夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊35

 美紀が病院から300m程離れた、コンビニに入ると、そのコンビニの前に1台の派手な車が止まる。
 その車は元の形は高級車だが、車高を落とし下品なエアロパーツを付けた、いわゆる[ヤン車]と言う物だった。
 その車の中から、携帯電話を片手に、柄の悪い男が、コンビニ内を覗いて話している。
 数分後、その車の後ろに黒のワンボックスが止まり、ワンボックスから出て来た男が、ヤン車の男に金を渡した。
 ヤン車の男が、車を発進させると、暫くしてワンボックスの、前と後ろに1台ずつ、同じような下品な車が止まり、中から柄の悪い男達が、3人ずつ降りてくる。
「足は伸ばしてみるモンだな…。まさか、こんな所に隠れてやがったのか…。道理で、隣の市じゃ見つからない筈だぜ…。こっちの方まで縄を張って正解だったな…」
 ワンボックスから降り、ヤン車の男に金を渡した男が、写真を見ながら呟いた。

 美紀はコンビニに入ると、真っ先にケーキが並ぶ冷蔵ケースに向かう。
 美紀はニコニコと微笑みながら、ケーキを選んでいた。
 お気に入りのケーキを選び、飲み物を探していると、ふと視線を感じ外を見た。
 その外を見た、美紀の顔が引きつる。
 コンビニの窓ガラスに、見るからに質の悪そうな男がへばり付き、美紀を見詰めてニヤニヤと笑っていたのだ。
 その時目の端に、入り口から数人の男が入ってくるのが見えた。
 美紀はそちらに目を向けると、これも柄の悪い男が3人、コンビニの中に入って来た所だった。
 美紀は直ぐに荷物を捨てて、コンビニのトイレに駆け込み、中から鍵を掛ける。

 蒼白の顔でトイレの中で蹲る美紀。
 ガタガタと震えながら、携帯電話を取り出し稔の携帯に電話を掛ける。
 ドンと大きな音を立てて、いきなりトイレの扉が震えた。
「おら! 出て来いよ! こんな扉、直ぐにぶち壊せるんだぜ!」
 直ぐ後にがなり立てる男の声が響く。
「や、止めて下さい…」
 店員のか細い声の後に
「うるせ〜ぶち殺されてぇ〜のか!」
 男の恫喝が響き、ガラガラと何かが崩れる音が続く。

 美紀は携帯電話を握りしめ、稔に繋がるのを待ったが、携帯電話からは無情な女性の声が流れる。
 稔は分院襲撃の為、隠密行動に入り携帯電話の電源を落としていたのだ。
 ドンドンと扉が激しい音を立て、軋み始めるとメキッと扉が悲鳴を上げ、内側に少しずれた。
「おらー! 早く出て来いっつてんだろ! ぶっ殺すぞ!」
 トイレの扉を蹴っている男が、恫喝し再び扉を蹴り付ける。
 その一蹴りで扉がレールから外れ、内側に半分程入り込む。
 鍵がかろうじて掛かっており、完全には扉が外れなかったのだ。
「きゃー!」
 美紀は悲鳴を上げ、トイレの床にへたり込み、恐怖に震える。

 その少し前、コンビニの外でも、別の動きが有った。
 美紀を探しに来た美香が、病院から出て来る。
 黒のワンボックスに乗っていた男は、周囲を警戒していた為、直ぐに美香に気付き
(おおっと、もう1人のターゲット発見、あそこの病院に居たのか…)
 サッと身を翻して、車の中に隠れる。
 男は車の中から、コンビニの前に居る男に、電話で連絡を取り素早く指示を与えた。
 指示を受けた男は、横に立っている男に指示を伝え、2人で隣のビルに入って隠れる。
 美香の位置からは、その男達の動きは見えておらず、コンビニに近付いて来た。

 コンビニに近付いた美香は、中の異変に気付き、慌てて携帯電話を取り出しながら、入り口に近付く。
 その時ワンボックスの中の男が、ビルに隠れた男達に合図を送り、ワンボックスのスライドドアを開けた。
 美香は何が起きたか解らないまま、2人の男達にワンボックスの中に押し込まれた。
「良し! 1人ゲット…。よう、ねぇちゃん。久しぶりだな…、あん時は、お前の主人達に世話に成った。お陰で、俺は腎臓がお釈迦になっちまった」
 ワンボックスの男は、その日腎臓を悪くして、寝込んでいる筈の西だった。
 臨時収入が入った為、子飼いの部下を連れ隣の市まで遊びに来ていた所、姿を消した稔達の捜索協力を頼んでいたこの町の不良達から連絡を受け、飛んできたのである。

 美香は顔を引きつらせ
「あ、貴方は…」
 自分を陵辱した、西の顔を見詰めた。
「へへへっ…。これで、またボーナスが貰えるぜ…」
 西が呟くと西の携帯電話が鳴り、西は直ぐに電話に出る。
『西さん、警察です。そのコンビニ迄、後2分ぐらいです』
 電話の男は、西にそう告げると、西は舌打ちし
「ちっ、コンビニの店員通報しやがったな…。店員ぐらいキッチリ押さえておけよ…、タコ共使えねぇな…」
 西は呟くと、コンビニの店内に目を向け、トイレの前で押し問答している部下を見て
「おい、撤収だ。トイレの奴は、また今度だ!」
 美香を車に押し込んだ片割れに、指示を出す。

 片割れは指示を受け頷き、ワンボックスから降りるとコンビニ内に入って
「おい、警察だ! 1人捕まえたから、そいつは置いて行けって。引き上げるぞ」
 仲間の男達に声を掛け、自分の車に乗った。
 コンビニ内から、西の部下が口々に悪態を付きながら、慌ててそれぞれの車に戻り、3台の車は走り去っていった。
 コンビニの店員が慌ててトイレに向かい
「き、君大丈夫か? あいつ等知り合いなのか?」
 トイレの外から美紀に問い掛ける。

 美紀はトイレの扉の隙間から、ゴソゴソと這い出ると
「いえ…。全然知りません…。それより、[1人捕まえた]って、聞こえたんですけど…。誰か、捕まったんですか?」
 店員の質問に答えて、問い掛けた。
 その時店の外から別の店員が、警察官と供に戻って来た。
 その手に握られた携帯電話を見て、美紀の顔色が真っ青に変わる。
(お…、お姉ちゃんの携帯だ…! じゃぁ、捕まったのって…お姉ちゃん…)
 美紀は愕然とした顔で、店員が持つ美香の携帯を見詰めた。

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