夢魔
MIN:作
■ 第31章 農場20
そんな中、1人の女生徒が顔見知りの女生徒を見付け、近付いて声を掛ける。
「おはよう。その歩き方…、今後ろ…?」
女生徒が挨拶をして、問い掛けると
「あ…、おはよう…。うん、やっと貰えた[宿題]なんだ…。でも、これかなり辛い…。貴女やった?」
女生徒は慎重に呼吸をしながら、声を掛けて来た女生徒に問い掛ける。
「えっと…どっち?[拡張][締め]…?」
問い掛けられた女生徒が、問い返すと
「[締め]よ」
女生徒は苦しげに短く答える。
話し掛けた女生徒は、苦しげな女生徒の答えに
「あ〜…。私昨日[拡張]の[宿題]やったばかりだから、そっちはまだよ…」
心配そうな顔で答え返すと
「じゃあ教えておいて上げる…。これ、本当に辛いわよ…」
真剣な表情の女生徒が、真剣な声で答える。
「あ…う…。本当に辛そう…。何か私手伝える?」
女生徒が再び問い掛けると
「黙って、見守って…」
真剣な表情の女生徒が、端的に告げた。
心配して居た女生徒は、自分が話し掛ける事自体が、その女生徒に取って相当邪魔だった事を始めて理解し
「ご、ごめんね…」
立ち止まって小さく謝った。
真剣な表情の女生徒は、そんな女生徒の謝罪に無言のまま、サムズアップのポーズで応える。
声を掛けた女生徒は、その仕草を見て、後ろから黙って着いて行き見守った。
学校の周りに有る商店や、同じ道路を通るサラリーマンは、この光景を黙って盗み見ている。
それは、数日前に起こった事件が元だった。
この朝の登校風景を聞き付けた近隣の質の悪い学生達が、数十人単位で集まり、ちょっかいを掛けて来た。
だが、その学生達は、どこからとも無く現れた、更に質の悪い職業の者達に連れて行かれ、殆どが病院送りに成った。
その話はこの学校の通学路界隈に、瞬く間に拡がり誰1人手を出そうとしなくなる。
そんな事件があり、女生徒達は誰に手を出されるでも無く安全に登校が出来た。
だが、それはあくまで物理的な安全のみで有った。
彼女達にはもっと辛い好奇の目が、容赦無く注がれる。
それは、病院送りに成った者は、実際に手を出し揶揄した者に限られていた事から、[見ている分には構わない]と言う仮説が立てられた。
そして、その仮説は実践され、誰1人危険な目には遭わなかった。
すると、その噂は再び光の速度で周囲に広まり、1つの結果をもたらした。
まず、この通学路をその時間通るサラリーマンや男子学生が増えた。
それは、異常と言える程の増え方だった。
まるで休日の渋谷並みに人で、溢れかえる様に成る。
その中には、良からぬ事を考える輩も居り、女生徒にストーキングを掛ける者や、その姿を盗み撮りしようとする者、わざとふらつく女生徒に近づこうとする者が現れた。
しかし、その者達はこの通学路から強制排除される。
何処から途もなく現れる、その筋の者に路地に引きずり込まれ、丁寧な説得を受け二度と現れなくなった。
そんな事があり、この通学路に立ち入る為には、暗黙のルールがある事をサラリーマンや男子学生達は理解する。
その1として、女生徒達の姿や行為等の如何なる撮影も一切禁止。
その2として、女生徒達の素性を調べたり、明かそうとする行為は一切禁止。
その3として、女生徒達に直接触れたり、その登校の邪魔をする事は一切禁止。
以上のルールを理解すれば、見る分には自由で、それを破った場合二度とこの登校風景を見る事は叶わない。
必然、通学路に面した喫茶店やコンビニには、年若いサラリーマンや男子学生が、雁首を並べ女生徒達に好奇の目を向ける。
そして女生徒達が飲み込まれる、威圧感有る学校に男達の目線は釘付けに成り、その中で何が行われているのか、妄想を膨らませた。
だが、その男達の妄想を遙かにしのぐ現実が、女生徒達に降り注いでいるとは、誰も思っていなかった。
この通学時のシステムは、田口の提案だった。
田口は子飼いの暴力団を使い、女生徒に危害を加えさせず、羞恥心を煽る狙いが有ったのだが、その狙いは見事に的を得る。
登校時に向けられる好奇の目は、女生徒達の羞恥心を掻き立て、自分達が普通の性癖で無い事をその身に焼き付けさせた。
登校した女生徒達は、[審判室]に入り風紀委員の点検を受け、教室か職員室か風紀委員室に向かう。
教室に向かう女生徒の表情は、安堵に染まり、職員室に向かう女生徒は、期待か不安のどちらかを浮かべ、風紀委員室に向かう女生徒は、絶望に打ちひしがれて、その歩みを進める。
そんな黒鍵達の登校が終わり、30分が経つと、悠然と通学路を2人連れのグループが通り始める。
女生徒と女生徒、男子生徒と女生徒。
その組み合わせはどちらかだったが、必ず女生徒が後ろを影のように付き従い、鞄を2つ持って登校する。
そしてこのグループの特徴として、前を歩く生徒の首には首輪は無いが、後ろを歩く女生徒の首には、緑色の首輪と銀色の鍵が嵌められていた。
そのグループを見守る、暇な男達は、この2人連れがどう言う関係であるか、憶測している。
その憶測は決して外れでは無いが、多くのギャラリー達はそれを否定していた。
いや、実際は全員が認めたくはなかったのだ。
何故なら、前を歩く生徒の容姿は凡庸な者が多かったが、後ろに付き従う女生徒達は、皆一様にスタイルの良い美少女で、その美少女が前を歩く生徒と、自分達の考える関係にあるなど、決して認める事が出来なかったのだ。
ギャラリー達はそのグループを羨望の目で見る。
その前を歩く人間が、自分で有ればどれだけ幸せかと、全員が本気で考えていた。
■つづき
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