夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊21

 分院から弥生を助け出す計画が整うと、次は竹内邸のメイド達の救出に話が進む。
 狂は身を乗り出すと
「俺はよ、今1人のメイドを取り込んだ。こいつは、佐山の命令で俺の動向をスパイする為に、近付いて来た、って俺がそうなるように、し向けたんだがな…。でよ、そいつの話によると、竹内のメイドは、全員佐山の言う事に逆らえない。それは、[動くな]って、言われると身体が石のように硬く成るって、レベルの話だ…これってよ、お前の得意分野だろ…稔…」
 狂が稔に問い掛けると、稔の目が光り
「ええ、それは暗示凝固ですね…。深々度催眠を掛けて、暗示を与えると、簡単にその程度の肉体操作は可能です…。と言う事は、そうですか…竹内グループの催眠術師は、佐山さんですか…」
 大きく頷いて、納得した。

 狂は稔が納得したのを見て
「やっぱり、そう成るわな…。んでよ、庵の話なんだが、佐山が庵襲撃の現場に現れて、沙希を連れて行った…。その事から考えても、沙希を操ってたのは、完全に佐山だと俺も思った」
 稔に告げると、稔の眉がピクリと跳ね、稔の雰囲気が変わる。
「ちょっと待って下さい…。庵の話…? 僕は、その話を聞いていませんよ…」
 稔の声が表情を無くし、冷たい物に変わった。
「おい、今そんな事言ってる場合じゃねぇだろ。バタバタしてて、それ所じゃ無かったんだよ」
 狂も稔に負けじと圧力を高め、稔の瞳をジッと見詰める。
 2人の間で、帯電しそうな視線の鬩ぎ合いが有り、それを見詰める3人は思わず身を強張らせた。
(高校生で、こんな圧力を出すなんて、どんな経験を持って居るんだ…)
 黒沢は思わず自分の身体が反応し、戦闘態勢に入るのを必死で止める。

 その鬩ぎ合いが、フッと霧散するように消え
「そうですね、ここでこんな事を言い争っている場合では、有りませんね…。庵を交えて、後日しっかりと理由を話して貰います」
 稔が狂に告げると
「ああ、好きにしろ。取り敢えずは、話の続きだ…」
 狂は仏頂面で稔に答えた。

 狂は話の腰を折られて、溜め息を1つ吐くと
「どこまで、話した…。そうだ、佐山の命令に逆らえない迄だな…。でよ、こいつらは佐山の指示が無い限り、家を出る事が出来無い。出ようとすると、呼吸が出来無くなるらしいんだ…。そう、まるで息の仕方を忘れる…そんな風に成る…。だからよ、お前が行って、全員の暗示を外す必要が有る…」
 自分の集めた情報から、考えた対策までを稔に告げる。
 稔は暫く考えて
「それは、少し無理が有ります。催眠を解く場合、必ずキーワードに沿って、解かなければ成りません。そのキーワードはハッキリ言って、掛けた術者しか解りません。僕が誘導して、そのキーワードを探る事も可能ですが、それにしても、時間が必要です。竹内邸に侵入して、1人1人キーワードを探して、催眠を解くとなると30人で1週間は楽に掛かります。それは、現実的に言って無理が有るでしょう」
 狂に専門家としての意見を伝えた。

 狂は稔の意見を聞き、仏頂面に磨きを掛け、頭をガシガシと掻きむしり
「んなに掛かるのかよ…。んじゃ、今学校にそのメイド達が、交代で事務やら食堂やらで働いてる時を使うしかねぇか…」
 溜め息混じりに呟くと
「それもどうですかね…。暗示を解いた場合、必ず態度や仕草に、違いが現れます。僕が、その癖を完全に理解して、フォローの暗示を掛ける事は出来ますが、その癖を理解するまでに時間が掛かります。狂の計画が、短期で仕上がるなら、そんな必要も有りませんが、今回も1週間は掛かるでしょ?」
 稔は狂の事後案を否定し、狂の立てている計画について、問い掛ける。

 狂は頭を抱え込み、溜め息を吐いて
「今回は1週間じゃ終わらねぇかもな…、馬鹿がどこまで動くかで変わるが、それでも10日は掛かるだろ…。こっちの意図に気づかれれば、それ以上掛かる…」
 稔に答えた。
「八方塞がりですね…。キーワードさえ解れば、かなりの対応は出来るんですが…」
 稔が呟くと、狂は溜め息を吐きながら
「こっちの件は、情報収集をもう少ししてから、最悪武力行使だ。あの組織に借りは作りたく無ぇが、30人からの命が掛かってるんだ…、仕方ねぇ…」
 狂は1つの結論を出す。

 稔と狂の話し合いが終わると、キサラが稔に質問する。
「お話し終わった? ならねぇ、稔ちゃん…、ちょっと聞いて良い?」
 キサラの問い掛けに稔が、頷くと
「ねぇ、稔ちゃん[成長ホルモン分泌不全性低身長症]って知ってる?」
 キサラは悦子の病気の事を稔に問い掛ける。
 キサラの問い掛けに、稔は大きく頷いて
「ええ、知ってますよ前葉頭のホルモンバランスが異常を起こして、成長が止まる病気ですよね。普通は男性に多く見られますが、ウチの学校の3年生にも1人居ましたね。因みに狂はその病気じゃ有りませんよ、狂の場合は只の偏食です」
 キサラに答えて、狂にニッコリと告げる。
「う、うるせぇ! そんな事聞いてねぇよ!」
 狂は目を剥いて稔に怒鳴る。

 だが、目を剥いたのは、キサラも同じだった。
「えっ! 稔ちゃん、知ってたの? 悦子の病気…」
 キサラの問い掛けに、稔は頷くと
「ええ、知っていましたよ。だって、不自然でしょ? あの身長とあの身体で、高校3年生って…間違い無くそうだと思っていますよ」
 キョトンとした表情で、キサラに告げる。
「じゃ、じゃぁ。何で言ってやらないの! 何で黙ってるのよ?」
 キサラは声を荒げて、稔に食って掛かると
「え、えっ? いえ、何でと言われましても…、僕も返事に困りますが…。面識も有りませんし、命に関わる病気でも有りません。僕が、いきなり出向いて[貴女は、脳の病気ですから、病院で見て貰って下さい]と言うのは、変じゃないですか?」
 稔はキサラの剣幕に驚きながら、説明した。

 キサラは稔の説明を受けて
「あ、あ〜…。言われてみれば…、そうね…。でも、アドバイスとか何かの形で、話す事出来たでしょう…」
 稔の話が尤もで有る事に気づき、納得したがそれでも、完全には認めたくなかった。
 稔はキサラの言葉に、軽く溜め息を吐くと
「でっ、その病気の方が、どうかしたんですか?」
 キサラに問い掛ける。
 キサラは慌てて気を取り直すと
「ええ、その病気って[性格が変わる]何て事、無いかな…」
 稔に症状を質問した。

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