夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場35

 時間は放課後の剣道場に戻る。
 剣道場の物置に隠れた、3人の少女はドンドン増える奴隷教師達に驚きながら、脱出のタイミングを完全に逸していた。
「どうしよう…、まだ人が集まるみたいよ…。絶対バレたら怒られて罰を受けるわ…」
「そ、そんな事言ったって、こう成ったんだもの、どうしようも無いじゃない!」
 ヒソヒソと2人の少女が言い合いしていると
「ふぇ〜ん…、だから、嫌だったのよ〜…」
 消極的な少女が涙を浮かべ、抗議する。

 積極的な少女が、眉を逆立てながら、消極的な少女に何か言いかけると
「おはようございます」
 奴隷教師達が口々に、入り口に向かって挨拶を始めた。
 その声を聞いた積極的な少女が、びくりと震えソッと剣道場内に視線を向けると、ユックリとその視界に女性達が現れる。
「うわぁ〜…。大城先生だ〜…、光子先生迄居る〜…。指導教師が来ちゃったよ〜…」
 情けない声を上げながら、2人を見詰めた。

 だが、奴隷教師の挨拶は、まだ終わらなかった。
 奴隷教師の挨拶に応え、次々に剣道場内に人の気配が増えて行き、その姿が3人の視界に入る。
「あっ! 京本先生…、山源先生に山孝先生…、大貫先生も居る〜〜〜…、終わりだわ…私達絶対終わりよ…」
 流石の積極的な少女も、事の重大さにガックリと肩を落とすと、消極的な少女が[ひっ]と息を呑む。
 その気配に積極的な少女が、再び視線を戻すとそこには黒沢の姿が有った。
「こ、ここの剣道場って…。黒沢先生達の集合場所だったの…」
 積極的な少女がボソリと呟くと
「私達、とんでも無い所に忍び込んじゃった…」
 もう1人の少女が、ボソボソと囁く。

 少女達が激しく後悔をし始めると、黒沢が深々と頭を下げて
「おや、今日はお早いですね。うちの者達も、もうじき仕上げの段階に入りましたし、ユックリ為さっても宜しかったのに…」
 黒沢は丁寧に挨拶をしながら、訪問者を招き入れる。
(な、何? 誰が来たの…? 何なのこのみんなの反応…。女の先生みんな真っ赤じゃん。あっ、大貫先生まで…)
 その訪問者を確認した男性教師は、皆礼を尽くし、女性教師は頬を例外なく赤らめた。

 そしてその訪問者の姿が、積極的な少女の視界に入ると、少女はその意外さに思わず声を上げ掛ける。
 それは、言わずと知れる真だったのだが、生徒にはただの用務員としか知らされて居なかった。
 そんな真が黒沢が何か言いかけるのを軽く手を挙げて止め、静かに口を開く。
「おや、おや…子猫が迷い込んでますね…。そう、1、2、3匹隠れていますよ…」
 真の言葉を聞いた黒沢が、スッと目を閉じると、直ぐに目を開いて物置を見詰めた。
 積極的な少女は、黒沢とまともに目線が合い、パニックになる。

 黒沢の表情は、相当怒りを顕わにし、真っ直ぐに物入れに足を踏み出そうとする。
 その黒沢の腕を真が掴み
「穏便にお願いしますね…、そう悪気のある気配では有りませんし…」
 黒沢に向かってニッコリと微笑んだ。
「え、源さん…、ですがここは、一般生徒立ち入り禁止です。重校則違反を犯して居るんですよ…」
 黒沢が真に告げると
「どこの馬鹿が決めたか分からない校則に、貴方程の人が縛られてはいけませんよ。ここは一つ、私の顔を立てて下さい」
 真はニッコリと笑顔を作り、真剣な眼差しで黒沢に依頼する。

 黒沢も真にこんな表情を向けられては、従う以外に無く
「分かりました、穏便に対処します…」
 苦笑いを浮かべ、真に頷く。
 真はニッコリと微笑み
「我が儘を言って済みません。どうも、あの子達は私に興味が有って、こう言う事に成ってしまったようなので…」
 黒沢に告げながら、頭をポリポリと掻く。
「えっ? それはどういう事ですか?」
 黒沢が問い掛けると、今日1日ずっと同じ視線が、真を観察していた事を告白し、今ここにいる生徒の視線と気配が合致する事を告げる。

 黒沢が少し驚き、頷くと
「全てご承知の上のようですね…。分かりました、源さんに任せますよ」
 黒沢は真の意向に沿う事を約束した。
 真が黒沢に頷き、ニッコリと微笑みを浮かべ物入れに足を踏み出し、ソッと物入れの扉を開ける。
 3人は物入れの中で手を取り合って、震えながら立っていた。
「こら、こんな所に忍んでいては、いけませんよ。ここは、貴女達の来る所では有りません。早々にお引き取りなさい」
 真がニッコリと微笑んで、3人の少女に告げる。
 3人の少女は、顔を引きつらせ、物置から出ると、悪戯を見つけられた子供の様に、俯きがちにキョロキョロと辺りを盗み見た。
 一部の奴隷教師が緊張して、3人を見詰め、他の奴隷教師はこれからどうなるのか、心配で気が気で無い。

 3人の少女が真と黒沢の前に立ち、俯いたままチロチロと真と黒沢の顔を見上げると
「さあ、黒沢先生には、私から許可を頂きました。貴女達は早くここから帰って、ここの事は忘れなさい」
 真の優しい言葉と声音に少し落ち着きが戻り、ついつい調子に乗り
「あ、あの〜…。用務員さんは、何者なんですか…?」
 真に向かって積極的な少女が問い掛けた。
 その言葉に、黒沢が呆れ返って溜め息を吐き、少女達に向かって
「そう言う事を聞ける状況かどうか、よく考えなさい…」
 静かに低い声で注意する。

 その声にもう1人の少女と消極的な少女が、ビクリと震え積極的な少女の腕を掴み、必死に制止しようとした。
 積極的な少女は、しまったと言う顔をして、質問を引っ込めようとすると
「あ〜〜〜っ! どうして、3人がここに居るの! ぼ、僕、言ったよね[好奇心は猫をも殺す]って…」
 剣道場の入り口に少年が立ち、大声を出して驚いた。
 その声に全員の顔が弾かれた様に上がり、入り口に視線を向けると、そこにはキサラと純が立っている。
 キサラは苦笑いを浮かべ、純は呆気に取られた表情で真っ直ぐ3人の顔を見詰めていた。

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