夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊3

 校内では桜と純子が、悦子の命令を実行していた。
 1年生の教室があるフロアーを、男子風紀委員3人を引き連れ、練り歩いている。
 桜達は1年B組の教室に入ると
「臨時持ち物検査を行います。速やかに荷物を机の上に置き、教室の後ろで待機しなさい」
 入り口で、1年B組の生徒に勧告した。
 1年B組の生徒は、突然の風紀委員の乱入に、驚きながらも指示に従う。
 鞄をそれぞれ机の上に置き、イソイソと教室の後ろに並ぶと、事の成り行きを見守った。

 男子風紀委員が鞄を点検し、桜達が女生徒達をボディーチェックする。
 それぞれ別れて点検しながら、桜は目当ての少女のポケットから、キャンディーを取り出すと
「これは何? 確か、食物の持ち込みは、純然たるお弁当だけの筈よね…これは、お弁当?」
 氷のような冷たい目線で、少女に問い掛ける。
 少女は当然、何の事だか分からず、顔を引きつらせながら、小刻みに首を左右に振り
「お、お弁当じゃないです…。で、でも…私、知らない…、そんな物…知りません…」
 必死に抗議する。

 桜は少女を見詰めたまま、背後に手を伸ばし
「この子の鞄を頂戴…」
 男子風紀委員に告げた。
 男子風紀委員は直ぐに1つの鞄を手に取って、桜に渡す。
 桜はそれを少女に手渡し
「これは、貴女の鞄ね? 中身を見せて貰える」
 鋭い口調で指示を出した。

 少女は自分の鞄を受け取り、中身を確認すると驚きに顔を染める。
「そ、そんな…。こんなの嘘…私、こんな物入れてない…」
 少女が鞄から取り出した物は、まごう事無く先程のキャンディーの袋だった。
 桜は少女から袋を奪い取ると、ジッと少女を睨み
「お前が何を言おうが、私は事実だけが知りたい。このキャンディーはどこから出て来た?」
 少女のポケットから、取り出したキャンディーを少女の目の前に翳す。

 少女はイヤイヤと力無く首を振り、何も答えられない。
「この袋は、どこに入っていて、どこから出て来たんだ?」
 桜の問い掛けに、少女は首の振りを強くし、涙を流す。
「このクラスの者に聞く? こいつは、このキャンディーを嫌って居たのか?」
 今度はクラスの女子全員が、首を横に振った。
 そのキャンディーは、少女の大好きな物で、学校がこうなる前は、いつも鞄に入って居た事を全員が知っていた。

 桜は少女に向かって
「これが事実。これだけの、事実が有ってもまだお前は、自分の知らない事と言い張るんだね?」
 静かな声で問い掛けると、少女は迷った挙げ句、首を縦に振った。
「禁止物品持ち込みと、風紀委員に対する虚偽だ。こいつを連れて行け」
 桜は後ろの男子風紀委員に命令する。
 男子風紀委員は、少女の口にボールギャグを噛ませ、制服を剥ぎ取り全裸に剥いて、革手錠で後ろ手に拘束し、膝に鉄の棒を嵌める。
 少女は身体を隠す事も出来ず、全裸を晒させられると、黄色の首輪にチェーンのリードが取り付けられ、背中に罪科が書かれた紙を貼られた。

 桜がジロリと1年B組の生徒を睨み付けると、全員が視線を逸らし俯いた。
 桜は[フン]と鼻を鳴らすと、踵を返して教室を出て行く。
 男子風紀委員に鎖を持たれた少女は、ヨタヨタと泣きながら付いて行く。
 そして、桜達がどこかの教室に入る度、その全裸の罪人が、1人、また1人と増えて行った。
 悦子が指定した5人を集め終えた桜達は、全裸の作られた罪人を従え、学校中を練り歩き、晒し者にして管理棟の風紀委員室に消えて行った。

 全ての者が、その摘発が茶番だと理解している。
 その罪が、言い掛かりで有る事を知っていた。
 だが、その摘発に、誰も異を唱える事は出来ない。
 何故なら、異を唱えた者が、次には今のように引き回される事を知っていたからだ。
 悦子の暴走が、風紀委員を巻き込み、幕を開ける。

 悦子の職権乱用が始まった事は、直ぐに黒沢の耳に入る。
「やはり、思ってた通り、風紀委員長の強権を行使してきたか…」
 黒沢の元に、風紀委員により連れ去られたクラスの、クラス委員長5人が詰め寄って、泣きついて来たのだ。
 特に3年B組のクラス委員長は、ローザに次いで2人目で有り、今回の試験で3年生のトップを取った女生徒を連れて行かれ、最早死活問題と言える。

 黒沢は直ぐに抗議を聞き入れ、風紀委員会室に向かったが、風紀委員達は[生徒の自主性]を盾に、黒沢の要求を聞こうとしなかった。
 この騒動は、教頭まで引き出し紛糾したが、理事長の裁決に依り、悦子に軍配が上がる。
 唯一3年B組の女生徒だけが、[試験]トップの褒美として、今回の濡れ衣を免罪して貰い、クラスに戻れた。
 彼女は折角の褒美を無駄に使ったと、歯噛みをしていたが、それがどれ程重要な決断だったか、後に成って知り顔を青ざめさせる。
 悦子はこの件で黒沢とも対立を強め、学内で孤立し悪役の地位を確立した。

 黒沢はただ1人の女生徒を救出しただけで、風紀委員会室を後にする。
 4人のクラス委員長は、項垂れながら、今後の防護対策を考え始め、3年B組のクラス委員長は、救出した女生徒を直ぐに銀鍵にした。
 それが、唯一の防護策だったのだ。
 黒沢達は一騒動の後、そのまま第1体育館に向かい、全校集会に出る。
 今日の全校集会は、査定による昇級者と[試験]トップの認定式が計画されていた。
 黒沢は溜め息を1つ付き、生徒達をクラスに戻すと、自分も教師の列に並ぶ。
 列に並んだ黒沢のその目は、怒りに震えていた。

 そんな黒沢の怒りをよそに、全校集会は滞りなく進み、査定による昇級者が紹介され、1年生の試験トップが、管理者を指名し受け入れられ、銀鍵を授けられた。
 続いて2年生のトップが呼び出され、壇上に上がる。
 2年生のトップも、管理者を指名し受け入れられ、3年生のトップが罪に対する免罪を申し出て、全校集会は滞りなく終わった。
 全校集会を終え出て行く生徒を見ながら、黒沢はこの場に風紀委員が1人も居ない事に気が付いていた。
 それは、風紀委員達が、独自の集会を行っている証拠である。
 黒沢はこれから、更に悦子が何か仕掛けて来る事を、ヒシヒシと感じていた。

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