夢魔
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■ 第32章 崩壊6

 その瞬間、ローザは理解した。
 自分の全てが、終わった事。
 自分が人としては、生きて行けない事。
 自分が望む人生を、歩いて行けない事。
 自分が欲望の道具に、墜ちた事。
 それらの厳しい現実が、目の前に現れた。

 ローザの膝が、ガクガクと揺れ、力を無くして床にへたり込む。
 そのままの速度で、ローザは肩を落とし、ガックリと項垂れた。
 ローザの項垂れた顔から、急速に力が無くなり、目の焦点が怪しく成って行く。
 瞳孔が拡散し、意識が霧散し始め、心が閉じようとした。

 ローザの半開きの口から、涎がツーッと滴り、全てが闇の中に引き込まれ掛けた時、ローザの自我が叫ぶ。
(変態! 狂うの? そんな、みっともない身体を、晒し続けるの? そんな、体中に変態の印を残したまま、お前は息をするの? それを消そうと思わないの? そんな意地すらないなら、とっとと狂えば良い! そして、みっともない姿で精液にまみれ、玩具のまま生きて行けば良いんだわ!)
 ローザは、自分の自我の叱責に、崩壊寸前で押し止められる。

 その一部始終を見ていた悦子に、ローザが顔を持ち上げて、表情を晒した。
 ローザの顔は、涙と鼻水と涎で、グショグショに成り、目は力無く垂れ下がって、まるで幼子のような泣き顔を悦子に向ける。
 ローザはその泣き顔を悦子に晒したまま、両手で耳を塞ぎながら
「とめて〜っ…おねがいだから…。このこえ、とめてよ〜…。もう、やなの〜〜〜…」
 駄々を捏ねるように、泣きながら懇願した。
 悦子はローザのその懇願を聞くと、優しい微笑みを浮かべる。

 悦子の頭の中で、威厳の有る女性の声が響く。
(迷走した心には、自分の本来の姿を見せて上げるの…)
 それと同じように、低く単調な男の声が響く。
(迷走した心が、一番扱い易い…。自分の望む形にして、それが正しいと教え込むんだ…)
 悦子の頭の中で、二つの言葉が混ざり合い、1つの言葉を紡ぐ。
(そう、迷走した心には、ローザが淫乱で変態だって教えるのが、一番やり易いの…。それが正しいのよ…)
 悦子はその紡ぎ出された言葉を、優しい口調でローザに伝える。

 悦子はローザの頬に、ソッと手を触れ
「その声はね、消えないの…。貴女が生きてる限り、貴女に訴えるのよ…。どう、辛い?」
 優しくローザに問い掛ける。
 ローザは幼子のような泣き顔で、コクリと頷くと
「そう…。辛いわよね…。でも、消せないけど、辛く成らない方法なら、教えて上げれるわよ…」
 ローザの目を覗き込み、この上ない優しい声音で、ローザに告げた。

 ローザの心はその言葉で、悦子に引き込まれる。
「つらくないの…? どうするの…? おしえて…、おしえてよ〜…」
 ローザは悦子に縋り付き、必死の顔で懇願すると、悦子はローザの乳房に手を掛け、優しく身体を抱きしめながら、耳元に囁く。
「それはね…、認めるの…。自分が変態だって…。自分が淫乱だって…。そして、聞こえる声に言い返すの…。[教えてくれて有り難う…][そんな事、分かってるわ…]って、胸を張って言ってやるの…。ほら、試してご覧なさい」
 悦子は囁きながら、ユルユルとローザの乳房を愛撫し、最後の言葉で乳首を転がす。
「あひゅ〜〜〜ん」
 ローザは甘い声を立て、悦子の愛撫と言葉を受け入れる。

 悦子は鏡に向かって指を差し、戸惑うローザに
「全部認めながら、鏡を見詰めてオナニーしてご覧なさい。私の言う事が、分かるから…」
 優しく囁くと、ローザの右手を股間に、左手を乳房に導き身体を離した。
 鏡に映ったローザの絵の構図は、これが目的だった事をローザに教える。
 ローザの股間に向かって、緑色の蛇が舌を伸ばし、乳房を咥えるように赤茶の蛇が顎を拡げた。
 ローザが身体をくねらせ、腕を動かすと、2匹の蛇はユラユラとローザの身体を這い回るかのように揺れ動く。

 緑の蛇が薔薇の蜜を啜り、赤茶の蛇が舞い踊る蝶と戯れる。
 ローザの全身に描かれた、花々が揺らめき、蝶達が舞い踊った。
 蛇の蠢きに合わせ、クネクネと腰が動くと、女郎蜘蛛がお尻を振り、蝶達をその巣に絡め取る。
 その姿は、幻想的だった。
 その姿は、淫卑その物だった。

 ローザの自我はその姿を見て、辛辣に斬りつける。
(変態! 恥ずかしくないの!)
 ローザの心が、それを認め受け入れた。
(そう、私は変態、これが気持ち良いの…)
 その言葉を受け入れる事で、ローザの感度が上がる。
(淫乱! そう、私は淫乱。いやらしい! そう、私はいやらしいの。恥知らず! そう、私に恥なんか無い…)
 自分の自我が斬りつける言葉を、全て受け入れ認めて行くローザは、自分の火照り、疼き、快感がドンドン強くなる事に気づく。
 幼子の様だった、ローザの泣き顔が、雌犬の鳴き顔に変わる。

 悦子はそれを嬉しそうに見詰め
「まだ、イッては駄目よ! これから、大切なお話なんだから」
 ローザに諭すように告げると、ローザは絶頂を踏みとどまり、コクリと頷く。
「さぁ、分かったでしょ…。誰の言葉が正しいか。誰の言葉に従うと、辛く成らないのか…」
 ローザの耳元に囁いた。
「ふぁい…えちゅこしゃま…。ローザ…えちゅこしゃまの…いうこと…ききましゅ…あきゅぅ、はぁん…きもひ、いい…きもひいいほ〜…」
 ローザは自我崩壊と快楽の狭間で、悦子の言葉を認め忠誠を誓う。
 ローザの心は、悪魔に魂を引き渡した。

 悦子は残酷に微笑むと
「ローザお前は何も考えなくて良いの。私が言う時だけ目を開き、その身体を使うのよ…。その時以外は、何も感じなくて良い。お前の身体は私の物なのよ…」
 ローザに命令する。
「ふぁい…なにもかんがえましぇん…なにもかんじましぇん…ローザのからら…えちゅこしゃまのものれふ…」
 ローザは押さえがたい快感の中で、悦子の命令を繰り返す。
「ローザ頑張ったわね、もうイッても良いわよ…」
 悦子がローザに許可を出すと、ローザは声も上げられず、目を剥いて全身を痙攣させた。
 その絶頂は、精神の呪縛を自らの快感を貪る道具に変え、魂の安寧を得たような、突出した物だった。
 しかし、その快楽が強ければ強い程、ローザは悦子に絡め取られ、恥辱の底を這い回るのである。

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