夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊43

 沙希の舌がチョロリと庵の唇に触れると、庵は直ぐに舌を沙希の唇にねじ込んだ。
 沙希の顔が一瞬驚き、次の瞬間満面の笑みに変わり、庵に抱きつきながら、貪るように舌を絡める。
 激しい口吻が交わされ、沙希は庵の身体に手足を絡め、蛇のように身体をくねらせ、庵を求めた。
 その光景をショートカットのメイドは、呆然と見つめる。
 それだけで無く、いつの間にか入り口に大勢のメイド達が集まり、庵と沙希のキスシーンを呆気に取られて見詰めていた。
 その視線を痛い程感じていた庵が、夢中でむしゃぶりつく、沙希の頭をポンポンと叩き教える。
 沙希は[折角熱中しているのに]と言う少し膨れた表情で庵を見ると、庵の目が[後ろを見ろ]と教えた。

 庵の視線に沙希が顔をずらせると、大勢のメイド達が、ジッと沙希のキスシーンに見入っていた。
「あん、やだ〜…みんないつから居たの…」
 沙希が頬を赤く染め、手を添えて俯く。
「わ、私は…最初から見てまして…。えっと、他の者は、大体キスシーンが始まってからです…」
 ショートカットのメイドが小声で説明すると、入り口に集まったメイド達は、無言のままコクリと頷いた。
「おい、ずっと看病して貰ってたんだ、礼ぐらい言え…」
 庵が沙希の耳元に囁くと、沙希はハッと我に返り
「あ、あの…。みなさんご心配お掛けしました。前田沙希、復活しました」
 庵の横に立ち上がて、ペコリと頭を下げメイド達に礼を言う。

 するとメイド達はわらわらと室内に入って来て、無言のまま涙を流し、沙希の回復を喜んだ。
 庵はTシャツを拾い上げ袖を通すと、革つなぎも元に戻す。
 鞄を背中に背負い、支度をすると
「沙希…成るべく早くしろ。今の所は警備が手薄だが、ここの主が戻って来れば、また厳しくなる…。いつ帰ってくるか解らない状況で、長居は無用だ…」
 沙希に向かって静かに告げる。
 すると、ショートカットのメイドが、庵の前に平伏し
「ご主人様達は、本日はお戻りに成りません。警備要員も、朝まで第3勤務のままと成っております」
 庵に警備状況を報告した。

 庵はショートカットのメイドに視線を向け
「何で、あんただけ喋れるんだ? 見た所、他の者も声帯が破壊されている訳でも無いように見えるが」
 問い掛けると
「はい、私達は執事長様に管理されておりまして、この首輪を付けない限り、声を出す事が出来ないように躾けられております」
 ショートカットのメイドは首輪を指さし、庵に説明する。
(くそっ、声まで奪うと成ると、かなり強い催眠術だな…。これは、沙希を一刻も早く、稔さんに見せなきゃな…)
 庵はショートカットのメイドの話で、佐山がかなりの催眠術師である事を知り、沙希に掛かった暗示を一刻も早く解く必要性を感じた。

 庵がショートカットのメイドと話していると、沙希がおずおずと庵に近づき
「庵様…。沙希…ここを出て行く訳にはいきません…」
 庵の背中にソッと告げる。
 庵は元より、その場に居た全員がその言葉に驚く。
(くそ、こんな催眠暗示まで掛けられてるのか!)
 庵は沙希の言葉を聞いて、真っ先にそう思った。

 だが、それは少し違っていた。
「あ、あのね…。私がここを逃げ出すと、ここに居るメイドさん達が、絶対酷い目に遭わされるの。死ぬ程身体を敏感にして1日中嬲ったり、恐怖心を煽るだけ煽って泣き叫ぶ様を見て笑ったり。佐山さんって本気でそう言う酷い事をする人なの。だから、もし私が逃げ出したら、絶対みんなそう言う目に遭わされちゃうの…。私が逃げ出す時は、このお屋敷のメイドさん全員と一緒じゃなきゃ、絶対駄目なの。だって、みんな私の大事な玩具ですもん…」
 沙希は庵に必死な顔で説明する。
 庵は途中まで、静かに聞きながら、最後の所で眉毛を跳ね上げる。
「おい…沙希。今、最後なんて言った…」
 庵の声に、沙希は驚きながら
「お、玩具って言いました…」
 怒られた子供が、言い訳するような表情で呟いた。

 庵はゆっくりと沙希に向き直り
「一体どう言う事だ…俺に解るように説明しろ…」
 沙希を問い詰めると、沙希は全てを話し始める。
 佐山と自分の寮の前で出会った事、その後スパイするように言われた事から、庵を罠に嵌めるように指示された事迄、沙希は全てを覚えており庵に話した。
「それで、ここのメイドさん達は、佐山のおじさんと同じように、私の言う事は絶対服従になちゃって、私はここのメイドさん達とプレイする間に、佐山のおじさんが「全部沙希の玩具だよ」って、私にくれたの…。だから、ここのみんなは全部沙希の物で、庵様の物なの…。だから、お願いします…この人達を助けて上げて…、庵様…沙希の一生のお願い…」
 沙希の説明を聞いた庵は、額に手を当て溜息を吐く。

 沙希はここに囚われている全ての女性を助け出して欲しいと、庵に懇願するため、敢えて[玩具]と言い、自分の物を主張する事で、その懇願に正当性を持たせた。
「解った…。ここの女性達を救い出す計画は、狂さんと話していたから問題無い…。お前が、ここに残ると言う理由も解る…。だが、ここが敵のど真ん中だと言う事実。お前に掛けられた暗示が、どこまで残っているか解らない。そんなあやふやな状態でここに置いておけるか?」
 庵が沙希に必死な顔で問い掛けると、沙希はニヤニヤと嬉しそうに笑いながら
「へへへっ…心配? ね、庵様、心配?」
 庵に問い直す。

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