夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊18

 キサラが怒鳴った数瞬後、剣道部室から肌色の砲弾が、キサラ目がけて飛び出した。
 キサラの胸ぐらを掴み、真が今まで見せた事のない、真剣な表情で
「弥生に何か有ったんですか?」
 キサラに問い掛ける。
「お、重い…とにかくどいて…」
 キサラは真のお尻で、肺を圧迫され、呼吸も苦しそうだった。

 キサラの上から、謝罪しながら降りた真は、咳き込むキサラの言葉を聞いて、見る見る顔を鬼のように変え、真っ赤に染まる。
「竹内! 騙したな!」
 血の滲むような声で、真が呟くと、スッと立ち上がり、自分の洋服を掴む。
「ま、待って真さん…。あの分院は、1人で行っても無理だよ!」
 純が真の前に飛び出し、必死で止めようとする。
「どけ! 弥生がそんな目に逢っていると解って、ジッとしていられるか! 何が有ろうと奪い返す!」
 真は鬼の形相のまま、純を睨み付け出て行こうとする。

 それでも、純は必死に成って止め、真を説得する。
 だが、頭に血が上った真は、一向に引き下がらない。
 黒沢達も混ざり、真を引き留めると、真は裂帛の気合いを吐き、掴み掛かって引き留めていた者を弾き飛ばす。
「誰が何を言おうと、私は弥生を助けに行く!」
 弾き飛ばされた黒沢達は、目を見開いて、自分の身体に力が入らない事に驚く。
 真は[気]を気合いと供に放射し、黒沢達の動きすら止め、自由を奪ったのだ。
 その時、純の頭の奥で、ずっと待っていた声が響く。
(純、ここまで良くやった…、こっから先は、荒事だ。今のお前にゃ、まだ早い…)
 純の瞳がスッと閉じ、次に開いた時には、過充電な程充電した狂が現れた。

 真が正に道場を出ようとした時
「真さん、今あんたが突っ込んでったら、あんたは勿論、弥生も死ぬよ…。頭に血を上らせるのも良いけどよ、クールに行かなきゃ、無駄死にだぜ…。あんたが死んだら、美由紀はどうすんだ?」
 真の背中に、シニカルな物言いが響く。
 真はユックリと振り返り
「狂君何か、案でも有るのかね?」
 鬼の顔が問い掛けながら、ユックリと真に戻る。
 狂は大きく頷き
「有る。いや、これしか無いってのが、一個だけな…」
 そう言って、唇の端で笑う。

 落ち着きを取り戻した真に、黒沢派の教師、キサラ、狂が車座になって話を始める。
「先ず、あの分院設計したのは庵だ。稔があの分院を重要拠点にするつもりで、庵に設計させた。んだからよ、あそこはハッキリ言って、鍵が無ければ、進入不可能に成ってる。庵は、軍の建築ノウハウを熟知しているからよ、あそこは外壁1つ取っても、只の壁じゃねぇ。装甲車が突っ込んでも、バズーカぶっ放しても穴なんか開かねぇ」
 狂の言葉に、真の顔が歪み始める。
「真さん…落ち着けって。今よ…稔が色々調べてる…、あいつ学校を出てからは、ずっと俺の指示で、情報を掻き集めてんだ…。それが、今日の6時に俺の手元に届く。勿論稔も顔を出す。だからよ、真さんもうちょっと待ってくんねぇか?」
 狂の懇願する言葉に、様々な感情を読み取り、真は唇を噛みしめ
「解る…解るよ…。狂君が、私の事を心配している事や、弥生の事も、美由紀の事も考えて、現実的な答えを出して呉れているのは、凄く解る。だが…、だが、私は弥生が心配で、仕方が無いんだ…」
 狂に自分の心中を語る。

 狂は真の言葉を聞き
「真さん、あんた弥生を馬鹿にしてるだろ?」
 真剣な声で、真に問い掛けた。
 それを聞いた真は、驚くと
「弥生は、稔、俺、庵、真さん4人が真剣に成って育てた奴隷だぜ…。そこら辺に転がってる、十把一絡げの奴隷とは、ポテンシャルも、バイタリティも、メンタリティも半端無く違うんだぜ! 普通の人間が見て、[死にそうです]何て考えは、通用しねぇ! もっと、自分の技術を信用しろよ! 化けモンみたいな技術を注ぎまくったんだろ? 自分の伴侶をもっと信頼してやれよ!」
 狂は真に思いをぶつける。
 真は狂の言葉に、ガックリと肩を落とし
「そうですね…。本当に私は未熟者です…」
 狂に謝罪した。

 狂に謝罪した真に、黒沢がスッと近付き、いきなり拳を打ち付ける。
[ゴツ]と言う、鈍い音と供に、真の身体が床に倒れた。
 驚き顔を上げる真に、黒沢は無表情のまま
「何で、話して呉れ無かったんですか? 私達は、そんなに信頼出来ませんでしたか? 貴方が、何故こんな事をしているか、不思議で仕方なかった「鎖で縛られている」と。何故、私達に打ち明けて下さらなかったんです? 私達は、それ程頼りに成りませんか? 信頼に足りませんか?」
 真に向かって、問い掛ける。
「儂も、がっかりです…。もっと、早く腹を割って下さってたら、別の動きも出来たかも知れません…」
 山孝が真に告げた。

 真は周りの教師全員が、悲痛な表情をしている事を見て、自分が如何に周りを見ていなかったか理解した。
「済みません、済みません皆さん…」
 真は手をついて、周りの教師に謝罪する。
 周りの教師達は、何度も頷き真の謝罪と告白を受け入れ、真の力になる事を誓う。
「ほいほい、んじゃ、1個ずつ問題を解決して行こう」
 狂がパンパンと手を叩き、軽い口調で話しかけ、捲し立てる。
 その声を聞き、雰囲気を感じて、皆の心が和む。
 重要な話をしかめ面で話すと、悪い方向にしか行かない事を知っている、狂ならではの気遣いだった。

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