夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊72

 暫くすると、料理が運ばれ、明日香がテーブルに運ぶ。
 明日香はペタリと床に正座すると、だいぶん落ち着いたのか、落ち込むのを止め、俯いて純を上目がちに見る。
「おう、食おうぜ…」
 純が明るい声で、明日香の前に座り、頼んだピザを抓み始めた。
 純が食べると、明日香も手を伸ばし、食べ始める。
 だが、明日香は心ここにあらずの状態で、食事を楽しんで居るようでも無い。
 純の顔をチラリと見ると、頬を染めモゾリと足を摺り合わせる。
 そんな明日香を見て、純は明日香の顔を覗き込み
「おい、覚えてるか…。俺がこの間言った事…」
 唐突に質問した。

 明日香はその言葉と、いきなり間近に現れた純の顔に驚いて
「は、はひ! お、お、覚えています。はい、覚えています!」
 声を裏返して、純に答える。
「ん? よし、じゃぁ、言ってみろ」
 純が、明日香に畳み掛けるように問い掛けると
「あ、は…い…。抱いてやる…と…」
 明日香はどぎまぎしながら、純に答えた。
「で、お前は嫌なのか?」
 更に、純は息も吐かせぬタイミングで問い掛けると
「い、いえ! 飛んでも御座いません! 是非、お願いしたいです」
 明日香は顔を上げ、純に答える。

 その言葉を聞いた純は、スッと明日香の真正面に顔を突き出し、ニッと悪戯っぽく笑って軽く明日香の唇にキスをする。
 驚く明日香に向かって
「んじゃ、食べさせてやる、こっちに来いよ」
 無邪気な微笑みを向けて、明日香を手招いた。
 その微笑みを見た瞬間、明日香の子宮が[ドン]と感じた事の無い衝撃で揺れ、フラフラと純の言葉に従う。
 明日香が純の横に来ると、純は明日香の両手を後ろで組ませ、その手を左手で掴む。
「手は要らねぇ…。ほら、口開けろよ…」
 明日香の身体を左手で引き寄せながら、純は右手でピザを運び、明日香に食べさせた。

 そのピザは、まだ湯気が立つ程熱く
「あふ、あふ、あふ〜!」
 明日香は口をパクパクとさせ、目に涙を浮かべる。
 しかしその目が、大きく見開かれ、点に成った。
 純が明日香のオレンジジュースを、口に含み口移しで流し込んだからだ。
「悪いな、熱かったか? でも、これで大丈夫だろ…」
 純が唇を放し、明日香に謝ると、ブンブンと首を縦に振り、頷いた。
(今何された! 今何して貰った! 今何して頂いたの! 私…、私、私! 口移しで、ジュース頂いたの! この方から)
 明日香は余りの出来事に、パニックに成ってしまう。

 だが、明日香が首を縦に振った瞬間、純の笑顔がニヤリと意地悪く歪む。
(あっ! わ、わざと…わざとだ…)
 純の悪意に気付いて、明日香が目を見開くと、純は自分で一口分を食べ、抗議し掛ける明日香の口を塞ぎ、噛み砕きながら、明日香の口に舌で流し込む。
 純の舌がピザを押し込み、明日香の舌に擦り付け、翻弄する
「んく、ん、んはっ、んん〜〜っ、んあっ…。あふぅ〜〜〜っ」
 突然の口移しに、明日香の目は蕩け、腰がガクガクと震えた。
「どうだ、旨いだろ?」
 唇を放した純の問い掛けに、明日香はトロリと蕩けた視線で、コクンと頷く。
 純は明日香の口の周りに付いた、食べかすやソースを、啄むようなキスで取り、舌で優しく舐め上げ
「ほら、綺麗な顔が汚れたぜ…」
 優しくソッと、耳元に囁く。

 純の囁きに明日香は胸の奥が、キュンと音を立てて締め付けられる。
(いやん…綺麗だなんて…。あっまた、何かの意地悪…)
 明日香は頬を真っ赤に染め、純の言葉に胸をときめかせたが、直ぐに先程の微笑みを思い出し、固く閉じた目を開いて確認しようとした。
 だが、その目の前に有ったのは、意地悪い歪んだ微笑みでは無く、あどけなく美しい少年の微笑みだった。
 それをまともに見た明日香は、思わず息を呑み、抱きしめたく成ったが、両手は塞がれている。
「まだ要る?」
 あどけない微笑みを向け、小首を傾げながら、二口程になったピザを見せ、純が問い掛けると、明日香は思わずコクンと頷く。
 純はその明日香の口に、ピザを食べさせる。
(あ、あれ…今度は口移しじゃ無いの…)
 明日香がそう思った瞬間、純が明日香の口からはみ出した分を口に含み、食べ始めた。

 驚き戸惑う明日香を尻目に、純は一気に明日香の口の外に出た一口分を食べ、唇を合わせる。
 そのまま純の舌が、明日香の唇を割り、明日香の口の中に侵入すると、明日香の咀嚼した分と、自分の噛み砕いた物を、2人の口中で捏ね回し、嚥下した。
 純は唇を合わせたまま、明日香の口の中に
「お前の唾液…美味しいよ…」
 囁いて、ユックリ唇を放す。
 明日香はハアハアと荒い息を吐きながら、自分の口の中に残った分を嚥下した。
 明日香は頭が真っ白に成った。
 次に純がどんな表情をするのか、どんな事をするのか、どんな事をされるのか、どんな事を言われるのか、全く予想が付かず、しかも、そのされた事で、自分の身体がドンドン反応するからだ。

 これが、工藤純だった。
 純は言わば希代のペテン師である。
 天使の微笑み、少年のあどけなさ、男の意地悪、悪魔の冷笑、多様な表情を使い。
 無邪気な雰囲気、酷薄な雰囲気、優しい雰囲気、獣の雰囲気、様々な雰囲気を纏い。
 少年の懇願、睦事の囁き、情熱的な求愛、圧倒的な命令、色々な声音を駆使し。
 女心を引きつけ、舞わせ、堕とし、追いやって、弄び翻弄させ、快感に浸らせる。
 純の加虐対象は、身体では無く心だった。
 それも、女心限定である。

 純は明日香の耳元に、口を寄せ囁く
「俺に抱かれたいんだろ…。まだ、前戯も始まって無いぜ…。そんなんで、ホントに保つのかよ…」
 明日香はゾクゾクと背筋を快感が走り、ウットリとした表情を浮かべ
「は…、は…ひ…。保ち…ます…。保たせ…ます…」
 必死の声で純に告げる。
 純はニヤリと微笑むと
「うん、可愛いよ…、さぁ、ご飯の続きだ…」
 優しい声で、啄むような口吻を頬に当て、ピザを手に取る。
 明日香は蕩けた表情で、大きく口を開け、舌を伸ばして雛鳥のように待った。
 その姿は、純に翻弄される事を喜び、委ねた者の姿だった。

■つづき

■目次4

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊