夢魔
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■ 第32章 崩壊41

 それは突然の出来事だった。
 ショートカットのメイドの一声で、メイド達が無言で庵に襲い掛かって来た。
 庵は驚きながらも、それを軽くいなし、ショートカットのメイドを追う。
 だが、次々に現れるメイドが、行く手を遮りそれを邪魔する。
 庵にとっては、女の妨害など、本来さして苦にも成らない妨害なのだが、今襲ってくるメイド達は普段と違っていた。
 無言のまま必殺の殺気を孕み、刃物を持って庵に突っ込んで来る。
 庵はメイド達の攻撃をかわしながら、軽い攻撃を当て戦意を削ぐ。
 しかし、庵の思いとは裏腹に、メイド達は庵の攻撃で吹き飛ばされても、再び刃物を持って襲って来るのだ。
(何だこいつら…。普通なら痛みに蹲る筈だぞ…。それが、一つも戦意を無くさないなんて…)
 庵はメイド達の反応に驚き戸惑った。

 そんな中、庵はメイド達の攻撃を受け、その規則性に気づく。
 メイド達は常に[行かせたくない方]から現れ、庵に攻撃してくるのだ。
(そんなに、俺を行かせたくないのか…。なら、間違い無く沙希はこっちだ)
 庵は判断を下すと、廊下を曲がる。
 廊下を曲がると、そこが当たりで有る事が一目で分かった。
 一つの扉の前に4人のメイドが立ち、包丁やナイフを持って庵を牽制していた。
「どけ」
 庵はメイド達に獣性を開放して、低い声で命令する。
 庵の声を聞いたメイド達は、ビクリと肩を跳ね上げ、ガタガタと恐怖に震えるが、蒼白な顔のままそこを動こうとしなかった。

 庵はそのメイド達に、一歩近づくとおもむろに左右の手を振った。
 メイド達はそのあまりの早さに、堅く目を閉じ刃物を翳した手に力を入れる。
 だが、そのメイド達の手に、刃物は握られて居なかった。
 自分の手の中に感触が無くなった事に驚き、手を見つめるが刃物は掻き消えたように、どこにも無い。
 庵は驚くメイド達を尻目に、ダラリと下げていた右手を、上に跳ね上げる。
[カッ]っと言う音と共に、メイド達が持っていた刃物が天井に突き刺さった。
 庵はメイド達の手から、一瞬で刃物を奪いそれを手の届かぬ所に投棄した。

 メイド達が呆気に取られて、天井を見ていると
「おまえ達はどうやら、沙希の事を大事に思っているようだから、俺も極力抑えた。だが、これ以上邪魔をするなら、次は殺すぞ」
 先程とは比べものに成らない、殺気を含ませ庵がメイド達に告げる。
 メイド達は[ヒッ]と息を詰まらせ、その場で固まった。
 4人中3人のメイドが、あまりの恐怖感にお漏らしをする。

 庵がスッと扉のノブに手を伸ばすと、メイド達はペタンと腰が抜け、床に座り込む。
 庵はメイド達の間をスッと割って進み、扉を開けた。
 扉の奥は地下に続く階段が有り、庵は階段を下りる。
 階段を下り切るとそこには、鉄の扉が有った。
 庵が扉に手を伸ばすと、扉には鍵が掛かっている。
 庵は鼻で笑い、バッグから道具を取り出すと、あっと言う間に解錠した。
 鍵の開いた扉を押し込み、庵が地下室の中に入る。

 そこは、広大な部屋だった。
 コンクリートの打ちっ放しの空間は、100畳は有ろうかと言う広さで、様々な責め具が置かれている。
 天井から下がるクレーン、壁際に掛けられた磔台、大きな水槽、拘束台。
 庵は一目でそれが、何に使う部屋なのかを理解した。
 そこは、佐山の調教室だった。
 
 庵が部屋に入ると、5人のメイドが行く手を遮り、庵の進む方角を教える。
 庵はウンザリしながら、メイドの方に足を踏み出すと、5人のメイドは庵に身体事ぶつかり抱きついた。
 両手に2人ずつしがみつき、腰を1人が抱え込む。
 庵の動きを完全に止めるつもりの行動だった。
 庵がメイドの行動で狙いを理解した時、隠れていた2人のメイドが、包丁を持って庵に襲いかかる。

 だが、庵にはそんな攻撃は通用しなかった。
 庵は腕にしがみついたメイド達の腕を握り返し、しっかりと掴むと腕に力を入れて、身体を思い切り捻る。
 メイド達はその動きで宙に浮き、振り回された。
 襲って来たメイドは、その宙に浮いたメイドの身体で薙ぎ払われる。
 同僚の身体で薙ぎ払われたメイドは、ゴロゴロと床を転がり失神した。
 庵は身体の回転を止め、腕に捕まっていたメイド達を床におろすと、ギロリと睨み付ける。
 それだけで、メイド達は庵から手を離し、竦み上がった。

 庵は何事も無かったように、無造作に足を運び、奥の一室に進む。
 庵が扉を開けると、ショートカットのメイドが、1人の少女を背中に庇い、両手を広げて庵を睨み付け
「こ、これ以上、沙希様に何をしようと言うの!」
 必死に怒鳴る。
 庵は黙ったまま、部屋の中に一歩踏み出すと、ショートカットのメイドは、背後に隠し持った拳銃を構え
「来ないで! う、撃つわよ。本気で撃つわよ!」
 庵に銃口を向けた。

 庵はそれでも、更に足を進める。
 ショートカットのメイドは顔を引きつらせ、意を決して引き金を絞った。
 庵とメイドとの距離は5m程で、必中の距離である。
 タンッと言う乾いた音と、チャリーンと言う、金属が床に当たる音が室内に響く。
 しかし、それ以外にも別の音がメイドの耳に届く。
 それは、硬質の物が金属を弾くような音。
 キンッと言う音の後に、カカキューンと言う音が響き、ショートカットのメイドは、肩口に激痛が走った。
「こんなコンクリートの室内で、銃を撃てば跳弾するのは常識だ。過ぎた玩具は持つモンじゃない」
 庵は低い声でショートカットのメイドに告げ、メイドが取りこぼした銃を拾い、スライドを銃主部から外し、別々の方に放り投げた。

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