夢魔
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■ 第31章 農場11

 悦子は小室の提案した責めの、クライマックスからフィニッシュ迄、一言も喋らず見ていた。
 いや、正確には喋れなかったのだ。
 その独創性、その凄惨さ、その残酷さ、苦痛、恥辱、陵辱性、非人間性どれをとっても、鬼畜以外の何者でも無い。
「あんた…こんなの、他に何個か持ってるの…」
 悦子がポツリと、小室に問い掛けると
「ええ、実際に試した事は有りませんけど…。それより、良いんですか? あれ、本気で使い物にならなく成りますよ…」
 小室は悦子の言葉を肯定し、ローザを指さして悦子に問い掛ける。

 悦子は小室に鼻で笑い
「あれは、とっくに壊れちゃったわ…」
 ローザに視線を向け肩を竦めると、その言葉を途中で中断し、目を細めてローザの口元を見詰める。
 ローザの口元は微かに震えている様に見えたが、その奥でヒラリ、ヒラリと舌が動き、何かを呟いていた。
 モデル業界で鍛え上げられた、ローザの自我はあれ程の責めにあっても、壊れきる事は無かった。
「あら…。あれ本当に強情ね…、まだ自我が壊れきってないわ…。小室、お前ならあれどうする?」
 悦子がそれに気づき、小室に問い掛けると
「私ですか? 私なら、あそこまで強い自我を消さずに使いますね…。私はイメージが乏しいせいで、得意では無いんですが、暗示を掛けて見るのも面白いでしょう。あれだけの痛みを受けたんです、それを身体に覚え込ませ反抗心を縛り、屈辱や恥辱を感じると身体が激しく反応するようにしむけて、自我とせめぎ合わせるんです。自分の身体の快感が自我を責め苛み壊して行くんです、面白いと思いませんか」
 小室はゾッとする微笑みを浮かべ、淡々と悦子に語った。

 その言葉を聞いていた白井が、ゾクゾクと震えながら、顔を興奮で真っ赤に染め
「良いわ〜…それ、見てみたい…。あの綺麗な顔が、汚辱と屈辱にまみれて本気でよがりまくるの…。そして、それだけがあの子の快感…。ねぇ、面白くない? 中山さん…」
 悦子に擦り寄りながら、小室の意見に賛同する様薦める。
 悦子は少し考え込むと
「良いわ、そうしましょう…。あの女を飾り付けるのは、その後で良い…。先ずは、地獄の底を這い回らせて、汚辱感にまみれさせましょ…。あの女は、それだけされても仕方がない事を私にしたものね…。私を誤魔化して騙そうなんて、許されない行為よ…」
 小室の意見を取り入れ、ローザを自虐人形として調教する事を決めた。

 悦子が決断すると小室は大水槽に近づき、水槽の水を抜きデンキウナギの回収を始める。
 小室は水が膝下まで抜けると、水槽の前面ガラスを下げて中に入り、ローザの股間に潜り込んだ2匹のデンキウナギに麻酔薬を打ち込んで引き抜くと、大切そうに別の水槽に移し、残りの1匹も回収した。
 デンキウナギを回収し終えると
「暗示を掛けるのに、良い物を持って来ます…」
 小室は悦子に告げて、デンキウナギの入った水槽を台車に乗せ調教室を出て行く。
 その後ろ姿を見送りながら
「私に縋り付いたあいつと今のあいつ…。どっちが本当のあいつなんだろう…」
 悦子がボソボソと呟いて、ローザの元に向かう。

 悦子は水槽の水が微かに残る中、チャパチャパと音を立てながらローザに近づくと、脚の固定を外しクレーンを操作し、部屋の中央に移動させる。
 ローザはダラリと吊り下げられて、移動している間ガックリと首を落として
「いたいのはいや…、いたいのはいや…」
 何処も見ていない目を見開き、蚊の鳴くような声で、小さく呟いていた。

 数分後小室が調教室に戻り、悦子の側によると、ポケットの中からビニールのジップケースを取り出す。
「これが、先程言った物です」
 小室は先程の酷薄な雰囲気を漂わせながら、ポケットから出した物を悦子の目の前に翳した。
 それは3重のジップケースに入れられ、厳重に封をされた茶褐色の粉だった。
 悦子が訝しそうに覗き込み
「何? 薬…」
 小室に問い掛けると
「薬とは少し違います…。これは、南米大陸のごく一部に生息する毒蛾の鱗粉です…」
 小室はニンマリと微笑みながら、悦子に説明した。

 悦子は小室の説明を聞き、[また南米か]と感じながら
「毒蛾の鱗粉? っで、それにどんな効果が有るのよ…」
 眉をしかめて、小室に問い掛ける。
「この鱗粉は主に気管から吸収されて、体内に入ると脳内に働きかけ前葉頭の動きを抑制し…」
 小室が得意気に悦子に説明を始めると、悦子は小室の説明を直ぐに止め
「意味が分からないわ…。だから、どうなるのか分かり易く説明しなさい」
 苛立った顔をすると、小室の説明を一蹴する。

 小室は悦子の剣幕に、頭を掻くと暫く考え
「ああ、済みません。分かり易く言いますと、これを使えば催眠術が使えない者でも、催眠状態に出来るんです。今のローザのように自我が追い詰められていたら、かなりの強催眠状態に成ると思いますよ」
 平たく噛み砕いて、説明した。
 小室の話しに、悦子が胡散臭そうな視線を向けると
「いや、勿論本物の催眠状態とは違いますよ。只、それに近い状態に成ると言うだけです。それに、これを使うと暗示を掛けるのが難しいんです。イメージや暗示を掛ける事の筋道が通っていないと、その場限りに成ってしまう事が多いんで、私には使い辛いんですよ」
 説明を補足して、悦子を納得させる。

 悦子は表面上は納得して小室に鱗粉を使わせたが、まだ信頼しきっていなかった。
(そんな便利な物を人の為に使うなんて、こいつがするかしら…? そこまで私に尻尾を振っているようには、見え無いんだけどね…)
 悦子は小室が自分の為に秘蔵品迄提供する行動が、どうしても信じられなかったのだ。
 しかし、悦子はその後の小室の行動を見て、何となく勘付いた。

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