夢魔
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■ 第31章 農場21

 その日京本は、酷く頭を悩ませていた。
 それは、前日の夜に教頭から入った、1本の電話が原因だった。
『京本君、実は先程、今週末の「勉強会」について理事長から通達が有ったんだが…。その〜、君の管理している叶先生の事で通達されて、連絡して居るんだが…』
 教頭は煮え切らない態度で、京本に電話で告げ始める。
「どうしたんですか? 最近の教頭らしくないですね…。志保理の事で何かクレームでも、有りましたか?」
 京本は教頭に快活な声で問い掛けた。
『う、うん…。君には非常に言いにくいんだが、叶先生はほら、処女のままで14ポイントのゴールドナンバーじゃないですか…、それでですね…』
 教頭が言いかけた時、教頭の言わんとする事を京本は直ぐに理解する。

 京本は教頭の言葉を制するように
「オ○ンコを使えるようにしろと…。そう、理事長から命令されたんですね…。解りました、その件については善処します」
 低く響く声で、教頭に告げる。
『あ、有り難う。君の思う所も有ったんだろうが、無理な指示を出して済まんね…』
 教頭が京本に詫びると
「いえ、教頭先生が悪い訳ではありません。それよりお気を使って頂いて、有り難う御座います」
 京本は教頭の詫びに、感謝の気持ちを告げ通話を切った。
 それが深夜の事だった。

 京本は志保理を体調維持の為、深夜まで使う事は無く、その日も寂しそうに見上げる志保理を家に帰し、1人眠りに着き掛けた時に受けた電話は、京本をベッドには入らせなかった。
 綺麗に掃除の行き届いた、リビングのソファーに座った京本は、ジッと考え込み朝を迎える。
 京本は志保理に対して、管理者以上の感情を持っていた。
 それは自分でも理解し、成るべく表さないように気をつけている。
 何故なら、志保理はこの市最大の権力者の所有物だからだ。
 その感情を表に出せば、志保理は必ず京本の手から、他者に移る事は明白だと解っている。

 そして、京本はその特別な感情を持っている奴隷に対して、命令により大切にしている物を奪いたくは無かったのだ。
 それに、京本は志保理の恥辱に震える反応や、気の強い視線が涙を浮かべながら懇願する表情、別の生き物のように動くアナルの感触、それら全てが処女だから存在していると考えていた。
 京本はその志保理のバランスが崩れる事を何より恐れ、避けたかったのだ。
 痛みを克服し、今ではそれで感じれる程に成長した志保理は、京本の宝だった。
 京本はその宝を壊すかも知れない、行動にどうしても踏ん切れなかったのだ。
 京本はそんな事を考えながら、まんじりともせず一晩を過ごした。

 京本は少し隈の浮いた目元を押さえながら、職員室の自分の席で答えの出なかった、昨夜の問題を持て余していた。
「お早う、どうしたんです? 京本さん…。貴方にしては、珍しい姿ですね? 何か悩み事でも…」
 出勤してきた黒澤が、京本に問い掛けると、京本は黒澤を見詰め
「えっ、解りますか…? そうですか、顔に出ていましたか…」
 自嘲気味に微笑んで、顔を両手で覆い目の辺りをもみほぐす。
 黒澤は少しキョトンとした表情で
「ええ、一目で分かりますよ…。先生、今日は鏡を見られましたか?」
 京本に問い掛けると、京本は静かに首を横に振った。

 首を振りながら京本は、自分の顔を覆った手を頬に下げると、ザラリと無精ひげの感触が手に当たる。
(何をして居るんだ私は…。そう言えば、今日は気付けば出勤の時間だったから、洗顔もしてないし、ひげも剃っていない…)
 京本は「校内一身形を気にする教師」と評判だったが、それすら忘れる程、思い悩んでいた自分が、既にバランスを無くしている事に気付いた。
 京本は頬に当てていた手を、スッと下に降ろすと[ふぅ〜]と大きな溜息を吐き
「黒澤先生、少し相談に乗って頂けますか?」
 黒澤に意見を求める。
 黒澤は真剣な表情で、顎を引き同意すると、2人は足早に職員室を後にした。

 2人は小会議室に入ると、椅子に腰掛ける間も惜しんだ京本が黒澤に一気に昨夜の事から、自分の感情までを打ち明け相談した。
 黒澤は京本の話をジッと黙って聞き入ると、京本が話し終えるまで京本を見詰める。
 京本は自分の中に溜まった思いを一気に吐き出すと、毒素が抜けたようにフッと、張り詰めていた物が抜けて行き、気が楽になった。
 そんな京本に、黙り込んでいた黒澤が頷いて
「貴方は、叶先生を特別な感情を持って見ていると言い、それを表面に表していないと仰っていましたが、そこは間違いです。京本先生が叶先生を特別な視線で見ている事を全員が知っています。叶先生も恐らくご存じの筈です…」
 京本に端的に告げた。
「そして、これが理事長からの通達なら、私達に拒否権は有りません。叶先生とご相談なさるのが、1番だと思います。1人で悩んでも仕方が有りませんよ」
 黒澤は京本の反応を見ながら、明確な解決策を提示する。

 黒澤の解決策は、正にそれしかない物だと、誰もが解る事だったが、京本のバランスが取れなくなった頭には、全く浮かんで来なかったのだ。
 京本は目の前が開けたような気持ちになり、黒澤に感謝すると直ぐに志保理を探しに行った。
 携帯電話のサーチソフトを使い、志保理を探すと、志保理は保健室にいた。
 京本は直ぐ斜め前に有る引き戸に向かい、扉をノックして中に入る。
 するとそこには志保理が診察椅子に座り項垂れ、その前の事務椅子に座ったキサラに、何かを伝えられて居たようだった。

 扉が開く気配に気付いた志保理が顔を上げ、後ろを振り返り京本と目線が合うと、志保理の瞳が大きく開き、直ぐに顔を歪めると、ボロボロと大粒の涙を流し、震え始める。
 その志保理を見た瞬間、京本の身体がカッと熱くなり、鋭い視線をキサラに向け
「何を言ったんです…。私の管理する、志保理に何をしたんですか?」
 低く響く声で、キサラに問い詰めた。
 キサラはその視線と言葉を微動だにせず受け止め
「あら、昨日あなたの所に、教頭から電話が行かなかった? 私も別の指示を理事長から受けたから、それを伝えていたのよ。この子のオ○ンコを2日で仕上げろって命令をね…」
 京本に理事長から指示が出ていた事を教える。

 京本はキサラの言葉に、もう後が無い事を感じた。
 志保理は泣きじゃくりながら
「私が、未熟な為に…京本様に…差し出す事も出来ませんでした…本当に、申し訳御座いません…」
 京本に謝罪すると、京本は志保理の言葉が過去形に成っている事で、愕然とし
「志保理は未熟なんかじゃない…。私が無理強いしたく無かっただけだったんだ…、済まん…お前がそんな風に自分を追い詰めていたとは、思いもよらなかった…。だが、それも後の祭りか…」
 志保理を抱き締め、涙を拭いながら謝罪する。

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