夢魔
MIN:作
■ 第32章 崩壊44
庵はさっと頬を染め
「馬鹿野郎! 心配じゃ無かったら、1人でこんな物騒な家に、誰が忍び込むんだ! ったく」
沙希の両方の頬を抓りながら引っ張って、怒鳴る。
「あででで、いひゃい、いひゃい、庵様〜ゆるひて〜」
沙希は痛みを訴えるが、目元が緩みまくっている。
庵の口から直に言われて、嬉しくて仕方がないのだ。
庵が沙希の頬から手を離すと、沙希は頬を撫でながら
「多分暗示って言うのは、もう大丈夫だと思います。だって、指示されてる時は、佐山のおじさんがとっても大切に思えていたけど、今は何とも思わない…ううん、逆に酷い人って解るし。稔様の事も憎んでたけど、今はとっても大好きですもの…。それに、庵様の言葉で今まで有ったモヤモヤが、どっかに飛んでいちゃった」
嬉しそうに庵に告げる。
庵はその表情を見て、自分が言った言葉を思い出し、苦笑いしながら話題を変える。
「所で、何で全員こんな風に成ってるんだ…」
庵は室内を顎で示し、沙希に問い掛けると、この日庵を襲った13人のメイド達は、全員が額を床に押し当て、平伏していたのだ。
沙希が首を傾げて、不思議そうにすると
「も、申し訳ございません! 私達の勘違いとは言え、沙希様の大切なお方に、私達は有ろう事か殺意を持って襲い掛かってしまいました。如何様な罰も心の底から謝罪し、お受けいたします。どうか、お許し下さいませ」
ショートカットのメイドが、庵に震えながら謝罪した。
「ああ、そんな事か…、下らん…。気にするな、俺も気にして無い」
庵はヒラヒラと手を振り、メイド達をあっさり許す。
すると、ショートカットのメイドが、ガバリと顔を上げ
「そ、そんな…。私は、銃で撃ち殺そうとしたんですよ…。それを…気にするなって…」
泣きそうな顔で庵に告げると
「あっ、あの大きな音って…。ピストルだったの? 響子ちゃん、それはちょっと酷い」
沙希が頬を膨らませ、抗議する。
「沙希。俺は構わんと言ったぞ…、お前が責めてどうする。第一、今の俺には拳銃は効かん」
庵はそう言って、腕抜きを捲り上げた。
庵の腕抜きの下には、陶器のような真っ白な筒が嵌められている。
「ハイパーセラミックスのギブスだ…。堅い上に軽い。こいつは、鋼よりも堅いから普通じゃ先ず壊れない。後は銃口が向いた所に差し出せば、全て弾き飛ばせる」
庵が説明すると、沙希がシュンとした表情に成り
「庵様…、お怪我まだ直って無いんですね…」
ボソボソと呟いて、落ち込み始める。
そんな沙希の頭の上に、庵の大きな手がポンと載せられ
「ああ、治る訳ねぇだろ…。骨が粉々に成ったんだぞ、それが、1ヶ月半で治るなんて、どんな化け物だよ…。お陰でよ、かなり痛かったぞ」
沙希の頭をグリグリと撫でながら、庵が告げた。
沙希は更に項垂れ肩を落とし
「そうですよね…骨が砕けるなんて…、それを私がしたなんて…、絶対、痛い筈ですよね…」
涙を零しながら呟いた。
だが、その沙希の動きが止まり、庵の手の下で頭を捻り始める。
「あ、あれ…? 今…、なんか…おかしな事聞いた気がする…。あれ? 庵様…[痛かった]って、言った?」
沙希はブツブツと呟きながら、顔を上げ庵の顔を覗き込む。
庵は沙希の覗き込んだ顔を、ニヤリと笑って受け止め
「ああ、言った…。俺は、治ったんだ…、お前が治した。俺の無痛症をな…」
沙希に告げる。
沙希の顔が驚きに染まり、目に涙が溢れ始める。
沙希は庵の身体にしがみつき、声を上げて泣き始めた。
「良かった…庵様…本当に良かった〜…ふぇ〜ん…」
庵はそんな沙希を抱きしめ、優しく撫でながら
「ああ、お前が振り下ろしたから、俺は痛みを取り返した…。だから、お前は俺に良い事をしたんだ。何も気に病む必要は無い、俺はお前に心から感謝している。ありがとう沙希…お前のお陰だ…」
沙希に感謝の言葉を掛けた。
沙希はその言葉を聞き、涙が止まらなく成った。
庵の思いやり、優しさ、強さ、魂の大きさ。
それらが、沙希を包み込み、沙希の心の中に残った、暗い部分を押し出した。
沙希はそれを涙と共に洗い流し、大声と共に絞り出した。
沙希は泣き止むと、自分の心の中が軽く成り、明るい暖かな物で満たされている事を感じる。
(庵様…私は、本当に幸せです…。こんな素晴らしい、素敵な方が愛して下さるなんて…)
沙希の胸の中は、庵でいっぱいに埋め尽くされ、感じた事のない充足感に酔う。
そんな沙希が、庵の身体に記憶に無い物を感じる。
(あれ? 何で、こんな所が膨らんでるの…?)
それは、沙希の腰骨の辺りに感じる膨らみだった。
僅かな弾力と固い鉄のような、庵の筋肉を思わせる膨らみ。
それを沙希は、庵の股間に感じたのだ。
沙希はソッと庵の顔を見上げると、庵は再びニヤリと微笑み
「痛覚が戻ったから、ここも治して来た。まだ誰にも使って無い。1番初めはお前だ…沙希…」
低く静かな甘い声で、沙希の耳元に囁いた。
その囁きを聞き、沙希の腰がガクガクと揺れ、愛液が大量に分泌される。
(庵様の意地悪〜…。そんな事言われたら…私…一緒に行きたく成るじゃないですか〜…)
沙希は興奮と歓喜と我慢と恨めしさを混ぜ合わせたような、複雑な表情で庵を見て
「約束ですよ…。沙希、頑張りますから…絶対ですよ…」
庵に掠れた声で、詰め寄った。
庵はそんな沙希の唇に、自分の唇を重ね
「ああ、約束だ。これは、お前の物だからな…」
沙希の口の中に、優しく告げる。
沙希は嬉しそうにウットリとした表情で、感動しながら甘い口吻を堪能した。
■つづき
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