夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊53

 美香を佐山に手渡した西は、車を再び隣の市の総合病院に向ける。
 総合病院に着いた西は、車に1人残して、4人で総合病院内に入った。
 時刻は20:40を少し過ぎた頃だ。
 西は夜間診療口から入ると、直ぐに病院内を彷徨き始める。
 だが、そんな西を直ぐに看護士が見咎め
「貴方達、もう面会時間は過ぎてますよ。直ぐに出て行って下さい」
 固い声で、西達に注意した。
 看護士は年齢40歳前後で、ナースキャップに2本の線が入っている。

 西はニヤリと笑うと
「いやいや、すいませんね…人を探してるんですよ」
 微笑みを浮かべながら看護士に近付き、ポケットの中から1万円札を5枚取り出し、看護士に見せる。
 看護士は険しい表情を浮かべ
「貴方達何者? 警備員を呼びますよ!」
 鋭い声で西に告げた。
 だが、西の反対側の手が、素早く動き看護士の目の前に現れる。
 その手には刃渡り20p程のナイフが握られ
「そりゃ、困る。俺達も、派手に騒ぎたく無いんでね…。穏便に行きましょうや…、ねぇ、看護士さん…」
 刃先がピタピタと看護士の頬に触れた。

 看護士は[ひっ]と息を呑み、ガタガタと震える。
 西は獰猛な笑顔に変え、看護士を人目の付かない階段に引き込み
「俺達は、別に手荒な真似も、事件を起こしに来たつもりもねぇ…。ましてや、こんな病院で、看護士の刺殺体を作りたくも無い。解るよな…その為には、あんたの協力が必要だ…」
 低い声で、看護士に説明し依頼した。
 看護士は引きつった声で
「や、止めて…。許して…、私の家は子供がまだ小さいの…」
 西に懇願する。

 西は頷くと、顎をしゃくり隣の男に指示を出すと、隣の男は2枚の写真を取り出し、看護士に見せた。
 看護士はその写真を見ると、目を見張り知っている事を露呈させる。
 西はニヤリと笑い
「知ってるな…。どこに居る?」
 囁くような声で、看護士に問い掛けた。
 看護士は一瞬迷ったが、西の持ったナイフがスーッと動いて、頬を浅く切ると我慢出来なかった。
「2人とも今は、居ません。8時頃出かけて、行きました。近くのコンビニで、事件が有ったらしくて…それに巻き込まれたみたいで…」
 震える声で捲し立てる。

 西はその話を聞いて頷くと、看護士の胸ポケットに1万円札をねじ込み
「邪魔したな…。言って置くが、これはビジネスだ…俺達の事誰にも話すんじゃねぇぞ…」
 低い声で呟いて、病院を後にした。
 看護士は階段に腰掛け、ガタガタと震える身体を落ち着ける。
(私は悪くない…私は悪くない…)
 看護士は罪の呵責を弱める為に、何度も呟いた。

 西達は病院を出ると車に戻り
「ちぃ、多分まだ警察だな…。考えて見りゃ当然だわな…、実の娘が掠われたんだ、事情聴取は有るだろう…。暫く待つか…」
 入り口が見渡せる場所に移動した。
 入口を監視していた西は、病院の入り口横に止まった一台のバイクに目を止め、驚きで顔をいっぱいにする。
(あ、あいつは、まさか…! な、何でここに居るんだ? 何でバイクになんか乗ってるんだ! 俺が、引導渡したじゃねぇか)
 バイクを駐車し、ヘルメットを取った庵を見つけて、愕然とした。

 それから先の西の行動は素早かった。
 あっと言う間に運転席に乗り込み、車のエンジンを掛け、庵に見つからないように車を走らせる。
 その西の行動を、呆気に取られてみていた仲間の男が
「に、西さん…。女はどうするんですか?」
 西に問い掛けると
「馬鹿野郎! 命有っての物種だ。こんな所で見かけるなんて…。いや、見付からなかったんだから、まだツイてるのか…。ふぅ〜…、命拾いした…。かち合わなくて、ホント助かった…」
 西は怒りをぶちまけながら、徐々に考えを変え、最後には心底ホッとしていた。

 西はもう何も考えずに、車を走らせ自分のねぐらに戻る。
 最後に死に神の姿を見て、西の心は急にテンションを下げ、馬鹿騒ぎをする気が失せた。
 西の突然の変更に、仲間達は不満を漏らすが、西が20万円程渡すと、満足して挨拶しながら夜の闇に消えて行った。
 西は携帯を取り出し、佐山に連絡を入れる。
 携帯電話は繋がらず、留守番電話に[例の親子は警察に居て、今日は不可能です]とメッセージを残した。
 時刻は21:20、西は地下2階に行き、2匹の家畜生徒を引き出すと、用務員室に籠もった。

◆◆◆◆◆

 佐山は暗い倉庫内で、眠っている美香を横抱きにし、木箱に腰を掛け催眠を施す。
 低い声で誘導し、催眠を深めて行く佐山。
 佐山の言う通りの反応を見せる美香。
 佐山は美香に向かって、自分がどれだけ大事な人間で、美香はその指示に従う事を擦り込まれる。
 佐山の言葉に、美香は何度も返事を呟き、佐山の暗示に従う。
 佐山の顔がニヤニヤと崩れ、美香に命じる。
「さあ、目を開けて私の指示に従いなさい。君は、私の奴隷だよ…」
 佐山の命令で美香の目がスッと開き、ボンヤリと佐山を見詰めた。
 その瞳に徐々に力が戻り、佐山を見詰めると
「私は奴隷です…」
 かわいらしい声で呟く。

■つづき

■目次4

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊