夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場1

 悦子がキサラと仲違いし、白井とコンビを結成した頃、狂の元に1本の電話が入る。
 それは教頭からの電話だった。
『工藤君大変だ! 今、理事長から電話が入って、中山君に白鍵以下の奴隷を自由に選ぶ権利と、その調教に一切の口出しを禁じる指令が降りたんだ。どうしよう…確かあの子は、要注意人物と成って居た筈だが、何か手を打たなきゃいけないんじゃ無いか?』
 教頭は慌てた声で捲し立てる様に狂に告げると、狂の返事を待った。

 狂は教頭の報告を受け、苦虫を噛みつぶした様な表情になり
(んだって…全く、あっちこっちで、バグばっかり起きやがる! 確かあいつは、俺のミスで目覚め方がおかしかったんだよな…。監視カメラも無いから、あいつの調教もわからねぇ…。理事長からダイレクトで指示が出たって事は、あのアマ直に会いに行きやがったか…。ったく、調子に乗りやがって…)
 狂は教頭の報告を受けて、状況を直ぐに推測する。
「あのアマ…舐めた真似しやがる…」
 狂の口から思わずボソリと言葉が漏れ、教頭に暫く様子を見る様に指示すると、通話を切った。

 狂は暫くジッと考え込むと、携帯電話を持ち直しコールを始めた。
「おう、キサラか? 俺だけど…。確かあんた、中山悦子とは仲が良かったな?」
 狂はキサラに電話を掛け、悦子との仲を問い掛ける。
『う゛〜ん…その名前、今聞きたく無かったな〜…。悦子ね…やちゃったの…。女の子壊しちゃった…』
 キサラは凄まじく不機嫌な声で、狂の質問に答えた。
 だが、狂はそれ所では無かった。

 旧生徒会室の自分の椅子から、ガタリと落ちる程の驚きを示し
「ちょ、ちょっと待て! 今お前、なんつった? 女の子壊したって言ったか!」
 狂は体勢を立て直しながら、電話口に食って掛かる。
『ちょっと! 私も苛ついてるんだから、責めないでくれる! 私もかなりやばい状態なんだからね。どうしようか、こっちも悩んでんのよ』
 キサラも電話口で、怒鳴り始め収拾が付かなく成り始めた。

 狂は一呼吸置いて、気持ちを落ち着けて
「おう、悪い。んで、壊しちゃったってどんな状態だ? 手足は揃ってるのか?」
 キサラに問い掛けると
『ああ、そっちじゃないわ、頭の方よ…。アレは多分洗脳の技法を使って、自我を押し込めたのね…。人形みたいに成ってたわ…』
 キサラが不機嫌そうに、狂に答える。

 狂はその答えを聞いて、大きく溜息を吐き
「頭かよ…ホッとしたぜ…。そっちなら、多分稔が治せる筈だ…。薬物や、長期間の洗脳でもない限り、あいつは殆どの事は治しちまう…」
 キサラに安堵の言葉を言った。
『甘〜い…、狂ちゃん甘いわよ…。悦子の覚えた洗脳術は、半端じゃないんだからね…。私の30年の結晶が、あの子の中に有るのよ…1ヶ月有れば、完全に自我を消し去れるわ…』
 キサラは狂の安堵を完全に否定する内容を告げる。

 狂はキサラの言葉を聞いて、暫く口を開いたまま呆気に取られ沈黙すると
「おい…、そんな危ねぇ物、何で教えたんだ…」
 ボソリとキサラに告げた。
『あ、あら嫌だ、だってあの子物覚えが凄く良いんだもん。私もこの年だしさ、後継者の1つも作んなきゃいけ無いし、私にもそれなりの都合が有ったのよ…』
 キサラはコロコロと笑いながら、狂に言う。

 狂は頭を抱え込むと
「俺の厄介事を教えてやるよ…。その、30年の結晶さんが、何と奴隷選び放題の権利とご意見無用の金看板を手に入れちまったんだ。それも、理事長から直にな!」
 悦子の得た権利をキサラに教えた。
 流石に電話の奥で、キサラが息を呑む気配がし
『それって…、かなりやばく無い?』
 狂にソッと問い掛けて来る。

 狂は大きく溜息を吐くと
「ああ…、半端無くやばい。だが、現状どうする事も出来ねぇ…」
 ボソリとキサラに呟いた。
 暫くの沈黙が続き、キサラが話し掛けようとした時
「ちょ、ちょっと待て! やべ…、限界が来た…。俺の意識が保たねぇ…」
 狂の視界がフワリとぼやけ、意識が突然怪しく成る。
(やっべぇ〜…。最近無理し過ぎちまってたからな…、この感じ5日ぐらいか…)
 狂はオーバーワークが溜まり過ぎて、意識を維持出来なくなってしまった。

 電話口の向こうで、キサラが喚いていたが、その交代は突然起こった。
 狂の瞼が閉じ、ピクピクと震えると、キョトンとした表情で純に変わる。
(あれ? 変わちゃった…。こんな変わり方、久しぶりだな…)
 純はキョロキョロと辺りを見渡し、手に持った携帯電話に目をやる。
 その携帯電話から、相手の声が聞こえているのに気付き、耳に当てた。
『ちょっと! どうしたのよ! 何か言いなさいよ!』
 電話口の向こうでキサラが、喚きまくる。

 純はキサラの怒鳴り声に顔をしかめて
「あの〜…、狂兄ちゃん寝ちゃいました…。多分5日ぐらいは出て来られないと思います」
 キサラにおずおずと話すと、キサラのキーが2つ程跳ね上がり
『何〜! こんな、やばい状況で、何暢気に引っ込んでんのよ! 僕ちゃんで乗り切れる局面じゃ無いでしょ!』
 純に怒鳴り散らす。

■つづき

■目次4

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊