夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊66

 稔は美香の手をギュッと握りしめ
「これが[悲しい]って事なのかい…。これが[悲しい]なら僕は知りたく無かった…。美香が居なく成るのと引き替えなんて嫌だ! 美香…、美香…駄目だ、僕を置いて行かないで呉れ…お願いだ…。僕に[嬉しい]や[楽しい]を教えてくれ…、もっと、もっと一緒にいてくれ!」
 美香に縋り付いて涙を流す。
「はい…、はい…。美香は一緒に居たいです…。美香は稔様と同じ時を過ごし、笑い逢える日を夢見ていました…。ですが…、私…身体が…」
 美香の幸せそうな顔が、苦痛に歪み呼吸が速くなる。
「美香! 美香〜!」
 稔が絶叫すると、タタタタッと足音を立て、丸っこい物が稔の横を通り
「稔君、まだ諦めてはいけません! 私は[気]を送ります。君は[希望]を送って下さい!」
 美香の鼠形部に両手を当て、真が稔に告げる。

 溝口はこの初めて見る奇妙な人物を、流石に止めようとしたが、梓が溝口を止め更に現れた、弥生の雰囲気を見て動きを止めた。
 そして、溝口は自分の医者としての常識を覆される。
 真が両手を添え出すと、血の気が引いていた美香の身体に赤味が差し、呼吸が落ち着いて来た。
 弥生が看護士の横に立ち、[酢酸?]と問い掛けると、看護士はその美貌に飲まれながらコクリと頷く。
 弥生は手に持っていた、古くさい薬箱を開き、軟膏を取り出すと
「洗浄はもう良いわ…。脱脂綿と長尺ピンセットを貰えるかしら」
 看護士に指示を飛ばす。
 看護士は弥生の雰囲気に飲まれ、[はい]と返事を返して、急いでピンセットと脱脂綿を手渡した。
 弥生はクルクルと、ピンセットに脱脂綿を巻き付け、選んだ薬を塗りつけると、美香の子宮に塗布し始める。

 薬を塗られた美香は、楽に成ったのか全身の緊張を解き、うっすらと微笑みながら、稔を見詰める
 稔はその美香の微笑みに応えるように、穏やかな笑みを表情に浮かべ、ユックリと頷く。
「うれしい…、本当に…夢が叶った…。やっぱり、稔様の笑顔…とっても素敵です…」
 美香が呟くように稔に告げると
「まだだよ…。もっと、もっと僕を笑わせて…、美香なら出来る…。ううん…美香じゃなきゃ、駄目なんだ…」
 稔は美香に微笑みながら、優しく告げた。
 美香の頬を止めどなく涙が流れ、満足そうな微笑みを浮かべる。

 そんな中、溝口の目を奪ったのは、なんと言っても真だった。
 真の身体は溝口が見守る中、SFXバリに萎んで行く。
 パンパンにはち切れそうだった身体が、見る見る皺に埋もれ、細く成って行ったのだ。
 だが、溝口の驚きはそれだけでは、無かった。
 美香に薬を塗り終えた弥生が、衣服を脱ぎ捨てると手術台の下に入り込み、真とSEXをし始める。
 すると、真の萎む身体が、逆に元に戻り始めた。
 そして、今度は手術台の下にいる弥生の身体が、その張りを無くし衰えて行く。

 溝口はその様を見て、開いた口が塞がらなかった。
(な、何だこれは…。俺は、夢を見てるのか…)
 溝口が驚いていると
「さて、どうやら私達も、力に成れそうですね…」
「へへへっ、分院じゃ俺は、只の足手まといでしたから、ここらで汚名返上しますかね」
 そう呟きながら、黒沢と山孝が手術室に入る。
 もう、溝口には収拾がつかなかった。
 溝口の見ている前で、山孝が弥生と肌を合わせ、その美貌を取り戻すと、再び真に貫かれ、弥生が衰え、今度は黒沢が相手をする。
 4人分の[気]を与えられた美香は、脈拍も心拍も呼吸も正常に戻り、安らかな寝息を立てていた。

[ふぅ]と大息を付く真を、愕然とした表情で見詰め
(なんだこの出鱈目な集団は! 瀕死だったんだぞ! 重篤な状態だったんだぞ! 死ぬ確率の方が高かったんだぞ! なんでそれが、あんな簡単に持ち直すんだ!)
 心の中で、喚き散らしている。
 溝口の見立てでは、7割の確率で死ぬ筈だった美香が、真が手を当て始めてから、僅か4時間で完全に持ち直した。
 溝口は真の力を全く知らない。
 だから真が行った事が、どれだけ困難な事なのか理解していなかった。
 稔は美香の手を取り微笑みながら涙を流し、梓は真の首にしがみついて口吻の嵐を降らせる。
 そんな中、美紀は泣きながら、廊下を走り去る。

 美紀は大きなショックを受け、涙が止まらなかった。
 1つは美香が生涯、子供を産めない身体に成った事である。
 それも、自分の嫉妬心から起きた出来事が原因であった。
 拉致されただけでも、美紀にとっては身を引き裂かれる思いだった。
 だが姉は、それ以上の非道を行われてしまう。
 美紀の考え無しの行動が、美香から女の幸せを奪ってしまったのだ。

 そして、同時に美紀は稔の奴隷にも、成れなくなった。
 稔の感情が美香により、示された為である。
 稔が公言していた、[特別な存在]その座を美香が手に入れたのだ。
 稔は美香の為に、泣き、悲しみ、そして嬉し涙を流した。
 美香の窮地が、稔に感情を与えたのだ。

 美紀はその中で、美香の生還を素直に喜べ無かった自分を憎悪する。
[お姉ちゃんさえ居なければ]そう思ってしまった、自分が恥ずかしくて悔しかった。
 美紀はもう自分の感情をどうして良いか解らない。
 謝れ無い、祝え無い、喜べ無い、強い感情がぶつかり合って、どうしようも出来無かった。
 美紀は気付けば、金田の病室の前に居た。

 美紀は金田の病室の扉をスッと開け
「パパ…起きてる…」
 金田に声を掛ける。
 金田の身体がむくりと起きあがり、美香を見詰めて首を縦に振った。
 金田は、美紀の声で目を醒まし、ニコニコと微笑んで、美紀を招き入れる。
「パパ…美紀…もう死にたい…」
 美紀は金田の首に縋り付き、泣き出した。
 美紀は金田に全てを語り、号泣する。
 金田は美紀に頬摺りし、微笑みながら美紀を慰めた。

◆◆◆◆◆

 佐山は分院から這々の体で帰ると、直ぐに行動を起こした。
 伸一郎がマンションに抱える奴隷30人のデーターと自分が管理しているメイド32人のデーターをカタログにして、顧客に送りつける。
 内容は[奴隷大量放出、完品奴隷30体、欠損奴隷32体ネットオークション開催中。明日の土曜日夜20時まで]と本文に書いて出した。
 カタログに書かれた競りの開始値段は、普段のオークションの半値以下で有る、もう形振り構わぬ叩き売り状態だ。
 それが終わると、全ての有価証券の預け書と貯金通帳を鞄に押し込み、印鑑を入れた。
 そこまですると、人心地着いたのか、眠りに付く。

 次の日の早朝、佐山は目覚めるとパソコンを確認する。
 ネットオークションでは、62体全ての奴隷に買い手が付いていた。
 しかも、佐山が見ている間に、ドンドン値段がつり上がって行く。
 佐山はほくそ笑み
「へへへっ、この調子なら、良い金になるぞ…」
 思わず呟いていた。

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