夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊61

 庵はパトカーで警察署に連れて行かれる。
 庵は犯罪が確定した訳でもなく、尚かつ未成年にも拘わらず、手錠を掛けられていた。
 それは、連行しようとした警察官が、庵の風貌と雰囲気に、思わず掛けてしまった物だった。
 庵はその手錠を黙って受け入れ、パトカー内でもジッと動かなかった。
 だが、その雰囲気はドンドン剣呑な物に変わり、警察官達はピリピリと緊張をする。
 パトカーは必然速度を上げ、警察署に急ぎ、庵をパトカーから降ろす時も、かなり厳重に警戒した。
 そう、腰の拳銃に手を掛け、いつでも抜けるように待機し、警棒で突きながら庵を連行する。
 完全に服務規程違反であるが、警察官にしてみれば、その容貌と雰囲気は極悪人と判断せざるを得なかったのだ。

 庵はのっそりとパトカーを降りると、獣のような雰囲気を発散させ、警察署内に入る。
 庵は四方を警察官に囲まれ、取調室があるフロアーに連れて行かれた。
 エレベーターを降りると、通路がありその通路で、1人の女性が椅子に座り、その横で2人のスーツを着た男が立っている。
 庵は直ぐにその女性に気付き
「あれ、おばさん…。こんな所で、何してるんですか?」
 女性に問い掛けると、女性がその声に驚き
「あっ、庵さ…君…。貴方こそ、こんな所でどうしたの?」
 庵に問い返した。

 梓は仰々しく連行される、庵の姿を見て、呆気に取られる。
「いえね、今日日本に帰って来て、おばさん達を訪ねたら、いきなりこんな事に成っちゃって…」
 庵は手錠を梓に見せると
「日本って、かなり物騒なんですね? 何もしていない未成年者を銃で威嚇して、手錠まで嵌めるなんて…」
 戯けた口調で、梓に告げる。
 庵の言葉を聞いて、梓の横にいた男が、顔を蒼白にして
「お、おい! お前達、この人の身元を確かめたのか? 何の罪で手錠を掛けたんだ!」
 警察官に声を荒げて問い掛ける。
 警察官は、問い掛けた男の言った事を、一切していない事に気付き、顔を見合わせ固まった。
 時刻は22:10、庵と梓の邂逅で、事は一気に流れを変える。

◆◆◆◆◆

 22:10車が病院に着くと、稔達は地下の物資搬入口から入り、作業用エレベーターで最上階に向かう。
 稔は直ぐに梓達が寝泊まりしている部屋に向かうが、そこには誰もいなかった。
 怪訝に思いながら、稔は玉置の部屋に向かうが、そこにも玉置が寝てるだけで、梓達の姿は無い。
 医院長室に行くも誰も居らず、稔は首を傾げる。
 稔は下に行きナースセンターに向かうと、40歳前後の看護士がカウンターに座っていた。
「あっ、山崎婦長…、今日は確か医院長は、居られる筈じゃ無かったでしょうか?」
 稔はナースキャップに2本線が入った、看護士に問い掛けると、看護士は酷く驚き、視線を逸らしながら
「あ…、はい…、い、今。医院長は、警察の方に行っております…」
 怯えるように稔に告げた。

 婦長は近くのコンビニで事件があった事や、梓が呼び出された事、その後溝口が[警察に行く]と言って、出て行った事を話し、不審人物が2度梓を探しに来た事を稔に告げる。
 稔は婦長の話を聞き、嫌な予感に襲われ、携帯電話を取り出した。
 稔は美香、美紀、梓、庵と順番に電話を掛けたが、そのどれにも繋がらない。
 直ぐに最後の関係者溝口に電話を入れると
『あ、もしもし、溝口です。柳井さん大変な事が起きました。どうやら、美香ちゃんが何者かに拉致され、現場に居た美紀ちゃんが、警察に同行を求められ、梓さんが呼び出されました』
 溝口は口早に状況を説明する。
「何ですって! 美香が拉致された! でっ、何故、梓達は警察に拘留されたままなんですか?」
 稔が問い掛けると
『そこなんです、どうも警察は、金田の失踪と同一事件と位置づけているらしく、梓さん達の身柄を解放しようとしないんです。私は交渉したんですが、一向に釈放しないんで、今弁護士の先生を連れて、警察署に向かっている所です』
 稔の問い掛けに、溝口が答えた。

 稔の表情が、真っ青に成り眉根に険しい皺が浮いている。
「満夫は助けました。美香が拉致されたのは、いつですか?」
 稔は震える声で、溝口に問い掛けると
『はい、恐らく夜の7時頃だと思います。その頃に近くのコンビニで事件が起きてますから』
 稔に答えた。
 稔は愕然とした。
(あの携帯電話の着信時に、既に事件が起きていたのか…。何て事だ…)
 稔は美紀の電話の不在着信を思い出し、ギリギリと奥歯を噛みしめる。
 その稔の表情は、完全に怒りの表情であった。

 稔は溝口に向かって
「梓と美紀の方頼みます。僕は美香の行方を捜します」
 そう依頼すると
『はい、解りました。今警察署に着いたので、早急に対処します』
 溝口は電話を切る。
 稔は直ぐに狂に電話すると、純が電話に出た。
『もしもし? どうした…』
 純の声で、狂の口調が受話器から流れると
「もしもし、冗談をやってる暇は無いんです。狂はどうしました?」
 稔が切羽詰まった声で、純に問い掛ける。
『んだ? 何が有った。狂兄ちゃんは、俺が取り込んだから、もう出ねぇぞ』
 純の言葉を聞いて、稔の動きがピタリと止まる。

 稔はユックリと言葉を選ぶように
「僕は、今本気で君達の冗談に付き合う暇は無いんです。狂を出して下さい」
 純に向かって、低い声で告げた。
『だから、もう居ないんだ。狂兄ちゃんと俺は、人格を統合した。俺は、工藤純只1人になったんだよ』
 純も負けずに稔に静かな声で、説明する。
 稔はその言葉を聞いて愕然とし、両手で携帯電話を掴むと
「それは、狂の技術は消えてしまったと言う事ですか?」
 純に真剣に問い掛けた。
『んにゃ、狂兄ちゃんのスキルも、知識も全部引き継いだよ。今はどちらの能力も、俺のモンだ』
 純は稔に静かに答える。

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