夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場45

 学校は週末の朝を迎える。
 その日の学校は、朝からソワソワと浮き足立ち、皆落ち着かない様子だった。
 各クラス委員は[宿題]や[補修]を受けた者をリサーチし、自分のクラスの予想習得点を弾き出す。
「クソ…うちのクラスは、今回のテスト捨てた方が良いかもしれない。予想以上に[宿題]成功者が少ない上に、[補修]も受けていないぞ…。これじゃ、隣の下位クラスにも負けてしまう…」
 ボソボソと廊下でクラス委員達が集まり、自分達のクラスの方針を話し合っていると、その後ろを女生徒がユックリと横切り、聞き耳を立てながらクラスに戻る。

 クラスに戻った女性徒は直ぐに自分のクラスの、クラス委員に内容を報告すると
「その情報を廊下で話していた? それは、ダミーだな…。あいつら、勝ちが微妙なんでこっちの調整を待っていると見るのが正しいだろう。良し、どっちにしても有益な情報だ。ほら、ご褒美だ」
 クラス委員は自分の管理する奴隷生徒を抱きしめ、乳房を揉みながら口吻を与える。
 奴隷生徒は両手を後ろで組み、嬉しそうに管理者に身を委ね、褒美を堪能した。

 その奴隷性徒を遠巻きに見詰めながら、羨ましそうにする集団と目を背ける集団が有る。
 しかしその人数差も、日を追うごとに開き始め、今では目を背けるのは、少数派と成っていた。
 京本と志保里の特別授業の後、その開きが顕著になり始めたのは、言うまでも無い。
 そして、多数派に成った少女達も、今日の試験を受験出来るかドキドキしている。
 それは、クラス委員長の判断に掛かって居るからだった。
 クラス委員長が、許可を出さない限り、試験を受ける事は出来ない。

 この試験の結果如何に依っては、クラス全体の権利が脅かされるのだ。
 クラス委員長は、慎重に成らざるを得ない。
 だが、このクラスの権利を、守るだけなら本来は簡単なのだ。
 各クラスが大量投入する週を決め、そこでトップを譲り合えば、ポイントの移動は均等なのだから、何の支障もない。
 しかし、上位のクラスはそれで良いが、下位のクラスには納得出来る筈が無かった。
 この[試験]を上手く乗り切れば、自分達の権利を引き上げる事が出来る。
 それを見過ごす程、無欲な者は1人も居ない。
 必然相手の攻撃を避け続ける為に、自分も同じ土俵に上がらなくては成らないのだ。

 クラス委員達が頭を悩ませる中、数人の女性徒達はソワソワしている。
 その女性徒達は、みっちりと[宿題]をこなし、教師達に高評価を受けていた生徒だった。
 その報告は、クラス委員にも知らせており、今日の試験を受ける本命の少女達である。
 彼女達の心の中には、1つの強い思いがあった。
 それは、当然トップを取る事で有る。
 トップを取ればクラス移動や、好きな教師を選んでの特別コースや、相手が承認すれば管理者にも成って貰えるなど、ご褒美が選べるのだ。

 それは、誰もが欲しい権利で有り、試験を受ける限り、誰もがねらえる権利で有る。
 だが、その権利を手に入れる為には、最低でもクラスでトップに成る必要が有った。
 クラス内で2位なら、試験を受けても2位で有る。
 それならば、トップの者と別の試験日に受ける方が、得策なのだ。
 そのために、自分の点数とクラスのライバルの点数を探り合う。
 にこやかな微笑みを浮かべ、言葉の端々にレーダーを張り、情報を収集して、自分の位置を推測する。

 そして、そんなクラスのトップ争いから漏れた者は、そのトップの会話の中から、教師の[宿題]がどうすれば、クリアー出来るか、どうすれば効果的に訓練出来るかを探り出そうとした。
 それは今後の自分の運命すら左右する、重要な情報で有り、何物にも代え難い金言で有る。
 少女達はその言葉を必死に頭に入れ、自分に置き換え今後の傾向と対策を練った。
 クラスは朝から、そんな雰囲気の中で、それぞれがそれぞれの思惑を胸に、腹を探り合い頭を悩ませる。
[試験]の最終手続き時間は、昼休みいっぱいである。
 その時まで、クラスの中はザワザワと騒がしい状態が続く。

 2年B組では、純の周りにクラス委員が集まり、驚きの表情を浮かべ、純に詰め寄っている。
「本当に、自由に受けさせるんですか? でも、それじゃぁこのクラスのポイントは、どうなるんですか?」
 クラス委員長が、純に問い掛けると
「ああ、大丈夫だ。ポイントの事は気にするな…、来週から3回の[試験]は、間違い無くウチのクラスがトップを取る。だから、今週は好きに受けさせろ」
 純は狂の真似をしながら、クラス委員長に断言する。
 その言葉に、クラス委員長は納得し
「何か仕掛けてるんですね…? 差詰め、休学中の3人ですか…?」
 純に問い掛けた。

 純はスッと委員長に視線を向けて
「推測するのは、良いけどよ。それを俺に問い掛けるのは、出過ぎじゃねぇか? 口は災いの元だぜ…」
 探りを入れて来たクラス委員長に、釘を刺した。
(委員長は、どうもA組入りを狙ってるって、噂を聞くし、実際頻繁に伸也に接触を図ってる…。狂兄ちゃんが居る時は、そんな素振り見せなかったのに…、僕じゃやっぱり押さえられ無いんだ…)
 純は内心ガックリと肩を落としたが、クラス委員長は
「あ、そ、そうですよね…。工藤さんのする事に、俺なんかが、口を挟んで済みません…」
 焦りながら、愛想笑いを浮かべて、その場を離れて行く。

 それは、強者に叱責され、尻尾を丸める弱者の姿だった。
 今まで、純が一度も見た事の無い、他者の反応。
(えっ…委員長…。僕の言葉で、引き下がったの…。こんな事一度も無かった…)
 純は委員長の反応に、内心で驚きながら、その背中をジッと見詰める。
 すると、委員長の心の声が頭に浮かんだ。
(ははぁ〜っ…委員長は、引き下がったんじゃなくて、ボロが出るのが、怖かったんだ…。僕は完全に舐められてたって、事だね…。でも良いや、これで委員長も表立って動けないし、抑止には成ったかな…)
 純は委員長の考えを分析し、今の行動の効果を自分の中にインプットする。
 その分析能力と思考パターン、判断と行動は間違い無く、狂のそれと同じだった
 純は無意識のうちに、狂の能力を使い始める。

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