夢魔
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■ 第32章 崩壊4

 一方黒沢達が引き上げた、風紀委員会室には、全風紀委員に集合が掛けられた、
 風紀委員長室で悦子は、組んだ手の上に顎を載せ
「それにしても、ムカ付くのは3年B組ね…。私に刃向かうと、どう成るか徹底的に教えて上げるわ…」
 残忍な笑いを浮かべ、ボソリと呟く。
 薫はその呟きを聞き、悦子の顔を盗み見ると、ゾクリと背筋が寒くなる。
 組んだ手の上に顎を載せた悦子の視線は、虚空を睨み憎悪に染まっていた。
 その憎悪は、どこか病的で偏執的な物を感じさせる程、歪んでいる。

 桜が風紀委員の集合を悦子に伝えると、悦子は立ち上がりユックリと、会長室を出て行く。
 その悦子の手には、あの[砂鉄鞭]が握られていた。
 全学年の風紀委員11名が、緊張した表情で、風紀委員会室に整列している。
 悦子の斜め後方に、薫が控えると悦子が、全員を睨め付け
「今日私は、この上ない屈辱を味わったわ。1学級委員長如きに、糾弾されたのよ! これは、私達風紀委員会に対する挑戦よ! 私は、これに対して、徹底的に抗戦するつもりよ!」
 怒りを捲し立てた。

 真っ赤な顔をした悦子の視線が、桜にピタリと止まり
「おまえが、キッチリと締めておかないから、私がこんな屈辱を受けるのよ! 判ってるわね桜!」
 小さく成っている桜に怒鳴り、更に縮こまらせる。
「も、申し訳御座いません!」
 桜は床に身体を投げ出し、土下座して謝罪した。

 悦子はそんな桜の頭を踏みつけ
「こんな事で私の側近が、務まると思ってるの! 私にこんな思いをさせるのが、お前の忠誠なの!」
 グリグリと踏み躙りながら、怒りをぶつける。
 その姿は、誰の目にも異常だった。
 執拗になじる悦子の表情は、どこか引きつり精神を病んでいるようにさえ見える。

 そんな悦子の背後から、スッと薫が寄り添い
「悦子様、皆に方針をお示し下さい…」
 悦子に耳打ちした。
 悦子は薫のその言葉で、ハッと我に返ると、踏みつけていた桜の頬を蹴り上げ、皆の方に視線を向ける。
 視線を向けられた10人は、皆ギクリと顔を引きつらせるが、直ぐに表情を戻し悦子を見詰めた。
 悦子は全風紀委員に向かって
「良い、ターゲットは3年B組よ! あのクラスの半分、首輪無しに堕としなさい! 方法は各自自由よ、一番多く首輪無しにした者には、相応の褒美を与えるわ」
 3年B組に対する報復措置を指示する。

 悦子が指示を出している間に、薫はスッと桜を助け起こし
「大丈夫桜? 悦子様は、お疲れなの…それで、気が立っておいでなのよ…」
 桜に優しくフォローを掛けた。
 桜は怯えた表情で、薫を見詰め
「い、いつ、あの鞭が落ちてくるか…。本気で怖かった…。薫…悦子様…怖い…怖く成った…」
 ポロポロと涙を流し、震えながら呟く。

 薫はそんな怯える桜に、優しく微笑み
「そんな事は無いわ。悦子様は悦子様よ…」
 小声で桜に耳打ちする。
 だが、そんな桜の言葉の意味を、一番感じているのは、他ならぬいつも側にいる薫だった。
(そんな事判ってる…。桜に言われなくても、私が一番判ってるわ…。でも、どうしようもないの…)
 自分達がドンドン孤立し、危うい立場に成っている事をヒシヒシと感じながら、どうする事も出来無い。
 薫はそんなジレンマの中、献身的に悦子を支える。

 悦子は風紀委員達に指示を与えると
「薫、いつまでそんな無能に構ってるの! お前は別の事をやらなきゃ、成らないでしょ!」
 薫に向かって、次の行動に移るように促した。
「はい、悦子様。その件は、既にファイルの優先順位から、次は純子のクラスの者でしたので、指示を出して当たらせています。昼休み迄には、お望みの状態に出来ますわ」
 薫は悦子の命令に、既に対処している事を告げ、完了時間を悦子に知らせる。
「流石は薫ね、抜かりがないわ。桜、お前も薫を見習いなさい。有能と言うのは、こう言う事を言うのよ」
 悦子の表情が緩み、薫を褒め称えた。
 その感情の移行は、まるでジェットコースターのように唐突で、激しい物だった。

 薫はその悦子の姿を見ながら
(悦子様、感情が全く落ち着いていないわ。これでは、情緒不安定過ぎる。みんなの前には、機嫌の良い時だけ出るように進言しよう…。でないと、誰も付いて来なくなる…)
 その精神状態の危うさに、組織の維持すら脅かしかねない、危険を感じ悦子を成るべく隠すように考え始めた。
 薫はそれが、大きな間違いの選択だったと、この時知る由も無かった。
 この時点で、勇気を出して黒沢に相談し、悦子の状態を見せれば、悦子の狂気の被害者が、2人で済む筈だったのだ。
 だが、それは成されず、崩壊の歯車が回り始め、多くの女性徒が人として終わって行く。

 学校の雰囲気は、序々にピリピリとした緊張感が漂い始めた。
 狂や黒沢達が決めたルールは崩壊を始め、それを維持しようとした純の苦労も徒労に終わる。
 学校内は混迷期に入り出し、暴君がその権力を存分に振るい始めた。
 リーダーを欠いた黒沢達には、それに抗う術も無く、守勢に回るしかない。
 黒沢達が何も出来ぬまま、波乱の月曜日が放課後を迎える。

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