夢魔
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■ 第32章 崩壊40

 男は使用人棟に取り付くと、侵入経路を模索する。
(窓は、全て閉まっているか…扉も駄目だろう…。さて、どれ程のセキュリティーが引かれてる…)
 男は窓の構造を調べ、センサー類を探し、それを無効化して行く。
(ここのセキュリティーは、完全に単独構造だ…。本宅と切り離す意味が有ったのか…)
 男はその構造に首を捻りながら、屋敷内に侵入した。

 男は再び鞄から双眼鏡を出すと、眼に当て周囲をグルリと見渡す。
 男の目に様々な情報が、送られて来た。
(この熱量から行くと…、この屋敷内には18人居るな…。だが、これは何だ…。2つ向こうの部屋…熱量は発してるが、ピクリとも動かないぞ…。5体の人形…? いや、熱量は間違い無く人間だ…)
 男はこの屋敷で一番広い個室に、双眼鏡を向けジッと考え込む。
(拘束されていても、もう少し動きは有る…。パントマイムでもここまで動かない事は、有り得ないぞ…)
 男は自分の判断を越えた状況に、困惑を覚えた。

 だが、男は息を1つ吐くと鞄に双眼鏡を戻し、腹を決めた
(解んねぇ事は、この目で確かめる。場所的に怪しさプンプンだしな…)
 スッと立ち上がった男は、躊躇う事無く扉を開け、廊下を進む。
 問題の部屋の前に着くと、男は中の様子を探り、ドアノブを回す。
 ドアノブは何の抵抗もなく回り、扉が開いた。
 直ぐさま男は音も無く身体を室内に滑り込ませ、部屋の角に蹲る。
 部屋の中は真っ暗で何も見えない、男は息を潜めジッと目が慣れるのを待つ。
 すると、闇に慣れた目に部屋の様子が朧気に見て取れた。
 部屋の真ん中に2体、壁際に3体の白い物が有る。
 それが熱量を発していた物だと、男は理解した。

 男はその物を見て眉を顰める。
(オブジェか…? いや違う…作り物じゃない…。これは、人間!)
 男はそれが、人間がポーズを取って、一切動かない状態だと気付く。
(有り得ない…。これは、どんな拷問なんだ…。人の身体は、こんな状態に耐えられるようには出来ていない…)
 男が愕然としていると、廊下を足音が近付いて来る。
 男はハッと我に返り、室内の人間の死角に入りつつ、気配を消した。
 コツコツと靴音を響かせ、足音は廊下を真っ直ぐに近付いて来る。
(この部屋には来るな…。出来れば、目撃者は作りたくない…)
 男は闇に紛れ、潜みながら心の中で呟いた。

 だが、男の願いは届く事無く、その足音は部屋の前で止まり、ドアノブを回して扉を開く。
 男はスッと立ち上がると、音も無く扉の横に移動する。
 扉一枚を挟んで、男と扉を開けた者は、隣り合わせに成った。
(頼む、そのまま確認するだけで、中に入ってくるなよ…)
 内心思いながら、男は直ぐに動けるように、身体の緊張を解く。
 だが、その思いも外れ、扉を開けた者は足を踏み出し中に入って来た。
 扉を開けた者は、この部屋自体に用事があったのだ。

 扉を開けた者は、直ぐに壁に有る照明のスイッチに手を伸ばし、部屋全体に明かりをともす。
 その明かりで、男は部屋の全貌をほぼ確認した。
 その部屋は板張りと鉄板とコンクリートの床が混在する部屋で、クイーンサイズのベッドと、ベッドの横に裸の女が2人蹲っていた。
 両方とも扉側にお尻を向けている為、男の姿は見えて居ない。
 裸の女は1人は四つん這いで、背中にガラスの板が乗っている。
 もう1人は蹲ったまま腰掛けのように、丸まっていた。

 更に中に足を踏み込んだ気配を示しながら、扉を開けた者は、入り口から身をかわし、扉を閉める。
 正面の女を見ながら扉を閉め始めた為、入ってきた者は男に全く気付かない。
 ユックリと扉が閉まって行き、入って来た者の姿が確認出来た。
 黒い首輪を嵌めメイド服を着た、ショートカットの女性がトレイに水差しを載せ、男の斜め前、数10p程の場所に立っている。
 男の身体がユラリと動き、左手をメイドの持ったトレイ、右手をメイドの首筋に伸ばす。
 だがそれより早く、メイドが身体を男から離し、振り返った。
 男は気配を読まれたのかと思ったが、壁際の一番奥の女性が、真っ直ぐに男を見ており、合図した事が解った。
(余計な事を…手荒な真似は、したく無かったのに…)
 男は心の中で舌打ちをしながら、間合いを詰めると
「待って…貴方は、何をしに来たの?」
 メイドが真っ直ぐ男を見詰めて質問した。

 メイドの質問に、男は戸惑ったが、情報量の少なさとメイドの視線に
「この館に、高校生の女の子が捕まって居ないか? 名前は前田沙希という…」
 男は自分の目的を告げる。
 男の目的を聞いたメイドは、大きく目を見開いて
「沙希様…? あの方に何の用?」
 男の質問に、問い返した。
 男はメイドの言葉に[このメイドは沙希の事を知っている]と確信し
「俺は、沙希を助けに来た。いや…取り戻しに来たんだ…」
 静かにメイドに告げる。

 メイドはスッと目を閉じ、呼吸を整え
「貴方…、もしかして…柳井君?」
 静かに問い掛けると、男は驚きを浮かべ
「稔さんを知ってるのか…? 俺は、稔さんじゃないが、その仲間だ…」
 そう言いながら目出し帽を脱ぎ、素顔を晒す。
「俺の名前は、垣内…。垣内庵と言う…」
 庵はメイドに向かって静かに告げた。

 だが、庵の名前を聞いた瞬間、メイドの目が更に大きく見開かれ、それは深い憎しみに変わる。
「あ、あんたが、[庵]! 沙希様をあんな風にした…、その本人!」
 メイドは手に持っていた、水差しの載ったトレイを庵にぶつけ
「みんな! [庵]が来たわ! 沙希様をあんな風にした、[庵]がここに居るわ!」
 扉を開けて、廊下に飛び出すと大声で叫んだ。
 その途端、屋敷中から足音が響き、散っていたメイドが集まり始める。
(な、何だ! これはどう言う事だ! 俺が沙希に何をした…)
 庵が驚いていると、屋敷中のメイドが殺気の固まりと成って、殺到して来た。

■つづき

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