夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊45

 きつく抱き合い激しい口吻を交わし、睦事を囁く2人を見詰めるメイド達は、全員惚けたような顔で、見詰めていた。 
 メイド達は猛獣のような雰囲気と包み込むような優しさを兼ね備えた、鋼の肉体を持つこのサディストに少なからぬショックを受けた。
 自分達が何をしても、毛程も感じない、圧倒的な肉体。
 殺すつもりで立ち向かった者を[気にするな]の一言で片づける、大きな度量。
 そして、自分の大切な者を守り慈しむ、深い愛情。
 それらが全て、自分達の想像を超えた大きさで、目の前の男には備わっていた。
 そして、最も重要な点は、それが自分達が愛して止まない主人の[ご主人様]だと言う点で有る。
(この方を…ご主人様って…思って良いのかな…。思えたら…凄いだろうな…)
 メイド達の目には、そんな思いが溢れている。

 沙希から唇を離した庵は、フッと響子に向き直り
「おい、あんた…。確か響子って言ったな…。ちょっと来い」
 鞄を下ろしながら、響子を呼びつけた。
 響子は驚きながらも、直ぐに庵の下に進み出て平伏すると
「は、はい何でございましょうか」
 庵に緊張した声で、問い掛ける。
「服を脱いで、右側の肩を出せ」
 庵は鞄を漁りながら響子に命令すると、響子は突然の命令に、慌てながらも上着を脱いだ。

 庵は鞄から顔を上げ響子に向き直ると、響子の裸身を見て顔を曇らせる。
 響子はその庵の顔を見て、悲しそうな顔をして俯くと、庵は背後に回り響子の肩の傷を治療した。
「弾は掠めただけだが、衝撃波で皮膚が切れてるが、この絆創膏を貼っておけば、1日で傷も塞がるだろう。他の身体の傷は、ここを出てから俺の知り合いに頼む。完全にとは言えないが、この程度の傷ならほぼ目立たなくしてくれる筈だ…」
 庵はそう言うと、響子に服を着るように指示を出す。
 だが、響子はそれどころでは無かった。
 庵の言った事が、響子の心を激しく揺さぶる。

 響子は庵に向き直り
「い、今この傷が、目立たなく成ると…そう仰いました…」
 真剣な表情で、庵に問い掛けると
「ああ、そう言った。どうした? 俺の言葉は、信じられんか…」
 庵は響子に頷いて問い返す。
「い、いえ…滅相もございません…。ただ突然夢のような事を言われた物ですから…」
 響子は恐縮しながら、庵に答えると
「沙希、お前真さんの事話してやれ。それと、弥生の事もだ…」
 庵は沙希に向き直り、真と弥生の特殊技術を説明させる。

 沙希は[お〜確かに]ポンと手を叩きながら呟いて、響子に説明した。
 その話を聞いていた、他のメイド達も自分の身体に有る傷が、消えるかもしれないと知り、目を輝かせる。
 話に夢中に成っている、沙希達を置いて、庵は立ち上がると
「じゃぁ、今日はこれで帰る」
 そう告げて、出て行こうとした。
 沙希がそれに気づき、声を掛けようとするより先に、響子が庵の足下に平伏し
「きょ、今日は本当に、ありがとうございました。数々の無礼を許して頂いた上に、傷の手当てまでして頂き…。それに、それに、生きる希望まで与えて下さった事、心より感謝致します」
 庵に心からの感謝を伝える。

 庵は響子を見下ろし
「ああ、それより、これからも沙希の事を頼むな…。俺の大切な者だ、力に成ってくれ」
 響子に依頼した。
「はい、この身に変えましても、必ずお守り致します」
 響子が固く誓うと、庵は出て行こうとした。
 しかし、庵はその足を止め
「おい、響子。この屋敷のマスターキーって、ここに有るか?」
 響子に問い掛ける。

 響子は顔を上げ
「はい、御座います…。ですが、それは執事長様の部屋のキーボックスに保管されており、執事長様の鍵が無いと取り出せません。それに、キーボックスは執事長様が毎日確認されるので、鍵が無くなると直ぐにバレてしまいます」
 庵に説明した。
「ああ、構わない。持って行く訳じゃねぇ、案内してくれ。沙希、良い子で居ろよ」
 庵は響子に軽く返事をして、沙希に別れを告げる。
「は〜い、成るべく早く迎えに来て下さいね〜」
 沙希は明るい声で、庵を送り出した。
 庵が数歩歩くと、沙希の部屋からメイド達の声が聞こえ始める。
 沙希が暗示を解き、メイド達の言葉を戻したのだった。
 その上で、沙希は全員と談笑を楽しむ。
 勿論、話題は[庵]の事についてだった。

 響子は庵を案内し佐山の部屋に入ると
「アレがそうです」
 キーボックスを指し示し、場所を教えた。
 庵はキーボックスを確認すると、鞄を下ろしながらキーボックスに取り付く。
 庵は鞄から工具を出して、ゴソゴソと始めると
「特殊な鍵を使っているので、執事長様しか開ける事は出来ないそう…えっ!」
 響子が庵に説明を始めるが、響子の言葉が終わる前に、キーボックスの蓋が開く。
「ん? 何か言ったか?」
 庵は響子の説明を問い直すと、響子は口を開けて呆気に取られる。

 庵はズラリと並ぶ鍵を次々、オイルライター程の大きさの箱に差し込み、スイッチを押す。
 庵の持っている箱は、3Dスキャナーで0.01o単位の3D値を、内蔵のメモリーに記憶させる。
 デジタル上で完全に鍵をコピーし、通常の鍵ならば、どんな物でも復元可能なのであった。
 庵はそのキーボックスに並ぶ、特殊な鍵を手に取り
「おっと、こいつは分院の鍵だ…。こればっかりは、ちょっとコピーは無理だな…。こいつはダミーを置いて回収するか」
 庵は呟くと、鞄から弁当箱程の箱を取り出し、蓋を開ける。
 その中には、ビッシリと鍵の原型が入っており、庵はその中から1つを取り出す。
 続いて大きなボールペンのような物を取り出すと、カチリとお尻を捻りスイッチを入れた。
 ボールペンのような物は、歯医者のドリルとそっくりな音を上げ、先端が回転し始める。
 庵はそれを鍵の原型に当て、あっと言う間にダミーを作り上げた。

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