも全て西川先輩のお陰です、有り難う御座います」
 絵美に向かって深々と頭を下げる。

 狂はその明神の言葉を聞いて、驚きながら
「おい、何でお前はこいつの名字を知っている? こいつと俺の関係は、まだ殆どの人間が知らないんだぞ。それなのに、初対面のこいつの名字まで知っているのは、おかしくないか?」
 明神に問い掛けると、明神は不思議そうな顔をして
「えっ? 知ってますよ…。と言うか、僕は学校の中に出入りしている人の、名前と顔は全て覚えています。生徒の80%ぐらい迄なら、簡単なプロフィールも言えますよ…。西川先輩が最近ジェネシスのHPデザインをしてるのも、リサーチ済みです」
 狂に当然の様に答えた。

 狂は明神の答えに暫く呆然として、[クックッ]と含み笑いを漏らし、爆笑した。
 暫く大笑いした狂は、目に浮いた涙を拭いながら、呆気に取られた表情をしている明神に
「お前面白い! 最高だよ! 良し、これからは色々教えてやる。絶対に裏切るなよ…」
 笑いながら明神を褒め、最後は真顔で告げる。
 明神は真剣な表情で狂を見詰め、コクリと大きく頷いて
「はい、絶対に裏切りません。宜しくお願いします」
 狂に誓いを立てた。

 狂は明神に、計画の全てを話し始める。
 明神は狂の説明を聞きながら、自分の心の変化を当て嵌め、計画について納得する。
「それじゃ、僕のこの気持ちの変化や、今起きている衝動なんかは、全部工藤先輩達のした事なんですか?」
 明神が狂に問い掛けると、狂はユックリ頷き
「ああ、俺達がした事だ…。それについちゃ弁解しようもねぇが、お前も目覚めて理解できたろ?」
 明神に逆に問い直した。

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