夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊25

 黒沢は白いバンを運転し校外の、住宅地に向かう。
 運転席に黒沢、助手席に山孝、後部座席に真と大貫が座る。
 車は静かな住宅街を抜け、威圧的な壁に取り囲まれた一角に着いた。
 重々しい鉄の扉が開き、黒沢の操る車が壁の中に入ると、扉が重々しく閉じる。
 手に様々な武器を持った、一目で暴力を生業にしている、数人が車に近付くと
「今日は、違う者が来るって聞いてたけど…。あんたがそうか…?」
 男達の中の1人が、運転席の黒沢に問い掛けると
「ああ、そうだ…」
 黒沢が短く答えて、男の胸の辺りを見る。
 男の胸には、ふっくらと硬い物が入っている膨らみが見え、黒沢は経験上この男が、ハンドガンを持っている事に気付く。
(これは、少しやばいな…。少なくとも、3人が銃を持っている…。紗英を連れて来るべきでは無かったか…)
 内心で深く後悔した。

 分院の裏手に回る時、分院の周りを同じように、武器を持った4人の男が警戒し、裏手にも更に4人居た。
(何だ…この人数…、ただ事じゃないぞ…。それに、銃を持っているのも、10人近い…。甘く見過ぎたか…)
 黒沢が、引き返すかどうか迷うと、真の姿がルームミラーに映る。
 真は車の床の一点を見詰め、両手を握りしめ、ジッと動かなかった。
(源さんのこんな思い詰めた姿…、見たくは無いな…。良し、最悪俺が銃を奪って抗戦しよう…。ここは決行だ)
 真の思い詰めた顔に、黒沢は計画の中止を言い出せなかった。
 黒沢はここで、伸一郎を、いや佐山を甘く見た。
 情報の欠落から、黒沢は佐山の事を誤認する。
 黒沢は戦闘のエキスパートだが、謀略には余り精通していない。
 そして、佐山がその謀略に長けている事を、黒沢は知らなかった。

 車は分院の裏手に進み、荷物の搬出口に止まる。
「おう、早く運び出してくれ、中が狭くて適わねぇ」
 警備の男が指図すると、シャッターが開き、段ボールの箱が現れた。
 それは、山積みされて煩雑に置かれている。
 男の1人が、バインダーに挟まれた紙片を黒沢に差し出すと
「これが、今回オーダーが有った物のリストだ。適当に、探して持って行け…」
 ぶっきらぼうに、黒沢に告げる。
 黒沢はリストを受け取ると、それを他の3人に分配した。
 4人全員が、手分けして薬を探す。

 そして、4人全員が倉庫内に入ると、それが起きた。
 倉庫の搬入口のシャッターが、いきなり閉じたのだ。
 倉庫内に閉じこめられた4人が、慌ててシャッターに近付き、開けようとするがシャッターはビクともしない。
 黒沢が踵を返して、段ボールの山を掻き分けると、反対側は鉄格子に成っていた。
 4人は完全に囚われてしまった。
「くっ! 罠か…」
 黒沢がそれに気が付き、思わず漏らすと
「くっくっくっくっ…。本当に来るとは…、馬鹿だね〜。あの執事長が何の手も打ってない訳無いだろ…。警備課以外から、ここに電話が掛かる事は、異常の証拠…。そう言う取り決めが、最初から有ったんだよ…」
 鉄格子の向こうから、含み笑いが聞こえ、白衣の男が黒沢達に真相を告げる。

 苦虫を噛み潰す黒沢に、白衣の男が
「どんなネズミが突っ込んで来たかと思ったら、案外大物だった。確かあんた達は、調教教師の中でトップ3の優秀なサディストじゃないか…。そっちの、デブは私の玩具の飼い主か…。ご苦労なこった…、もうデーターも全部取ったし、アレも用済みだ…。お前に返してやらんでも無いぞ…。おい、アレを持って来い…」
 嘲るように言い、真に顔を向けてヘラヘラ笑うと、助手と覚しき男に命令した。
 命令された助手は、白衣の男に頷き
「溲瓶ですか?」
 問い掛けると
「ああ、お前達の排泄道具だ…」
 白衣の男が、助手に告げる。

 助手はペコリと頭を下げると、診察室に消えて行き、再び現れた時は、白衣にくるまれた、老婆を引きずって来た。
 だがその老婆は、老婆と言うにはおかしかった。
 手足の細さは明らかに老婆なのだが、手入れをしていない、ゴワゴワの髪の毛だけが黒々としている。
 助手がその老婆を床に投げ出すと、老婆は自分で起きあがる事すら出来無いのか、モゾモゾと床を張って居た。
 そして、その老婆を見た真の眼が、大きく見開かれ
「弥生…」
 ボソリと名前を呟く。
 真の呟きを聞いて、老婆の肩がビクリと震え、ヨロヨロと体勢を入れ替え、顔を上げると老婆の顔は、筋肉が衰え、皺だらけに成っていたが、弥生の美しい面影が、微かに残っていた。
「し、真…さ…ま…」
 弥生の口がパクパクと開き、掠れたすきま風のような声が漏れる。

 弥生を見詰めた真の身体が、ブルブルと震えた。
「な、何をした…貴様等…弥生に何をした!」
 真が怒りを噛み殺しながら、震える声で問い掛けると
「はははっ、コレはここに来た時、驚く程下半身の使い方が上手くてな、普通に使うと研究員の方が、駄目になってしまうんでな、筋弛緩剤を使ったんだ。色々な濃度を試して打っていたら、1ヶ月程で全身の筋肉が衰えてな、こんなみすぼらしい姿に変わったんだ。今ではあれだけ動いてた下半身の筋肉も衰えて、穴もスカスカらしい。そろそろ、廃棄処分を考えていたんだ。だが、コレに打った筋弛緩剤の量を考えて、実験を思いついてね、どっちにしようか迷ってるんだ」
 白衣の男は、笑いながら、革靴の裏で弥生の頭を踏みつけ、ゴロゴロ転がしながら真に説明する。

 真の顔が真っ赤に染まり、顔が怒りで鬼のように変わると
「貴様〜!」
 絞り出した声で、白衣の男に吼えた。
 その、怒りを白衣の男はいなしながら、真に向かって銃のような物を向け
「吼えるな豚…」
 引き金を引いた。
 パスッと軽い圧搾音を上げ、鉄格子の向こうから、真の身体に円筒形の物が突き刺さる。
 すると、真の膝から力が抜け、カクリと折れて真の身体が、無防備に床に倒れた。
 真は驚きに目を見開くが、真の身体はピクリとも動かない。

 白衣の男は、ニヤリと笑い
「コレに使ったのと同じ物だ。まぁ、コレにはお前より、遙かに多い量を使ったんだがな…。常人の致死量の1.5倍は使ってる…」
 真に告げながらユックリとしゃがみ込み、弥生の髪の毛を掴むと、引き上げて真の顔の正面に向けると
「で、コレの使い道で、今迷ってるのが、生きたまま解剖して、心臓のデーターを取るか、それとも、負荷を掛けてコレの心臓がいつ止まるか、迷ってるんだ…。お前は、どっちが良いと思う?」
 白衣の男が迷っている内容を告げ、真に問い掛けた。

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