夢魔
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■ 第32章 崩壊59

 22:00伸也は学校に着くと、管理棟最上階の、自分の城へと足を向ける。
 正門を潜った伸也は、美術室から明かりがチラチラと漏れている事に気付き
(あ〜ん? 誰か、居やがるのか…。へへへ、面白い…、嫌がる女を犯すのも良いかな…)
 舌舐め擦りをして、校舎棟に向かい1階の廊下を進み、入り口の窓から中を覗く。
(あ、ありゃ? なんだ、工藤の女じゃねえか…。ちっ、無駄足かよ…)
 伸也は舌打ちをして、立ち去ろうとする。

 だが、伸也のその足がピタリと止まり、絵美の身体を食い入るように見詰めた。
(この女、背は小ちゃいけど…、凄ぇオッパイじゃねぇか…。尻もしっかり張ってるし、腰も縊れてる。何気に良い体じゃねぇか…。ヤスの言った事も、あながち嘘じゃないかもな…。これだけの身体してたら、売春してても納得行くぜ)
 伸也は自分の年上の悪友が、言った事を思い出しながら、舌なめずりをした。
 絵美が最後に身体を売った相手は、伸也の年上の悪友だった。
 その悪友が、つい最近狂と居る所を見掛け、伸也に驚きながら告げていた。
 伸也はその時は笑い飛ばしていたが、その悪友が事細かに語る話は、全て聞いていた。

 伸也はニヤリと笑うと、おもむろに美術室の扉を開ける。
「よう、こんな遅くまで、精が出るな…」
 伸也はズカズカと美術室に足を踏み入れると、絵美に話し掛けた。
 絵美は突然の闖入者に、驚きながら筆を止め、伸也を見詰める。
 伸也は絵美を見詰めながら、薄笑いを浮かべ
「お前にゃ手を出すなって、言われてたけど…お前から誘うのは、別だぜ…」
 絵美に近付きながら伸也が告げると、絵美は不可解な表情を浮かべ
「何を言ってるの? 何で私が、貴方を誘うのよ…」
 唇を尖らせて、伸也に告げる。

 伸也はいやらしい笑いを浮かべて、絵美を見詰め
「夏休み前…今から3ヶ月ぐらい前かな…。お前、車に乗った奴に5万円で買われたんだって? そいつよ、俺のツレれなんだわ。この間、工藤とお前が歩いてる時によ、偶然そいつが俺の横で、お前を見かけたんだ。話を聞いたらよ、お前何されても、感じてたらしいじゃねぇかよ。ど変態の売春婦だって、興奮してたぜ」
 絵美に悪友の話をした。
 絵美はその言葉を聞いて、愕然とするとガタガタと震え始める。
(こいつ…、知ってる。全部知ってる…。私が身体を売ってた事…、全部知ってるんだ…)
 絵美の顔は蒼白になり、俯いて黙り込んだ。

 伸也は絵美の表情と態度を見て、確信すると一歩前に踏み出し
「へへへっ、黙ってて欲しいんだろ…、あの事をよ〜っ…まったくガキみたいな顔してても、やる事は大胆だな〜、おい」
 絵美の腕を掴んで、恫喝する。
 絵美は伸也の腕を振り払い、射抜くような目線で睨み付けたが
「妹達も困るだろうな…、姉ちゃんが何をしていたか知ったら…、近所で虐められちゃうかな〜」
 伸也が妹達の話を出すと、唇をかみしめ俯く。
 伸也は俯いた絵美の耳元に擦り寄ると
「それに、あいつにもバレたくは無いんだろ…。お前の、ご主人様によ…」
 ボソボソと囁いた。

 絵美はバッと顔を上げると、抵抗の力を全て奪われた目線で、伸也を見て力なく首を振り
「お、お願い…それだけは…止めて…」
 絞り出すような、小声で哀願した。
(へへへっ…、これでこいつも落ちたな…こいつの泣き所は、やっぱりあのチビか…)
 伸也はほくそ笑むと、絵美から身体を離して
「じゃぁ〜どうすれば良いか解るよな? さて、どうするんだ…」
 勝ち誇った顔で、絵美を見下ろす。

 絵美はフルフルと震え、胸前の手を握り込むと、固く目を閉じ
「わ、私を…」
 伸也に屈服の言葉を言いかけた。
 するとその時、小さく何かの爆ぜる音と共に
「その先を、俺以外に言うんじゃねぇ…」
 囁くような小さな声が、絵美の耳に飛び込んで来る。
 絵美が驚いて目を開けると、伸也は白眼を剥いてグラリと揺れ、頭から床に突っ込んだ。
 どさりと倒れ込んだその後ろに、自分と変わらない、小さな影がある。
 そこには、射出型のスタンガンを持った、狂が立っていた。

 絵美は狂の姿を認め、顔をクシャクシャにすると
「ご主人様…私…私…」
 言葉を詰まらせ、しゃがみ込んだ。
 狂が前に進みながら
「この馬鹿! 何でこんなヤツの言う事、聞いてるんだ!」
 凄い剣幕で、絵美を怒り付ける。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「謝って済むもんじゃねぇ! 危なくこいつにオモチャにされる所だったんだぞ!」
 狂はしゃがみ込んだ、絵美の腕を掴み引き起こすと、襟首を掴んで正面から見据える。

「私…私…脅されて…仕方なく…」
 絵美が震えながら呟くと
「けっ…お前の昔の事か…」
 狂が絵美の襟首を放し、吐き捨てるように、呟いた。
 絵美は狂に襟首を離されよろめくが、その言葉を聞き、動きがピタリと止まる。
「知ってるよ…俺は…。お前がいつそれをしたのかも、その金を何に使ったのかも…全部知ってる」
 絵美の身体が、嗚咽とは違う震え方になり、力無く床に沈み込む。

 ガタガタと激しく震え、小さく丸まって居る絵美の背中に、狂は静かに語りかける。
「お前のバイト先が潰れて、バイト代が入らなくなった…それでも、母親の入院費は払わ無くちゃなんねぇ…」
 絵美の肩が、ビクリと震えた。
「家族全員、風邪で医者に掛かった費用…それも作らなくちゃならねぇ…」
 絵美の身体が、ビクビクと痙攣するように震える。
「そんな家族思いのお前が、急に1年続けたバイトを辞めなくちゃならねぇ…そんな理由も、察しが行くし…足りなくなった金を補う為にやった事…」
 狂は、絵美の前にユックリしゃがみ込み、静かに語った。

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