夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊22

 稔は少しだけ考えると
「症状として性格が変わると言うのは、考え辛いですが…。確か、その方は中山悦子さんですよね…。中山さんは、覚醒時に少しトラブルが有りまして、僕も気には成っていたんです。もう少し詳しく、お話を聞かせて下さい」
 研究者の表情に成り、キサラに質問しだした。
 キサラは薫から聞いた話を、稔に説明すると
「分院で[特徴の無い人]に会ってから、性格が変わって行った。確かにそう言われたんですね?」
 稔は静かな声で、キサラに念を押した。
 キサラは稔の雰囲気が、変わるのをウットリと見ながら、コクリと頷く。

 稔はサディストの雰囲気を強めながら
「どうやら、それが原因のようですね…」
 氷のような声で、静かに呟く。
 稔の呟きに、キサラは訝しそうに眉を顰める。
「キサラさんも、その方には、お会いに成っている筈です。竹内邸の執事長。先程から名前が出ている佐山さんが、その[特徴の無い人]ですよ」
 稔がキサラに告げると、キサラは頭の中で記憶を呼び覚まし、大きく驚いて稔を見詰め
「有り得ない…。私、商売柄一度見た人間の顔は、絶対忘れないのに…。そいつの顔が浮かばない…」
 ボソボソと稔に伝えた。

 稔は大きく、キサラに頷くと
「特徴が無いのが、あの方の特徴です…。中山さんには、早急に面会する必要が有りそうですね」
 キサラの方を向いて、稔が告げると
「えっ、いや、ちょと待って…、それ無理。だって、バリバリの理事長派よ。私と仲違いしてるし、[出て来い]って言って、[はい解りました]って訳には、行かないわよ…」
 キサラは慌てて、稔に答える
 稔は頷くと
「ええ、解っています。ですが、事は急を要します。1人に成るタイミングを教えて頂ければ、僕が拉致します」
 キサラに事も無げに、物騒な事を告げた。

 キサラは稔の言葉に呆気に取られ
「あっ、そう言う事…。なら、谷本にでも頼むわ…。事情を説明すれば、協力する筈だから」
 稔の依頼を受け入れる。
「それでは、セッティングが決まったら、教えて下さい。直ぐに駆けつけます」
 稔はそう言うと、席を立ち上がり調査し終えた、資料を狂に手渡す。
 そのまま、鞄を持ってヘルメットを被ると、来た時と同じように、従業員出入り口から出て行き姿を消した。
 狂は稔から受け取った書類を、何の気無しに見始めたが、直ぐに食い入るように見詰め始める。
 その書類を見ていた狂が、直ぐにピタリと動きを止め、額に指を当て何かを考え込むと
「悪い、俺用事が出来た。今日は解散してくれ…」
 そう告げると、直ぐにカラオケボックスを後にした。
 残された真と黒沢とキサラは、顔を見合わせ、自分達もカラオケボックスを後にする。

◆◆◆◆◆

 カラオケボックスを出た黒沢は、前を歩く真の背中を、腕組みし観察する。
(源さんが、ここまで落ち込むなんて、心配で仕方が無いんだな…。このようすじゃ、訓練なんて出来無いぞ…。しかし、それにつけても分かり易い人だ…)
 黒沢は、真のその性格が、好ましくて仕方が無かった。
 黒沢は真の肩を後ろから叩き
「今日は訓練は辞めましょう。そのご様子だと、手に付きそうも無いですし」
 ニッコリと微笑んで、真に告げる。
 真は力無い、顔を黒沢に向け
「お気遣い有り難う御座います。そうですね、多分今日は何をしても、手に付かないと思います…」
 感謝を告げ、自分の不甲斐なさを笑うように、自嘲気味な笑顔を作った。

 黒沢は、少し心配に成り
「訓練をしなければ、帰ってもやる事が無いでしょ。このまま、そこら辺で気分転換でも?」
 真に話し掛け、顔の前に右手を差しだし、グラスを傾ける仕草をして、酒に誘った。
「あら、良いわね…私も、ご一緒して良い?」
 キサラがその話に一枚乗って、真の腕を絡め取る。
 キサラも真の落ち込みぶりを見て、何とかして上げたいと考えていたのだ。
「ええ、どうぞ構いませんよ。それじゃ、私は今日の訓練の中止を連絡します」
 黒沢が携帯電話を取り出し、コールして大貫に連絡する。
『えっ! 今日は中止ですか。はい、解りました。源様がそのようなご様子でしたら、仕方が有りません。そのように、伝えて解散いたします』
 大貫も心配そうに声を潜め、黒沢の指示を受け取った。

 黒沢は、真の肩を抱き
「今日は飲みましょう。そして、明日の襲撃に備えましょう」
 明るい声で、真を励ます。
 真は黒沢の言葉に、疑問を感じ
「えっ? まさか黒沢さん、一緒に来られるつもりですか?」
 驚きながら、問い掛けると
「何を言ってるんですか、当たり前ですよ。私はそこいらの、者より遙かにこう言った荒事は場数を踏んでます。何せ戦争経験者ですから。これで、やっと貴方の力に成れる」
 黒沢は真に力強く答える。
 真の瞳が黒沢の顔に、釘付けに成り真の眼から涙が溢れた。
「あ、有り難う御座います…、本当に有り難う御座います…。私何かの為に、危険な目に逢わせるのは、忍び無いんですが、黒沢先生にそう言って頂けるなんて…。本当に有り難う御座います」
 真は何度も黒沢に感謝し、黒沢の導くまま、黒沢の行きつけの居酒屋に向かう。

 黒沢達が飲み物を頼んで、メニューを見ていると
「おっと、やっぱりここでしたか…」
 山源がテーブルの脇に立ち、黒沢に告げ、入り口に手招きする。
 すると、黒沢派の6人の調教教師が合流し、にわかに騒がしくなった。
 真を心配する黒沢派の調教教師達は、口々に協力を申し出て、真を励ます。
 そして、その気持ちを持っていたのは、何も調教教師だけでは無かった。
 30分後、剣道場を宴会場に変えた、奴隷教師が、黒沢達を呼びに来る。
 山孝が連絡し、黒沢達の行動を教えると、奴隷教師達は自発的に、剣道場を整え真を励ます会場にしたのだ。
 総勢49人の大宴会が、剣道場で繰り広げられ、真は全員の気持ちに感謝した。
 宴会は夜遅くまで続き、49人はその場で全員がごろ寝をする。
 真は弥生の事を心配しながらも、暖かな気持ちで眠りについた。

■つづき

■目次4

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊