夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場42

 あの美貌を誇った養護教員が、今では100歳を超える老婆と見まごう程痩せ細り、見窄らしい姿をしていた。
 常識を超えた薬物投与が、弥生の身体を蝕み、痩せ衰えさせたのだった。
 弥生が命を繋げているのは、単に真の教えによる、吸精の技術と真を思う心だけだった。
 そんな弥生は、佐山達が命じる効果の出る薬を、薬剤を調合して作り上げる。
 その薬剤に化学合成された、幻覚剤や毒性の強い薬物が混じっていようと、弥生はひたすら調合した。
 弥生の今の頭の中には、倫理観などは3の次4の次なのだ。
 優先順位は真に生きて合う事、次にその胸で泣く事、その為に生きながらえる事。
 それが、今の弥生の全てだった。

 佐山は薫に視線を向けると、目を細め何かを量るように見詰めると
「済みません、これから大切な話をします。貴女は無関係のようなので、車でお待ち下さい」
 薫を車に戻るように、指示する。
 薫は抗議しようとしたが、佐山の雰囲気に抗い切れず、渋々と1人車に戻った。

 佐山は悦子の顔を覗き込み
「私もね、さっきの子のような物を、作るのが好きなんですよ。どうです、情報交換をして、もっと優れた物を作りませんか? それこそ、どんな者でも意のままに操れる様な、[究極の人形]…。私と貴女の技術が有れば、不可能では無いと思いますよ…」
 妖しげな表情で、悦子に協力を求める。
(な、何…この人…怖い…。どうして? こんな普通の人に、私はこんなに恐怖感を感じるの…)
 悦子は佐山の顔を見てから、込み上げてくる恐怖感が、不思議で仕方がなかった。

 初対面の筈なのに、どこかで会った様な、昔から知っている様な、そんな気がして仕方がない上に、佐山の言葉に対して、否定する事が出来ないのだ。
 佐山の申し出に悦子の口が開き
「分かりました。私の知っている事は、全てお教えします…」
 悦子は佐山の申し出を了承する。
 悦子が了承すると、佐山はニッコリと微笑み
「貴方は、今は何をされて居るんですか?」
 小室に視線を向けて、問い掛けた。

 その言葉を聞いた小室は、グッと身体を強張らせ
「は、はい。今は学校で化学教師をやっています」
 佐山に答えた。
 佐山はその答えを聞くと、スッと目を細め
「貴方は、今は何をされて居るんですか?」
 全く同じ質問を繰り返す。

 小室はその問いに、息が詰まりそうになり
「は、はい…。中山さんの使用人として、調教を手伝っています」
 佐山の質問に答える。
 佐山はその答えを聞くと、スッと視線を悦子に向け
「この方は、貴方のお役に立っていますか?」
 悦子に抑揚のない声で問い掛けると
「は、はい…。SEXの技術や、動物…。特にアマゾン流域に生息する、珍しい生き物を使って、私の調教に役立っています…」
 悦子は、佐山の質問に答えた。

 佐山はユックリと悦子に何度も頷き
「そう、素直に何でも答えれば、何も起こらない…。呼吸も楽だし気持ちも落ち着くでしょ…?」
 悦子に問い掛けると、不思議と悦子の気持ちも落ち着き、緊張が解れ恐怖心が嘘の様に消える。
 だが、悦子は自分の変化に、全く気づかず、コクリと頷くだけだった。
 佐山はそんな悦子から、視線を小室に向け
「貴方も私に珍しい物を提供して下さいね。それがお互いの為です…」
 静かにそう告げると、小室は人形の様に何度も首を縦に振る。
 その小室を見詰め、佐山が悦子に行った事と全く同じ事を言うと、小室も気持ちが落ち着いてきた。
 すると、2人の動きが徐々に緩慢に成り、ユックリと首が下がって、ユラユラと揺れ始める。
 佐山はその2人を見て、ニヤリと酷薄な微笑みを浮かべ、2人に本格的な質問を始めた。

 佐山の何かの合図が聞こえ、2人の動きが元に戻ると
「では、これからも約束通り、協力をお願いしますね」
 ニッコリと微笑んで、2人に手をさしのべる。
 2人とも訳の分からないまま、佐山に協力を承諾すると
「それでは、今日の所はこれでお帰り下さい。私はもう少し業務が残っております。また連絡差し上げますね」
 佐山は慇懃な態度で、2人に返る様に伝えると、自分は奥の部屋に入って行った。
 佐山が奥の部屋に入ると、悦子と小室は途端に居心地が悪くなり、居ても経っても居られず、分院を後にする。
 2人が車に乗り込むと、不思議な事に今まで有ったソワソワとした感覚が消え、心が落ち着きを取り戻す。

 悦子は車の中から窓の外を見、空が明けてくる白さを感じ、時計に目を向ける。
 すると、時刻は4時を回っていた。
 移動時間も合わせて考えると、小室と悦子は分院に最低でも、2時間居た事に成る。
(私達、あの分院に居たのは、良い所30分程の筈…。これは、どう言う事…)
 悦子は佐山と顔を合わせてから、自分の動きが酷く緩慢に変わった事を、全く理解していなかった。
 それは、小室も全く同じで、2人して黙って考え込むのだった。

 いつまでも車を発車させない小室に、薫が業を煮やして
「小室! お仕事でしょ。しっかりしなさいよ!」
 小室に怒鳴りつけると、小室はハッとして、車のエンジンを掛け、移動を始める。
 小室は急いで車を出し、鉄扉を開けて貰い、分院のあるブロックを抜けると、大きく溜め息を吐いた。
 悦子も後部座席で、深い溜め息を吐き、人心地が着いた気がする。

 深くシートに身体を凭せ掛けると、悦子は何かを思いついて
「小室、行き先を変えるわ…少し早いけど、例の公園に車を回して。ローザの出来具合をみんなで楽しみましょう」
 小室に行き先を告げた。
 小室はミラー越しに悦子に頷くと、ハンドルを切り車の進行方向を変える。
 3人は酷薄な微笑みを浮かべ、ローザの嬲られている公園に向かった。

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