夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊69

 純は庵が破壊した、テーブルを見詰め
「庵…。弁償な…」
 冷たく呟くと、庵は純をジッと見詰め
「佐山にツケといて下さい…」
 ボソリと呟く。
 純は庵の言葉に[ケッ]と吐き捨てると
「最後の難問だ…。マジでよ、どうする? 佐山のメイド達…」
 頭の後ろで組んで居た手をユックリと膝に移動させ、その手の上に顎を乗せて純が溜め息を吐く。
「何が難問なんですか?」
 庵は佐山のメイドに掛けられている暗示が、救出のネックになっている事を知らず問い掛ける。

 純は庵に事情を話すと、庵がニヤリと笑った。
「おい、何がおかしい…。お前、まさか打開案があるのか?」
 純が庵に問い掛けると
「ええ、とびっきりの打開案です。実は、メイド達に取って、沙希が佐山と同じ位置に居るんです。佐山の暗示を沙希が全て解除出来るらしいんです」
 庵は純に沙希の状況を説明する。
 純は庵の説明を聞き、思わず椅子から立ち上がり、庵にしがみついた。
「凄〜っ! なんだよそれ、じゃ、問題全部解決じゃん! ちょっと待て、今俺スパイを呼び出す」
 純が携帯電話を取り出すと、庵がそれを手で押さえ
「いや、待って下さい。段取り決めてからにしましょう」
 純の勇み足を止める。
 チームが方向を見定め、落ち着きを取り戻し、回り始めた。

 実働、収集、解析それぞれが得意分野を持ち、1つのチームになると、この3人は異常な能力を発揮する。
 それぞれが、それぞれの役割を割り振って、この後のシナリオが決められた。
 3人は床に座り込み、作戦をたてる。
 その姿は、子供の悪巧みに見えたが、スケールが全く違う。
 そのシナリオには、数百億の金が動き、100人以上の人命が掛かっている。
 だが、それらを全て、この3人の少年は掌の上で転がし、コントロールするのだ。

 3人が付き合わせた顔を上げると、シナリオが出来上がる。
 お互いがニヤリと笑い合い、悪巧みは出来上がった。
「よし、庵…。んじゃ、お前は溝口ん所で世話になってる者の移動だ。稔は、マンションで飼われている奴隷30人の家族の避難を頼む。それが、済んだら速やかにマンション奴隷の移動。俺は、スパイに計画に必要な物を手配する」
 当面の計画を伝え、頷き合った。
「準備ができ次第、計画を実行だ」
 純が告げると、3人は立ち上がった。

◆◆◆◆◆

 佐山は自室で、自分の逃亡の準備をしていた。
 あっちこっちに電話を掛け、脱出経路を模索する。
 そんな時、扉をノックして明日香が入って来た。
「失礼します。あの…、ただいま、工藤様から呼び出しが有ったのですが、出掛けても宜しいでしょうか…」
 明日香は目を伏せ、佐山に許可を求める。
「あん? あのガキから…。ったく、もう学校は金に成らねぇから、あんなガキ関係ねぇ。そんな呼び出し、シカトしろ」
 佐山はにべもなく明日香の依頼を却下した。

 明日香は佐山の言葉を聞いて愕然とし、ガックリと肩を落とす。
(ああ〜…、逢えると思ったのに…。やっと掛かってきた電話なのに…)
 明日香は狂に逢えると思って、胸をときめかせて居たのだが、そんな気持ちを全て打ち砕かれた。
 ガックリと肩を落とし、ペコリと頭を下げ退室しようとする明日香を、佐山は呼び止め
「ん…、ちょっと待てよ…。あいつの持ってる、プログラムは金に成るか…」
 顎に手を当て、ブツブツと呟く。
 明日香はピタリと動きを止め、佐山の次の命令を待つ。
「良し、明日香…行って来い。あいつと逢って、あいつのプログラムを手に入れて来い」
 佐山はニンマリと笑って、明日香に命令した。
「はい、解りました」
 明日香が深々と頭を下げ、命令を受け取った。

 佐山は明日香を呼びつけると、明日香は佐山の元へ急ぐ。
 佐山の前で立ち止まった明日香の髪の毛を、佐山は乱暴に掴み
「良いか、何を使っても。どんな手段を使っても、プログラムを手に入れるんだ。お前の身体は道具だ」
 乳房を握りながら、明日香に命じる。
「はい、私の身体は道具です。どんな手段を使っても、プログラムを手に入れます」
 佐山はニヤリと笑うと
「失敗したら、またあの犬小屋で飼ってやる。今度は、お前がくたばる迄だ…」
 明日香に冷酷に告げた。
 その言葉を聞き、明日香の目が大きく見開かれ、顔面が蒼白になると、身体がガタガタと小刻みに震える。
 佐山は満足そうに笑うと、乱暴に明日香を投げ出し、[行け]と命じた。

 明日香は震える身体を押さえつけ、佐山に一礼し自室に戻る。
 明日香はメイド服を脱ぐと、白のブラウスに黒のタイトスカートを身につけた。
 何の飾り気もない服だったが、明日香はメイド服以外はこれしか持っていない。
 無論下着など、一枚も持っていなかった。
 だが、明日香はまだマシな方である。
 運転が出来無い他のメイドは、この飾り気の無い服すら持っていない。
 明日香は白のパンプスを履くと、佐山の元へ向かう。

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