夢魔
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■ 第32章 崩壊23

 次の日の朝黒沢が、用務員室に現れる。
 手には、狂から預かった、500万の現金が持たれていた。
 真の役に立ちたいと、西との交渉役を黒沢が、買って出たのだ。
 西は朝っぱらから、家畜生徒達を玩具にして、下卑た笑い声を上げている。
 首輪無し以降の者は、学校の管理下に置かれ、誰が何をしても構わない決まりなのだが、美由紀は恐ろしくて手が出せず、春菜は教頭のお気に入りに成っていた為、西はもっぱらこの家畜生徒を使う。
 その日の朝、いや昨夜の夜から激しく責められたのであろう、家畜生徒の眼は朦朧としていた。

 そんな、用務員室の扉を開け
「お邪魔するよ…」
 黒沢が現れると、西はドキリとした。
 西はこの、黒沢が苦手だった。
 暴力を盾に生きてきただけ有って、西は黒沢の力に気付いている。
 その上、頭の切れも、自分より1枚も2枚も上手で有る事も、感じていた。
「ああ、良いぜ…。こんな所に、教師のトップが何の用だ…?」
 西がたじろぎながらも、黒沢を招き入れ、家畜生徒を押しのけて、黒沢の前にあぐらを掻いた。

 黒沢は、西の前に立ったまま
「今日、確か薬物の受領日でしたね…?」
 低い声で問い掛けると、西は少し驚いた顔で頷き
「ああ、12時に俺が取りに行く事に成ってる…。それがどうした?」
 黒沢に問い返すと
「今日、君には急病に成って貰いたいんだ…」
 黒沢は西に依頼する。

 西は黒沢の言葉に、眉をしかめると
「はぁ? 何言ってんだ…。俺は、ピンピンしてる…。そうか、そう言う事か…」
 反論を初め、その途中で黒沢の意図に気付く。
「俺が病気に成ると、俺にはどんな良い事が有るんだ…。黒沢先生よ…」
 西は黒沢にニタニタと笑いながら、問い掛ける。
 黒沢は西の前に、紙袋を置き
「これが、君の物に成る」
 西に告げた。

 西は紙袋を手に取り、中身を確認すると[ピューッ]と口笛を吹いて、黒沢を見た。
「俺が、[腎臓の病気で、今日は身体が辛く成って、代わりの者が受け取りに行く。]そう言えば良いんだな?」
 西は薄笑いを浮かべ、黒沢に問い掛けると、黒沢は黙って頷く。
 西はクルリと身体を回して、自分の携帯電話を手に取ると
「もしもし…ああ、俺だ…。今日の薬の受領、代わりの者が行く。俺はちょっと、昨日から腎臓の具合が悪くてよ…ああ、今日は薬を飲んで、寝てるわ…。おう、解ってる。今日は荷物が多いんだろ…ああ…」
 分院に電話して、黒沢の依頼に応えた。

 電話を切った西は
「今聞いた通りだ。ついでに行って置くが、今日は搬入量が多い。4人ぐらいで行くのがベストだ…」
 黒沢に告げると
「もし、この件に関して、君が誰かに漏らした場合は、君にはそれなりの責任を取って貰う」
 西の言葉に頷いて、黒沢は低い声で、西に言った。
 西博多を竦めると
「ああ、解ってる、誰にも何も言わない。何にもな…」
 約束して自分の携帯を黒沢に渡し
「それが無けりゃ、俺は誰にも電話出来ねぇ。俺は、人の電話番号なんか覚えてねぇし、俺の知り合いはその番号じゃなけりゃ、電話にも出ない。これで良いだろ?」
 黒沢に媚びを売るように、確約した。

 黒沢は用務員室の扉を開けると、由香と恵美と直美が、警棒を持って現れる。
「君の言葉を信じない訳では無いが、こちらとしても用心の為に、監視を置かせて貰う。彼女達の持ってる警棒は、スタンガンだ。何か有れば3人掛かりで襲うように指示している。呉々も、襲われ無いようにしてくれ」
 そう言って西に警告すると、3人は無言で西を見詰めた。
 西は薄笑いを浮かべ、ブルブルと震えて見せ
「お〜怖…。その姉ちゃん達の主人が、分院に行くのかい?」
 黒沢に問い掛けると
「ああ、私と、大貫先生、山孝先生…。それと、源さんだ…」
 黒沢が西に答える。
「大仰なこった…。俺は病気で、ここから出ないから、外で何が有っても知らねぇぞっと…」
 そう言って、3匹の家畜生徒を再び責め始めた。

 3匹の家畜生徒は、媚びを含んだ視線で、西に責め手を緩めるよう懇願し、身体をくねらせる。
 西から受け取った携帯を直美に渡すと
「この件が終わったら、あいつに渡せ…」
 静かに告げる。
 黒沢は尤も信頼する3人の奴隷教師を置いて、用務員室を後にした。

◆◆◆◆◆

 一方キサラは、薫を呼び出し、昨夜の稔の話を薫にした。
 薫はその事を聞いて、顔を強張らせるが、余りにも符合する事が多く、その話を信じた。
「キサラ様…。もうそろそろ、悦子様の下書きが終わります。今回の5人は、久美の虫ピンとローザの入れ墨、両方の物を使って、より酷い物に仕上がりました…。どうか、悦子様の暴走をお止め下さい…」
 薫はキサラに縋り付き、懇願する。
 キサラは薫を優しく抱き留め、拉致の手順を薫に教えた。
 薫はキサラに言われたように、悦子を拉致ポイントに誘い出す事を約束する。

 薫はキサラの元から戻ると、地下2階の悦子のブースに向かった。
 キサラの元で、少し時間を食った為か、悦子の下絵は完成し、5人の身体には、無数の蝶が花畑の中で飛んでいる。
 基本的にはローザの入れ墨と同じで、乳房やお尻の蝶は、縁取りが虫ピンに成っている。
 虫ピンで描かれた蝶は、妙に立体感が有り、本物と見まごうばかりの出来だった。
 その下絵に、谷が一心不乱に、墨入れ作業をしている。
 もう、2人は既に完成し、3人目ももうじき終わり掛けだった。
 少女達は既に人格を封印され、悦子のすり込んだ命令通りに動く、人形に成っている。
 その証拠に少女達の眼は開いては居るが、その視線はどこも見て居らず、今入れ墨を入れられている少女もピクリとも動かない。
 薫は目を伏せ、その場を後にすると、悦子を捜しに風紀委員会室に向かった。

 悦子は風紀委員長室の執務椅子に腰を掛け、流石に疲れた様子で、眼を押さえていた。
 薫はソッと悦子の姿を確認すると、キサラに電話を入れる。
 キサラは急いで稔に電話し、その事を告げた。
 薫にとって無限とも思える時間が流れ、ドキドキと胸が高鳴る。
 そこに1階からエレベータが上がってくると、風紀委員室の扉が開き、黒い風が一瞬で風紀委員室を横切り、風紀委員長室に入って行く。
 風紀委員長室に入ったと思った黒い影は、直ぐに悦子を肩に担いで、来た時と同じ早さで、エレベーターに向かう。
 それは、鮮やか過ぎる程、鮮やかだった。
 その場所に居た薫ですら、何が起きたのか、全く理解出来ない。
 薫が呆然と見詰めていると、携帯電話が鳴り始める。

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