夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊34

 一方黒沢は真の後を追い、2階の廊下で改造された女性達を見つけ、痛ましい眼で見詰める。
(こいつ等は…人の身体を何だと思っている…。こんな事をする奴は、この世に居てはいけない…)
 黒沢は奥歯を噛みしめ、女性達に問い掛けた。
「ここには、貴女達だけですか…?」
 黒沢の問い掛けに、女性達はコクリと首を振る。
 その仕草に黒沢が眉を顰め
「貴女方は喉を…」
 問い掛けると、辛そうな表情で全員が項垂れた。
 女性達は全員声帯を潰され、声が出ないようにされていた。

 黒沢が怒りを顕わにすると、黒沢の足下を白い物が過ぎり、黒沢と女性達の間に割り込む。
 その白い物は、金田だった。
 金田は蒼白の表情で、女性達の前に陣取り、必死の表情で女性達を庇う。
 金田の姿を見た女性達は、不安そうな表情から、一瞬安堵を浮かべ金田の後ろに寄り添った。
 どうやら、金田はこの女性達から、絶大な信頼を受けているようだった。
 黒沢が困惑していると、階下から大貫が上がって来て
「山孝さんが目覚めました。下は彼に任せました。この方は、少し目を離した隙に階段を駆け上がられて…。思いの外、すばしっこかったので、油断しました…」
 黒沢に報告する。

 黒沢はユックリと首を振り
「いや、恐らくこの方も必死だったんだろう…。見てみろ、血が出てる…」
 金田を顎で示すと、金田の縫合された、歪な手足から血が流れ出していた。
 恐らく限界を超えた動かし方をした為、皮膚が裂けたのだろう。
 黒沢は金田と十分な距離を取って、しゃがみ込み
「私達は、この分院に捕らえられていた、女性を救出に来た者です。出来れば、この狂った場所から貴方方も助け出したいんですが、ご協力願えますか?」
 金田に問い掛けた。

 金田が真剣な表情で、黒沢をジッと見詰めて居ると、大貫の携帯が鳴り出した。
 大貫は今は全裸のままだが、あらかじめ携帯電話だけを洋服から取り出し、手にしていた。
 直ぐに携帯電話に大貫が出ると、大貫は黒沢に差し出し
「工藤様です…」
 黒沢に告げる。
「ああ、工藤君…第一段階は、成功だ。分院内は制圧した。真さんは、今どこかの部屋に上郷さんと2人で消えた」
 黒沢は状況を狂に告げると
『ああ、多分道場だ。真さんが弥生にパワーをやってるんだろ…。後1時間程で、稔が外側から陽動する、その時、内部から一気に脱出しろ』
 狂が黒沢に作戦を伝え、指示を出した。
「柳井君が…? 解りました。彼のポテンシャルがどれ程なのか、楽しみにしていますよ…。それより、困った事が起きています。この分院内に、相当な数の人が捕らえられ、人体実験に使われています。この人達をこのまま放って置く訳にはいかない…」
 黒沢が話しながら、金田に目を向けると、金田は黒沢が言った、2人の名前を聞いて、大きく目を見開いていた。

 それを見た黒沢の視線が、訝しむように細まると、金田がダラリと舌を垂らし、床に涎で名前を書く。
 黒沢はそれを見て、金田の書いた涎文字を読む。
「か・ね・だ…。何だ…貴方の名前…?」
 金田に問い掛けると、受話器の向こうから狂が大声で怒鳴る。
『ちょ、ちょ、ちょっと待て! 金田? 其処に、満夫が居るのか?』
 狂の質問に、黒沢が驚きながら
「金田満夫さんですか?」
 金田に問い掛ける。
 金田は、ブンブンと首を縦に振り、黒沢の質問に答えた。

 黒沢は驚きながら
「工藤君、どうやら、私は一面識も無い、副理事長と意外な場所で会ったらしい」
 狂に呟くと
『ビンゴだぜ! 皆目行方が解らなかったのは、そんな所に捕まってたのか…。おう、ちょっと変わってくれ』
 狂は嬉しそうに黒沢に頼む。
「いえ…、この方は…、しゃべる事が出来ません。恐らく声帯を破壊されています。それに、かなりの外科手術を施されていて…」
 黒沢が悲痛な声で狂に告げると、電話の奥で狂が息を呑む気配があった。

 少しの間を置き、狂が気を取り直して
『そうか…耳は聞こえてんだろ…? 電話を当ててくれ…』
 狂が沈痛な声で黒沢に話すと、黒沢は金田の耳の有った場所に、携帯電話を当てる。
『満夫…すまねぇな…。お前の事、随分探したんだけどよ…。全く消息が掴めなかった…、勘弁してくれ…。其処にいる4人は化けモンみたいに強え〜からよ…安心して、指示に従ってくれ。絶対お前を助け出すからな』
 狂は優しい声で金田に謝罪し、救出する事を約束した。
『黒沢さん…、計画変更。其処にいる全員救出してくれ。その為の装備は、稔に持たせる。明日の新聞や警察なんか気にするな! 其処に居る屑ども全殺しにしてくれ! もみ消しは全部俺がやる』
 狂は黒沢にそう告げると、黒沢はコクリと頷き
「こちらに、理事長の増援が来る事は有りますか?」
 冷静な声で狂に問い掛けると
『それは無い…。あんた達の奴隷が、今夜は爺共の眼を引きつけるから、今日はそっちに眼は行かない筈だ』
 狂は黒沢に答えた。
 狂が無責任な言い方で、女教師達をパーティーに出させたのは、このためだった。

 黒沢は頷き、狂との通話を切ると
「そう言う事です。私達は貴方方をここから救出する事に成りました。協力して頂けますか?」
 金田に問い掛ける。
 金田はコクリと頷き、黒沢の指示に従う。
「さて、当面はここを破壊する前に、必要な物の移動をするか…」
 黒沢が呟くと、金田が進み出て
「ほごー、ほごー」
 唸りながら舌を伸ばして黒沢を誘導する。
 黒沢は金田の誘導に従って、貴重なサンプルや重要なデーターなどを回収し、1つにまとめ稔の陽動に備えた。

■つづき

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