夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場39

 小室と薫はエレベーターを降りると、急いで風紀委員室に入り、風紀委員長室の扉をノックする。
「急ぐわよ! 待ち合わせの時間まで、後8分も無いわよ」
 薫のノックと同時に、悦子の怒声が飛び、薫は首をすくめて小さく成った。
「早くしなさい。ええい、もう良いわ、お前はそのまま来なさい! 時間が無いわ」
 悦子はそう怒鳴ると、薫の目の前を横切り、全裸で着いてくる様指示する。
 薫は項垂れながら、悦子の直ぐ後を追い、肩を竦めて小室もそれに続く。

 エレベーターで1階に下りた3人は、真っ直ぐ小室の車に向かった。
 鍵を開けた小室は、素早く助手席側の後部座席の扉を開き、悦子を乗せると、後ろを回って反対の扉を開け、白い布を取って運転席に収まる。
 助手席に乗り込んで、シートベルトを嵌めようとする薫に、小室は白い布を差しだし
「何も無いよりはましだと思いますし、まだ人目も有ります。良かったら使って下さい…」
 薫に微笑みながら、告げる。

 薫はその布を受け取り怪訝そうに広げると、それは少し汚れた白衣だった。
「いや〜、洗濯しようと思って、車に乗せてたんですが、忘れていましてね。まさか、こんな風に役立つとは思いませんでした」
 小室は頭を掻きながら、後部シートの悦子に愛想笑いを送り、言い訳した。
 だが、悦子の視線は小室よりも助手席に向いている。
 悦子は、ヨレヨレの白衣を広げ身に纏い、頬を染めながら車外の光景に視線を向ける薫の表情を、ジッと見ていた。

 小室はその悦子の表情をルームミラー越しに見て、ゴクリと唾を飲み込み
(何か感づいたか…。だが、直接手を出した訳じゃない。私が気に病む事もないが…、処女は考えが直ぐに行動に出る…。これからは、少し慎重に扱わなきゃな…)
 悦子の視線を推し量りながら、急いで車を出した。
 小室の運転する車は、タイヤを軋ませ一路水無月家に向かう。

 小室は約束の時間の40秒程前に、水無月家の玄関が見える場所に車を止める。
 車から見える水無月家の2階の1室に、電気が灯っているのが確認出来た。
 小室には分からなかったが、その1室は久美の部屋で、今現在その中では兄が、久美を抱え号泣している。
 そんな時背後から黒と白のツートンカラーの車が近づき、小室の車の直ぐ横に止まった。
 小室は、ドキリとして焦り始める。
 何せ横には、全裸の上に白衣を羽織っただけの女生徒が乗っているのだ。

 焦る小室の心をよそに、車から制服を着た男が降りて来て、運転席の窓ガラスをノックする。
[もう駄目か]そう思いながら、小室がウインドーを下ろすと、男は小室に向かってライトをかざし
「免許証を見せて頂けますか?」
 低い声で問い掛けてきた。
 小室はその言葉で慌てふためきながら、免許証を探すがどこにも見あたらない。
 小室が焦って、バタバタと動き始めると
「関係者よ。佐山さんに言われて、ここに来たの…」
 後部座席から、悦子が落ち着いた声で男に話しかける。

 悦子の言葉を聞いた男が、途端に態度を変え
「あ、そうでしたか。ここは目立ちますので、車を移動して下さい。不審車両として、手配される恐れも有りますから、この道を50m進んで直ぐの駐車場に移動して下さい」
 小室に向かって場所を指定し、敬礼して車に戻った。
 車は男が乗り込むと直ぐに走り始め、小室はそれをキョトンとした顔で見送る。
「何してるの。早く言われた場所に移動しなさい」
 後部座席から悦子が小室に命じると、小室は弾かれた様に動きだし、車のエンジンを掛けた。

 小室達が駐車場に着くと、悦子の携帯電話が鳴り、悦子が電話口に出る。
「はい、中山です。今指定の駐車場に着きました」
 悦子が電話に話しかけると
『今から始めますが、貴女達は極力見ない様にしておいて下さい。その方がお互いの為です。奴隷の方は別の場所で、そちらにお渡しします。黒のワンボックスが来るまで、そこで待っていて下さい』
 佐山が悦子に答え、一方的に通話を切る。

 悦子は携帯電話を片づけながら
「ここで待ってれば、直ぐに来るって…」
 小室達に告げた。
 小室は、ただ頷く事しか出来ず、黙ったまま運転席からミラーを見渡していた。

 しばらくの沈黙の時間が続くと、小室の視界にライトが飛び込んでくる。
 小室が目を細め、そのライトの主を見ていると、その車は駐車場の脇で止まった。
 小室が怪訝そうな表情で、その車を見ていると、ハザードがたかれ、2度ハイビームに切り替え、ユックリと動き始める。
「あの車ね…、小室出しなさい…」
 悦子が静かに告げると、小室はエンジンを掛け車を駐車場からユックリ出した。
 小室の車の前に、そのワンボックスが回り込むと、スーッと速度を上げる。
 小室は黙ったまま、その車の後ろを着いて行った。

 黒いワンボックスを追いかける車の中で、小室はどうしても気になった事を悦子に問いただす。
「中山さん…。どうしてあの警察官が、今回の関係者だと分かったんですか?」
 小室の質問に、悦子は面白くもなさそうに
「警察官? そんな者どこにも居なかったわよ…。あの車も、あの男も似せてただけ…。それに、あいつらも一度も警官だって言わなかったでしょ…」
 悦子にそう言われて、小室は初めて指摘された内容に気づいた。
(あの車…ツートンカラーに赤色灯…。でも、確かにそれぞれのデザインは、少し違ってたぞ…。それに警察官が着ていた制服、あれも少し形がおかしい…)
 小室は自分の記憶を総動員して、悦子の言う内容を思い出す。

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