夢魔
MIN:作

■ 第30章 圧制28

 狂の質問に明神は暫く考え、大きく頷き
「はい、僕は今のこの状態、嫌いじゃないです。いや、寧ろ心が解放されて、晴れやかな気分なんです。[ああ、僕は人を支配するのが好きなんだ]って、それが素直に受け入れられるんです。それが、世間一般で[変態]と一括りにされる行為でも、今の僕の中では[それの何処が悪い?]って、簡単に開き直れるんです」
 狂に向かって、屈託のない笑顔で語った。

 狂はそんな明神に頷き、今まで起きた事件や、現在の状況を明神に説明する。
 明神は副理事長達の事故と失踪、庵の帰国、稔の失脚の詳細を聞き、理事長の真意と本質を理解した。
 自分の想像を超えていた事に、明神は驚きを隠せず、狂の話を食い入る様に聞いている。
「て事で、俺は今は理事長の懐に入り込んで、学校のバランスを調整してる。お前もそこら辺理解しながら、今後は動いてくれ。俺は、絶対に理事長の思い通りには、させない積もりで居るからよ…」
 狂が話をまとめると、明神は狂に調教を禁止していた理由を問い掛けた。

 明神の質問に狂は、ニヤリと笑い
「何だ、お得意の推理でも、そこ迄は分かんなかったのか…」
 明神をからかうと、理由を説明する。
「今、奴隷生徒の中には、覚醒が強く現れている者とそうで無い者が混在してる。そいつらを一律に調教し始めるとどう成る?」
 狂の問い掛けに、明神は少し考えて
「そりゃ、嫌々ながらも恐怖心から、従うと思いますよ…」
 狂に自分の思った答えを返す。

 狂はその答えに大きく頷き
「そうだ、渋々従う者が出てくる…。お前は、それでまともな奴隷が出来ると思うか? まぁ、先ず無理だ…。望んで奴隷に成る者と、押さえつけられて奴隷に成った者じゃ、その行き先はまるで違うんだぜ」
 明神に向かって、ニヤニヤ笑いながら告げる。
 明神は狂の言葉を不思議そうに聞きながら、小首を傾げて頷いた。

 狂はそんな明神に自分達の研究結果を語り始める。
 渋々従った者は自分の資質を曲げ、心にしこりが残り、心からの服従が出来ない事が多い。
 これは稔の研究の中で立証され、計画の根幹と成っていた。
 [自発による隷属]が無ければ、その[隷属]は只の[強要]で、奴隷は心を苛まれる。
 心を苛まれた[奴隷]が、行き着く先は[人形]か[家畜]にしか成らない。
 己が魂を震わせる快楽に到達せず、只[肉欲]を貪る[物]に墜ちてしまう。
 狂達はそれを奴隷と呼びたくは無かった。

 奴隷とはあくまで自分のパートナーで有り、自分の全てで支配し、庇護する者で無ければならなかった。
 被虐心の強い者には、[物]として扱われる事を望む者も居るが、それにしてもお互いの合意が有っての事、サディストの都合でそれを行っては、絶対に許されないと考えていた。
 狂達は、それを[支配]では無く[強要]だと位置づけている。
[強要]は必ず破綻を産み、関係は維持できない。
 関係を維持できない主従関係には、[真の服従]は存在しないと、狂は語った。

 明神は狂の言葉を聞きながら、大きく頷いて
「良いですね…、それ、凄く良いです。僕もその考え方、真似させて下さい。西川先輩を見て、工藤先輩の言う事が、嘘や夢物語じゃないって、本当に思います…。だって、西川先輩こんな迫力の有る人の横に居ても、凄くリラックスしてますし、幸せそうですもんね」
 狂に告げて、絵美に微笑みかけた。

 絵美は明神の言葉を聞いて、少し頬を赤く染め
「はい。私は工藤様と出会えて、お側に仕えられる事が、本当に嬉しいんです。心の底から、幸せを感じています」
 ニッコリと花の様な笑みを浮かべ、明神に答える。
 その表情は、可憐な少女の面影を残しながら、ゾクリとする女の色香を含み、妖しげな艶を浮かべていた。
 明神は絵美の微笑みを見て、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
 絵美も狂の手により、奴隷の高みを上っていた。

 絵美の微笑みに固まった明神に、狂は黒澤達調教教師の役目を伝える。
 基本的に教師は、生徒を調教しない。
 罰則は与えるが、それはあくまで罰であり、調教の部類には入らない。
 では、一体何をするのかと言うと、実演を伴ったアドバイスである。
 奴隷教師を使い、生徒からの質問に対して、その調教方法を手解きするのが、黒澤達指導教員の役目だった。

 調教教師は生徒と同じように、その奴隷の質によりポイントを持ち、各ランクに分かれる。
 中級指導教師は、Bランクと[黒首輪]を持ったCランクの教師で、Aランクは上級指導教師、Sランクは特別指導教師と呼ばれた。
 教師達はアドバイスして生徒を育て、奴隷化した生徒により、ポイントが加算される。
 それは、生徒の管理者が奴隷生徒が[黒首輪]に成った時、1名だけ名前を挙げる事により、その教師にポイントの10%が与えられた。
 これにより、調教教師達は自分の管理する奴隷教師を調教するか、生徒に調教を教えてポイントを上げるか、または青首輪を調教し奴隷教師を増やすか、チョイスできるように成った。

 伸一郎はこの制度を取り入れ調教教師が生徒達と同じように、奴隷育成に没頭する様に企んでいたが、黒澤達はこれを読んでいた為、伸一郎の思い通りには動かなかった。
 黒澤達は狂の指示により、伸一郎の考える[奴隷=物]の考えを排除し、生徒達に自分の管理する奴隷との信頼関係と強い服従心を、徹底的に育成する事を指示されている。
 これは、本来伸一郎の支配の中では、必要ない物であった。
 何故なら、奴隷の主人は伸一郎只1人で、他の者は只の管理者だからである。
 管理者に強い服従を抱けば、それは伸一郎に取っては、只の邪魔な物にしか成らない。

 伸一郎にとっては、力で押さえつけられる、只の蟻の様な存在だと思っていた者が、強い絆で結ばれ、団結していると解れば、それは驚きに変わるだろう。
 狂はその驚きによる隙を待っている。
 巨大な伸一郎の堤を打ち壊す為に。
 だが、その考えはまだ、誰にも語られては居ない。
 全ては、狂の頭の中にある事だった。

■つづき

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