夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊49

 パーティーの開始を見守り、佐山が学校を後にする。
 駐車場に止めたベンツに乗り込むと、明日香が車を走らせた。
「例の倉庫だ…」
 佐山が明日香に告げると、明日香は頷いて車を郊外に向け、アクセルを踏み込んだ。
 黒いベンツが加速して、目的地に急ぐ。
(ここから、倉庫まで15q…。20分掛けたら、殺されてしまうは…)
 明日香は佐山の会話を聞いており、目的も理解していた。
 それ故、今の佐山が急いでいる事を知っていたし、今の佐山の表情をルームミラー越しに見て、相当苛立っているのも理解する。

 佐山は後部座席に座るなり、腕組みをして押し黙った。
(クソ爺…。何が[こそこそ悪巧みをするな]だ…。最近田口の爺のせいで、2人に中々成れないからな…、掛かりが悪く成ってる。こっちも、早急に手を打たなきゃ成らん…)
 佐山は伸一郎に掛けた暗示が弱まり、自分の行動に関与してきたのが、苛立たしくて仕方が無かったのだ。
 明日香は佐山の勘気に触れぬよう、細心の注意を払い、車を急がせる。
 無言の佐山。
 プレッシャーの掛かる車内。
 明日香は息も出来ぬ程緊張し、15qの道を10分で辿り着かせた。

 倉庫の前に車が止まると、倉庫の扉が開き、ベンツは静かに中に入る。
 倉庫内はガランとしており、車が1台止まっているだけだった。
 美香を拉致した西のワンボックスである。
 佐山のベンツを確認した西が、ワンボックスから降りると、その横に拘束された白いワンピースの美香が立たされた。
(うわっ、可愛い女の子…、まるでお人形みたい…だけど凄い迫力…)
 美香を見た、運転席の明日香は、その美貌と雰囲気に目を剥いた。
(でも、この子も…。きっと玩具にされるのね…)
 明日香は直ぐにルームミラーに視線を投げ、後ろで押し黙っていた佐山に目を向ける。

 佐山は先程までの苛立った表情を、驚きの表情に変え、美香を見詰めていた。
(こ、これは…、写真で見るのとは、全く違う…。なんだこの雰囲気は…)
 佐山は押し黙って居たのでは無く、美香を見て言葉が出ない程、驚いていたのだ。
 佐山はガチャガチャと慌てて扉を開け、美香の前に立つと
「よ、良くやったな…。報酬は、好きなだけ呉れてやるから、残りの女も連れて来い」
 興奮した佐山は地のまま、西に命令する。
「へへへっ、じゃぁ、俺はこいつを引き渡したら、直ぐに行ってきまさぁ…。なぁに、場所は解ってるんだ、病院なんて5人も行けば、掠って来れますよ」
 西はそう告げると、美香を佐山に差し出し、薄笑いを浮かべながら、安請け合いをした。

 佐山は西の突き飛ばした、美香を受け止め
「おお、何て柔らかい張りの有る肌だ…、白くてすべすべじゃないか…」
 美香の剥き出しの肩から腕を撫で、ニヤニヤと笑う。
 だが、佐山に撫でられている美香の表情が、訝しげに歪んでいた。
 それに気付いた佐山が、美香の顔を覗き込むと
「じゃぁ、行ってきやす…」
 佐山に挨拶して、西がワンボックスを出すのが、ほぼ同じだった。

 西の声に佐山が振り返ると、美香の瞳が大きく見開かれ
「お、小父さん…、あの時の人…。眼鏡の、太った…私を脅してた小父さんと一緒にいた…。いつも眼鏡の小父さんに命令してた…」
 ボソボソと呟くと、佐山がその言葉に気付き
「ん? 何だ、お嬢ちゃん…、あの時のモルモットか…。なら話が早い…、後催眠が掛かってる筈だ…。直ぐに、気持ち良くして上げるからね…」
 ニンマリと笑って、佐山が美香に告げる。

 美香の頬が強張り、一歩後ずさると
「良い子だ、力を抜いて眠りなさい…」
 佐山が、美香に囁いた。
 その言葉を聞いた美香は、フッと瞼が閉じて、カクリと足の力が抜け、その場に頽れる。
 その美香の動きを見て、佐山は笑いはじめ
「ほ〜ら、見ろ…。やっぱり私は天才だ。何年経とうと、後催眠がキッチリと掛かっている」
 自画自賛すると、高笑いを始める。
 身を横たえ眠る美香は、佐山の手に落ちた。
 時刻は20:25、庵が伸一郎の家の使用人棟を後にした時間だった。

◆◆◆◆◆

 狂は教室棟の旧生徒会室で、自分が充電している間の、事後処理に追われていた。
 様々な書類を閲覧し、電子署名を押して、送信する。
 狂は数百という書類に目を通し、その合間に計画の補正を行い、調べ物をしていた。
 そんな時、狂の携帯電話が鳴り、狂は苛立ちながらサブディスプレイを確認する。
 サブディスプレイを見た狂は、その動きを止め、あまりの驚きに愕然とした。
 サブディスプレイには、[庵]と一文字だけ浮かんでいる。
(んだ…庵の携帯…? 確かにSIMカードは、庵に渡したが…。復帰するには、早過ぎる…、一体誰だ…)
 狂は訝しげに顔を曲げて、携帯電話を取った。

 携帯電話の通話ボタンを押すと、有り得ない低い声が聞こえる。
『あ、狂さん…、俺です、庵です…』
 狂はその声を聞き、あまりの驚きに携帯電話を落としそうになって、慌てて両手で支えた。
「い、庵か? お前、いくら何でも、早過ぎねぇか? ったく、ドンだけ化けモンなんだ」
 狂は嬉しそうに、携帯に話し掛けると
『骨はまだくっついて無いです。砕けた骨の回りを、セラミックで覆って腕の外側もセラミックのギブスを付けてます。黙って寝てられる訳無いでしょ、この俺が…』
 庵が説明すると、狂は大笑いしながら
「だろうな。んで、今どこだ。成田か?」
 庵に問い掛けると
『いえ、竹内の家を出た所です』
 庵は狂に答える。

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