夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊1

 薫は朝登校すると、直ぐに風紀委員長室を訪れた。
 ノックをしても返事が無く、合い鍵を使い中に入る。
 だがそこには、人影は無く、昨日自分が片づけて帰ったままに成っていた。
 薫はガックリと肩を落とし、踵を返すとエレベーターに向かい、地下2階の悦子のブースに入る。
 悦子のブースに入ると、ディスプレーからローザの淫声が流れており、その前には水槽に浸かったローザが、力無い視線をディスプレーに向けていた。
 ローザの髪は精液でゴワゴワに固まり、浮浪者の様に見える。
 強い意志を表していた顔も、打ち拉がれ情けない物に変わっていた。
 薫はそんなローザを見ると、ゾクゾクと背中を快感が駆け抜け、今の鬱屈とした気持ちが晴れて行く。

 薫はローザに近づくと、水槽の中に残った精液を、柄杓でかき集め
「ほら、ローザ喉が渇いたでしょ? 朝の餌よ…」
 ローザの前に柄杓を差し出す。
 するとローザは、大きく口を開け舌を差し出しながら、顔を上げる。
 薫はそのローザの口の中に、据えた匂いのする精液を流し込むと、ローザはその精液を、音を立てて飲み干す。
 ローザが水槽に浸かって3日間、与えられる水分と食事は、全てこの精液だけだった。
 そして、ローザはその3日間自分が陵辱されるビデオから、目を離す事を禁じられ、ずっと放置されていた。
 1日に3度、薫が降りて来て、柄杓に入れられた精液を飲ませて帰る。

 そんな日々が続いて、ローザの身体は限界を超えていた。
 そしてそれ以上に、ローザの心はズタボロに成っている。
 力強かった視線が、澱んでフラフラと泳いでいる事から、その事は明白だった。
 ローザのその姿を見て、少し気が晴れた薫は、時計に目を移し自分の職務に戻ろうとした、その時
「あら、薫? もう来てたの…、流石早いわね」
 薫の背後から、聞き慣れた声が薫を呼ぶ。
 薫が驚いて、振り返るとそこには、悦子が制服を着て立っていた。

 驚いた薫の表情を見て、悦子はきょとんとした表情で
「な、何? 何か有ったの…? そんなに驚く事無いでしょ…?」
 薫に告げる。
 薫は直ぐに、驚きを引っ込めると、頭を下げながら
「悦子様おはようございます。誰も居ないと思っておりましたから、少し驚いてしまいました」
 聞きたかった言葉を飲み込み、言い訳をした。
(また、病院に行かれたんですね…。目線が昨日とまた違う…)
 薫は悦子の目線が、昨日別れた時より、更に酷薄に成っている事に気づき、勘付いては居たが、行く先を聞けなかった。

 悦子は薫を怪訝そうな目で見ながら
「お前が来た後に、誰かが来る事だって有るでしょ…。そんな事で、驚くなんて。変な子…」
 ブツブツと呟いてローザの前に立ち
「薫、あの話はもうしたの?」
 ローザを見下ろしながら、薫に問い掛けた。

 薫は悦子の言葉を一瞬考え、直ぐに気づくと
「いいえ、まだで御座います」
 ペコリと頭を下げて、スッと道具箱の方に移動を始める。
 悦子は薫の言葉と気配の移動を感じ、ディスプレーに目を移してローザに話し始めた。
「ローザ…。この日は良い声で鳴いていたわね〜…。そんなに気持ち良かったの?」
 悦子の問い掛けにローザは、力無く首を横に振り
「きもちよかったんじゃないわ…。かんじさせられたのよ…」
 辿々しく掠れる声で、悦子に反論した。

 ここ迄責められ、体力や気力を奪われても、尚かつ反論出来る精神力は、ローザの持って居た物では無い。
 それは、ひとえに悦子に掛けられた暗示による、虚ろな強がりだった。
 ローザ本人も、悦子に対して許しを請い、屈服したい気持ちでいっぱいだったのだが、強められた自尊心がそれを許さなかったのだ。
(あぁ…、こんな事を言うと、もっと酷い目に逢わされる…。もう良い…もう嫌よ…、お願いだから、もう酷い事しないで…、もう酷い事をされるような事…言わないで…)
 ローザは、自分の内なる自尊心の声を、心から嫌悪し始め、怒りすら覚え始める。
 そう、身勝手なプライドの為に、傷つき苛まれるのは、生身の身体なのだと、ローザの心が悲鳴を上げていた。

 悦子はそんなローザの心の動きなどお構いなしに、嘲笑うようにローザに問い掛ける。
「感じさせられた? 一体何の事かしら? 私達はあの日、お前に特別な事はしなかったわよ…」
 悦子の言葉を聞いたローザが、悔しそうに顔をゆがめ
「これは、ぜんぶあなたたちが、へんなくすりで、わたしを、あらったからでしょ…」
 悦子に抗議すると、悦子はクスクス笑いながら、右手を背後に回す。
 悦子の背後に立った薫が、悦子の手に白い洗剤のボトルを渡すと
「へー…。この洗剤、そんな効果があったんだね…。クレーム付けなくちゃ、大変な事に成りそう…」
 悦子はニタニタ笑いながら、洗剤のボトルを見る。

 ローザはそのボトルに、見覚えが有った。
 それは、紛れも無くローザが陵辱された日に、身体を洗われた[特別な洗剤]だったのだ。
「それよ…それのせいで…わたしわおかしくなったのよ…」
 ローザが悦子に、掠れる声で言い切ると、悦子はにんまりと笑い、ローザにそのボトルを見せ
「じゃぁ、メーカーに抗議しましょう。[貴方の会社が出してる、洗剤は催淫効果がありますよ]ってね」
 嬉しそうに、ローザに告げる。

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