夢魔
MIN:作

■ 第31章 農場48

 委員長はギクリと顔を引きつらせ、反論しようとしたが
「俺はよう…。お前達を見込んで、これが始まる前に技術を学ばせたよな…。その時言った筈だぜ…[俺を裏切るんじゃねぇ]ってな…」
 純が委員長の前を横切りながら自分の席に座り、睨め上げる様な視線で委員長に言った。
 委員長はガックリと肩を落とし、項垂れると、直ぐに床に平伏して
「済みません工藤様! A組の奴らに、馬鹿にされるのが堪らなく嫌だったんです!」
 純に謝罪し、言い訳をぶちまけた。

 純は委員長の言い訳を鼻で笑い
「そんなモノ、知ったこちゃねぇ…。俺を裏切った、落とし前はどう付けるんだ?」
 委員長に罪の償いを問い掛ける。
 委員長は床に頭をこすりつけ
「降格でも何でも受け入れます。どうか、許して下さい」
 純に必死に謝罪した。

 純は委員長の償いを聞いて、小馬鹿にした様に笑い
「お前、それがクラスにとって、何の得に成るんだ? 馬鹿じゃねぇか…? 委員長なら委員長らしく、今何がクラスに取って有益か、考えてみろ!」
 純の言葉を聞いてクラス委員長は、考え込み
「ど、奴隷を仕上げる事です…」
 ボソリと純に答える。

 純はニヤリと笑い
「でっ、それはいつ迄で、出来なかったらどうする?」
 クラス委員長に、問い掛けると
「はい、今週末迄に仕上げて、出来なかったら学校を辞め、2度とこの世界に足を踏み入れない事を誓います」
 クラス委員長は、期間と罰則を純に誓った。
「お前が無理をするのは当然だが、管理奴隷に無理は絶対にさせるな。時間は、そんなに無えぞ…」
 純はそう委員長に告げると、椅子に深く背中を凭せ掛ける。
 クラス委員長は、弾かれた様に立ち上がり、管理奴隷を連れて教室を後にした。

 純は、目頭を軽く揉みながら、心の中で溜め息を吐き
(ふぅ〜…。狂兄ちゃんって、こんな事をずっとやってたんだな…。気苦労が絶え無いって、こう言う事なんだろうな…)
 狂の今迄の大変さを実感し、感心すると供に、純は狂にどれだけ面倒事を任していたか、痛感する。
 それと同時に、自分の精神的な弱さや幼さが、どれだけ迷惑だったかも感じた。

 その純を絵美はジッと見詰めながら
(純君…狂様みたい…。格好いい純君と優しい狂様に成ったら、すっごいんだろうな…。でも、不思議だよね〜…2人ともサディストなのに常に女性に気を配る…徹底したフェミニストなのよねぇ〜。2人とも浮気をタブー視するのは、そこから来てるのかしら…? 私は嬉しいけど、なんかすっごく悪い気がするのよねぇ〜…。こんな凄い人、私ごときが独り占めしちゃうなんて…。キサラさんにも言われたけど、私も本気でそう思うもの…。2人に引き込まれて、[嫉妬深い女]に成ってるけど、正直気が引けちゃう…)
 ウットリとしつつ、以前からの疑問に思いを巡らし、溜め息を吐く。

 絵美は相手の心の有り様を視覚で感じる共感覚者で、その対象者の思いが手に取る様に分かる。
 そして、それは対象者が自分に近く成る程、強く影響を受け、無意識のうちにその対象者の望む行動を取ってしまう。
 それだけなら、コロコロと態度が変わる多重人格者に成ってしまうが、絵美にはそれをコントロールする、強い自我も有り普段はバランスを取っているのだ。
 だが、その自我も純や狂の様な強い個性に接し続けると、引き込まれがちに成り、今の様に無意識のうちに別の性格になってしまうのだった。

 絵美の視線を感じた純は
「どうした? 何か変か?」
 自分の行動に急に不安を覚え、絵美の顔を覗き込む。
(あん、やっぱり可愛い…無理してるのね…。直ぐ不安に成っちゃうんだから…)
 絵美は純に広がった、不安の気持ちを目の当たりにして、つい母性本能を擽られて、抱きしめたくなるが、そこは校内で有る事を踏まえ、グッと我慢すると
「いえ、工藤様。素晴らしいご配慮だったと思います。委員長も悔い改めて、これからクラスの力に成って下さると思いますわ」
 花の様な微笑みを浮かべ、純の裁決を褒め称えた。

 純は絵美に褒められて、嬉しくて仕方が無かったが、副委員長達の手前グッと表情を維持し
「お前等も、下らねぇ事を考える前に、自分のする事を良く考えろよ。俺はその間なら、何にも言わねぇからよ」
 副委員長達に自分の考えを告げた。
 2人の副委員長は、顔を強張らせながら、純に頭を下げそれぞれの席に戻る。
 純は天井を見上げると、[ふぅ]と大きな溜め息を吐き
(狂兄ちゃん今日で1週間だよ…。まだ、回復しないのかな〜…)
 自分がいつこの気苦労から、解放されるのか、不安に成って来た。
 それは、純がまだこの計画が、自分には全く関係の無い計画で有ると、思っている証拠でもあった。

 一方正門では、白鍵の登校時間が始まったが、大挙して押し寄せた試験を受けた黒鍵も、周囲の目も有る事から中に入れられた。
 試験を受けた黒鍵の女性徒達は、風紀委員にチェックを受けると、急いで自分のロッカーを開く。
 ロッカーの中には、試験の成績表が入っていた。
 その中で3人だけが、別の紙が入っている。
 各学年に1人ずつ、その紙を与えられた。
 その紙には、[希望副賞申請書]と書かれている。
 少女達は、それが何を意味するのか、理解出来無かった。
 何故なら、その紙には題名が書いているだけで、後は何も書かれていないのだ。

 それを手にした少女が、戸惑いの表情を浮かべていると
『各学年のトップを取った生徒、3人揃い次第、職員室の黒沢を訪ねて来なさい。書類について説明する』
 校内一斉放送が流れ、少女達は書類を上に上げながら、お互いを探し直ぐに合流して、職員室に向かう。
 それを見送る女性徒は、羨望の眼差しを向け
(夢が叶うのよ…)
(何でも書けるなんて…そんなの有り…)
(あ〜っ! しまったぁ〜…。全部鍛えてから、試験を受けるんだった…。それならトップに成れるのに…)
 様々な思いを浮かべ、自分の試験結果を見る。
 学校の雰囲気は急速に、女性徒達の意志により、奴隷化に向かって動き始めた。
 その流れは、最早誰も抗いようが無い。
 否定派の少女達も、少数グループを維持する事が困難になり、次第に渦に飲み込まれて行く。

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