夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊68

 純はニヤリと笑い、キサラを見詰めると
「いや、そうは成らねぇ…。今竹内の家が持ってる株の総数は、20%ちょい。俺がバラして持ってる株の総数が40%、竹内の会社の社員達が持ってる株が15%、残りが市場に流れてる株だ…。俺が伸也に売らせたんだ。あいつ、俺の嘘にまんまと引っかかって、自分の家の株を大量に放出してくれた。で、大量にあいつが保有してる株…何を隠そう、今回の為のゴーストカンパニーだ。あいつがせっせと集めた株券は、ハッキリ言って紙屑と一緒だ」
 純が仕掛けた罠の1つを説明する。
「それって、完全な詐欺じゃん…」
 キサラが驚いて、ボソリと呟くと
「あん? 知らねぇよ。法律の外にいる、極悪人叩きつぶすのに、こっちが法律気にしてどうする」
 純はキサラにあっさりと告げた。

 呆気に取られているキサラに
「伸也の野郎、今の自分の損失2億円程だと思ってるが、実際はその10倍以上だ…。騙されたのが解ったら、あいつ驚くぜ」
 純は呟いて、クスクス笑う。
(この子…極悪人だわ…。敵に回さないようにしないと、本気で身ぐるみ剥がされちゃう…)
 キサラは純を見詰め、顔面を蒼白にする。
 純は伸也を騙し、伸一郎の所持する株券を吐き出させ、全く価値の無い株券を買わせていた。
 伸也は純の手の内で踊らされ、取り返しの付かない事をしていたのだ。

 キサラが純の毒気に当てられ、フラフラとその場から消えると、稔が静かに口を開く。
「純…。柏木は何処です…」
 稔の質問はストレートで、その視線は純の嘘を許さない物だった。
 稔の言葉に、庵が驚き純と視線を合わせると、小さく首を振る。
「2人が結託している事は、知っています。ですが、状況から考えて、庵が柏木を逃がすと言う失態をする筈が有りません。そう考えると、答えは自ずと出て来ます。もう一度聞きます、柏木は何処ですか?」
 稔は完全に、2人が柏木を隠した事を見抜いていた。
 純は溜め息を吐き、稔の視線を真正面から受け止め
「ああ、お前の言うように、柏木は捕まえてる。けどよ、それを聞いて、お前はどうするつもりだ?」
 純は端的に稔に問い掛ける。

 稔は真っ直ぐに純を見詰めたまま
「罪を償わせます」
 静かに、しかし迷いのない声で言い切った。
 純はその答えを聞き、大きな溜め息を吐いて
「おめぇ、馬鹿か? 一体何の罪を償わせる! 美香を潰した事か? 金田を改造した事か? 人体実験した事か? それについて、お前1人がどうやって、罪を償わせるんだ! お前は、全員の代行者か? 何様のつもりだよ!」
 純は稔に怒りを向け、捲し立てる。
 しかし、稔は純の怒りを受けても、一歩も引かなかった。
「この、胸の中で渦巻いている、煮え立つような…掻きむしりたくなるような感覚…。これが、[怒り]と言う物なんですね…。この感覚が僕に告げるんです。[柏木の身体を引き千切れ]と!」
 稔の双眸が怒りに燃え、純を睨み付ける。

 純はズイッと身体を前に押し出すと
「お前よ…何か勘違いしてねぇか…。俺達は、今他人様に掛けた迷惑を、収拾してるんだぞ…。俺達の勝手で始めちまった事、それを納める事が先決だろうよ! お前の思い込みで、クソ爺に利用され、挙げ句の果てに、500人からの人間巻き込んで、大事に成ってんだ! それの収拾を付ける前に、お前は何の駄々を捏ねてんだ! 俺等も同じなんだよ! あの爺や、お前がムカつく柏木とな! 学校中の生徒に取っちゃ、俺等の方が極悪人なんだよ!」
 稔を怒鳴りつける。
「稔さん…。私も、同じ意見です。今は、柏木の事より竹内達を潰す事が先決です」
 庵が静かに稔に告げた。
 稔の身体がブルブルと震え、ダンと大理石の机に拳を振り下ろす。
 稔はそのまま何度も拳を振り落とし、俯いたまま大きな溜め息を吐いた。

 暫くの沈黙が流れると、稔はユックリと顔を上げ
「解りました。純の言ってる事は、正当です。僕は全力で罪を償いましょう」
 純を睨み付けながら、静かに響く声で告げる。
(ったくよう…、言葉と顔が全く合ってねぇぞ…。感情を持て余すって、こう言う事なんだろうな…)
 純は稔の顔を見て、辟易しながら溜め息を吐く。
 稔の顔は、何ら怒りを収める事も無く、純を睨み付けていた。

 純はウンザリとした顔で、稔の前に茶封筒を投げる。
 バサリと音を立てて、眼の前に落ちた茶封筒を、怒りを浮かべた表情で稔が取り上げると
「これは?」
 純に問い掛けた。
「お前が調べた事と、俺が調べた事…繋げたヤツだ…。それ読んで、お前の怒る先、決めろ…」
 純はそう言うと、背もたれに凭れ頭の後ろで手を組んだ。
 稔はその封筒から、書類を引き出し、ジッと読み耽る。
 稔の顔がその怒りを、深く濃く変えて行く。

 稔は自分の読んだ分を庵に手渡し、庵がその調査書を読む。
 読み続ける内に、2人の表情が、暗く恐ろしい物に変わって行った。
 稔が最後の調査書を読み終えると、庵に渡しながら、その視線を純に向け
「これは、本当の事ですか…」
 稔は重く低い声で、純に問い掛ける
「俺の調査力を信じないのか?」
 純が静かに稔に問い掛けると
「済みません、語弊が有りましたね。余りにも、おぞましすぎて、信じたく無かっただけです…」
 稔は純に怒りを噛み殺した声で、謝罪した。

 庵が最後の調査書を読み、全てをまとめると茶封筒に入れテーブルに置く。
 それは、とても丁寧な動作だったが、庵の表情を見れば、それは怒りを抑える為に、冷静を装っている事が一目瞭然だった。
「これ…。沙希の両親の話…本当ですか…」
 庵の掠れる声が、純に問い掛けると
「ああ、本当だ。沙希の母親は、再婚何かしてないし、父親も実父だ。佐山が、催眠術で記憶を変えたんだ。父親は、沙希と母親を売らされて絶望のまま孤独死し、母親は伸一郎に責め殺された。沙希が、佐山の催眠に掛かり易かったのも、この時に既に催眠を掛けられてたんだろう。母親の死ぬ様は、竹内傘下のネットワーク管理会社のデーターベースに残ってた…」
 純がボソボソと庵に告げると、庵の腕がブンと振り下ろされ、[ドオン]と言う轟音と供に、大理石のテーブルに叩き付けられた。
 大理石のテーブルは、真っ二つに割れ、床に転がる。
 3人は佐山の罪を認識した。
 3人の怒りは、全ての元凶に向けられ、激しく燃えだした。

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